小林 満

テキサス州立大学 MDアンダーソンがんセンター(テキサス州)

MDアンダーソン癌センターを見学して

米国テキサス州ヒューストンのMDアンダーソン癌センター放射線治療部門を2007.10月から12月末までの3ヶ月間見学する機会を得ました。乳癌部門に4週間、頭頚部部門に4週間、悪性リンパ腫部門に2週間、メラノーマ・肉腫部門に2週間のスケジュールでした。

何から何まで初体験

最初から、色々なことがありました。3ヶ月間滞在したアパートは個室だと思って入ったら実は3人部屋でした。研修医や学生用のアパートなのでベッドのシーツや毛布は自分で用意しなくてはなりません。私はそのことを知らなかったので何も用意していませんでした。部屋はしっかり空調が完備されており、寒いくらいでした。勝手に温度調節しないでくれとコントローラーに張り紙がされていたので触るわけにはいきません。むきだしのマットレスの上に寝ようと思いましたが寒くて眠れませんでした。仕方が無いのでブレザーを着てその上から持参した白衣を二枚、重ね着して丸まって寝ました。この時ばかりは何でこんなところに来たのだろうと思いました。3人部屋といっても寝室は別別で台所とトイレが共用の部屋でした。ルームメイトは2人ともとても良い人で助かりました。ベッドのシーツを売っている店の場所と行き方、路面電車の乗り方、切符の買い方など色々と教えてくれました。“初めてのおつかい"の幼児と同じで、私としては何から何まで初体験なのです。『所変われば、こんなにも何もかも微妙に違うものか』と今更ながら驚きました。私は3ヶ月の短期研修だったので自転車で我慢しましたが、1年以上研修する場合には自動車は欠かせないと思いました。どうもアメリカでは歩いて移動するという考え方はないようです。移動は原則的に自動車です。自家用車を持っていない人は路面電車やバスを利用しているようでした。

世界有数の放射線治療施設

MDアンダーソン癌センターの放射線治療部門には放射線治療装置が18台、CTシミュレーターが6台、X線シミュレーターが1台あります。スタッフとしてはシミュレーター専任技師が9名、放射線治療専任技師が47名、放射線物理士が36名以上(診断部門とあわせると約60名)、dosimetorist(線量分布図作成士)が35名、放射線腫瘍医が43名でした。この他、レジデントや事務職員が大勢いましたが、把握できませんでした。文字通り世界有数の放射線治療施設です。頭頚部の治療部門においては、放射線治療はできるだけ治療期間が延長しないようにしていました。すべての患者さんに対応していたかどうかは定かではありませんが、祝日のために週に4日しか照射できないときには祝日の前日か翌日に1日に2回照射したりしていました。放射線治療装置1台に技師が2人から3人で1日に30-35人の患者さんを治療していました。IMRTや定位照射などの特殊な照射がある場合には1日に20-25人の患者さんを治療しているとのことでした。治療専任技師は男性対女性が1対3で、女性の技師さんが多くいました。

仕事は完全に分業化されており、責任の所在が明確になっています。患者さんの診察、治療方針の決定は放射線腫瘍医が、シミュレーター撮影はシミュレーター専任技師が、線量分布作成はdosimetoristが、治療装置の精度管理は放射線物理士が、照射は治療専任技師が担当し、すべての工程に医師が関与する体制となっています。

治療装置の進歩に頼るのではなく、
様々な工夫をし、地道な努力をする

患者さんへの説明、診察には充分な時間をかけていました。各部門毎に合同カンファレンスがあり、全ての患者さんは合同カンファレンスにて治療方針が決定されます。例えば頭頚部部門では、初診の患者さんは必ず、頭頚部外科医と化学療法専門医と放射線腫瘍医の3科の医師が別々に診察をし、合同カンファレンスにて手術をするか化学療法か放射線治療かの治療方針が決められます。化学療法に対する期待が高く、実際に専門医による化学療法は良く効いているという印象を受けました。進行癌の場合、化学療法にて腫瘍の縮小を待って、IMRTにより根治を図る例が多いように思いました。放射線治療は急速に進歩していますが、各部門の放射線腫瘍医は治療装置の進歩に頼るのではなく、様々な工夫をし、地道な努力をしていました。そのことを実感できただけでも、この施設に来たかいがあったと思いました。

若い人はどんどん海外研修に行きましょう

頭頚部部門の責任者はDr.Gardenであり、大変親切に私に付き合ってくれました。また、胸部部門の責任者の小牧先生は一見無愛想ですが、面と向かってお話するととても親切でした。この病院の放射線治療部門に来る日本人は全て小牧先生のお世話になっているそうです。半年前からリサーチフェローとして来られていた徳島大学の生島先生と、私と同時期に研修に来られていた大阪市立総合医療センターの池田先生のおかげで、思いがけず、楽しい臨床見学が出来ました。出来れば若いうちにこのような世界有数の施設で数年間、暮らせば(勉強しなくても)、とても良い経験になるだろうと感じました。若い人はどんどん海外研修に行きましょう。

将来、MDアンダーソン癌センターで研修したいという人がおられたら、その人に私から助言があります。第一は、受け入れ先の責任者は小牧先生にお願いするのがよいと思います。ただし、小牧先生はすでに大分日本語を忘れておられますのでメールや手紙の内容は英語で記載するのがよいと思います。第2は、J-1ビザを取得することになると思いますが、相手の事務は、直前までなかなか手続きしてくれません。そのつもりで早めに準備をしておく必要があります。

以上、MDアンダーソン癌センター見学の思い出を思いつくまま書かせて頂きました。最後に、このような貴重な経験をさせてくださった小川教授と医局の先生方にこころから感謝申し上げます。

追伸:現在、福山市民病院にて放射線治療専任で仕事をしております。ピナクルに張り付いています。鳥取大学での放射線治療の経験が大変役立っています。小谷先生、道本先生、菅先生と治療担当の技師の皆様に御礼申し上げます。

左) Dr.Garden(右)と筆者
右)小牧先生(左)と筆者