柿手 卓

ニューヨーク マウントサイナイ医科大学(ニューヨーク州)

ニューヨーク留学報告

2012年4月より2013年3月にかけて1年間、アメリカのニューヨークにあるマウントサイナイ医科大学(現 Icahn School of Medicine at Mount Sinai)放射線科腹部MRI診断部門に留学させていただきました。

マウントサイナイはニューヨーク マンハッタンのセントラルパークの隣、高級住宅地として知られるアッパーイーストサイドと対照的なスパニッシュハーレムとの境界にあります。ユダヤ系の病院で1852年開業、1868年に医学科を併設した歴史ある病院、大学で、病床数は約1100床、MRIは実験機も含めて9台が稼働していました。

国際色豊かなラボで

留学させていただいたDr.Taouliのラボはまだできて間もなく、ポスドクフェローが2名(アルゼンチン、フランス)、学生1名(アメリカ)、リサーチコーディネーター1名(ドイツ)に、時折レジデントの2名(1名はチリ)が加わる小さな、とてもアットホームで、国際色豊かなラボでした。ラボの仲間たちは数学者や物理学者などいままで接したことのない人たちでしたが、とても気のいい仲間たちで、いまでも連絡は取り合い色々と質問させていただいております。留学先の直属のボスであるDr.Taouliは2012年日本核磁気共鳴医学会で講演されるなど、現在最もアクティブな腹部MRI研究者の1人として知られ、肝臓の拡散強調像(Intravoxel Incoherent Molecular Imaging:IVIM含めて)、エラストグラフィー、パーフュージョンといった機能を絡めた画像を主に研究されています。ボスには肝細胞癌とIVIMパラメータとの関連性の研究、IVIMパラメータの再現性の研究及び肝細胞癌の遺伝子発現と画像との関連性といったテーマをいただきました。

IVIMとは1986年にLe Bihanらによって提唱された拡散強調像の分析法の1つです。現在多くの施設で使用されている拡散強調像により計算されるADC値(Apparent Diffusion Coefficient)は真の拡散係数の他に、微小循環により決定されるパラメータが含まれています。しかし、微小循環によるパラメータは拡散係数に比べて極めて小さな値であり、現在はこれを無視して使用されています。これに対して、IVIMとは微小循環の影響も考慮する拡散強調像の1つのことです。SIb=SI0(PFe-bD*+(1-PF)e-bD) といった式を用いてPF: perfusion fraction, D: true diffusion, D star: pseudo-diffusionを計算していきます。PFが微小循環割合、Dが真の拡散係数、D starが灌流を拡散とみなした係数となります。これにより腫瘍、肝実質の微小血流を非造影にて評価することが可能となります。私はIVIMを用いた治療前後の肝細胞癌におけるパラメータの違いや短期間での再現性の研究をさせていただきました。

肝臓癌の遺伝子発現と画像所見の研究においては、肝臓遺伝子グループの日本人教授星田先生の下、対象となる画像所見の選定、評価を担当させていただきました。現在、肝臓癌の遺伝子研究において、遺伝子発現の組み合わせと予後/進展度合いの関連性が数多く報告されています。これら遺伝子発現と画像所見にも関連性について検討を行いました。

安心して留学できる都市で多くのことを勉強

なかなか1年で結果を残すことは困難でしたが、研究計画の策定、解析法の選定といったことも含めて、多くのことを勉強させていただいた1年となりました。

ニューヨークの生活ですが、おそらく皆様が想像されるよりは、安全で快適だと思われます。生活面では日系スーパー、書店、レンタルDVD、語学学校なども数多くあり、大抵の日本のものは揃います。また、多くの店員さんは日本語を話し、英語にうんざりした時などはいい息抜きにもなりました。安全性についても、年々向上しており、私達がいた2012年には史上初めて、殺人事件の1件もなかった日があり、大々的に新聞記事になっていました。マンハッタンは家族連れの方でも比較的安心して留学できる都市のひとつではないかと考えます。

あっというまの1年

仕事、生活の他にはレジャーですが、休暇はフェローには5週間与えられていました。自分は夏と冬に1週間ずついただき、グランドキャニオン、イエローストーンとカンクン(チチェンイッツァ)に行ってきました。以前より訪ねてみたかった場所を訪ねることができ、とてもいい思い出となりました。ニューヨーク自体もミュージカル、美術館、MLB、NBAなど様々で、これらを見ていくだけで、1年はあっというまです。

このような貴重な経験をさせていただき、小川教授をはじめとする放射線科の諸先生方には大変感謝しております。留学生活で得られた知識と経験を少しでも還元できるよう、これからも微力ですが尽くしていきたいと考えております。ありがとうございました。

左) Mount Sinai 外観
中央) 新築されたラボ
右) ラボの仲間たち メトロポリタン美術館のBarにて

左) タイムズスクエア