橋本 政幸

アーヘン大学医学部 放射線科(ノルトライン=ヴェストファーレン州)

ドイツアーヘン大学病院放射線科研修報告

アーヘン大学病院(Pauwelsstraße30, 52074 Aachen,Germany)の放射線科はギュンターIVCフィルターなどで有名なギュンター教授の教室です。大学病院の規模は約1500床で、中世ヨーロッパの古城と近代化学工場を掛け合わせたような奇抜な建物です。

私のお世話になった診断放射線科の他、実験放射線科、神経放射線科、放射線治療科、核医学科にわかれており、それぞれ主任教授がおられます。

毎朝8時からの45分間は画像診断のカンファレンスがおこなわれます。指導医が毎回10症例程度の画像を提示し研修医がその場で読影するスタイルで、私が滞在した期間のみ英語で行われました。(ギュンター先生不在の時はドイツ語になりましたが・・・)カンファレンスのあとはほとんど血管造影室ですごしました。院内限定の医師免許をいただく前は見学と介助が中心でしたが、許可がおりてからは症例を選んでさまざまな処置を行わせていただきました。

日本との診療内容の違い

診療内容は日本とはずいぶん異なり、閉塞性動脈硬化症や透析シャントのインターベンションなど血管系の治療が多く、次いで、肝転移や腎癌に対するCTガイド下のRFA、中心静脈ポートの留置、TIPSやステントグラフト、静脈血栓症の治療、肺AVMの塞栓術、内視鏡を使わない経皮胃瘻造設などのほか、1ヵ月に1例くらいの割合でHCCのTAEもおこなわれていました。PTCDは透視下穿刺だったりRFAは全身麻酔下に行われたりと、日本との違いも興味深かったです。PTAに関しては、論文ではメタリックステントの優位性を報告されているにもかかわらず、現場では“I don't want to see a lot of metal in the air."と言いながらメタリックステントの留置に慎重であったギュンター先生の姿が印象に残りました。最近になって、ドラッグエルーティングステントでさえ慢性期の血栓症の問題がクローズアップされるようになってきており、中期的な臨床データより経験にもとづく動物的カン(?)のほうが真実に近いこともあることを学びました。深部静脈血栓症に対してはもっと頻繁にギュンターフィルターが使用されているのかと思っていましたが適応は思いのほか慎重でした。下大静脈の浮遊血栓の治療では(製品化の予定はわかりませんが)メッシュフィルターとスクリュー型の血栓破砕カテーテルが組み合わされた装置により、ほんの数分で巨大血栓が完全に消失したのは衝撃的でした。ステントグラフトはTALENT stent-graftが主に使用されていました。CVポートは原則として静脈造影下の穿刺でした(日本人より穿刺が難しいので)。RFAに関しては、ドイツのベンチャー企業製の新しいシステムを多く見ることができました。理由はわかりませんが、焼灼に要する時間は日本よりずいぶん長く、焼灼中は患者さんを麻酔科医に任せてコーヒーを飲みに行けるくらいでした。

ミニレクチャーの機会を得て

研究報告や教育講演を目的とした定期的なカンファレンスは毎週水曜日の夜に行われており、私もミニレクチャーをさせていただく機会を与えていただきました。日本で10年近くにわたって(のんびりと)行っている人工大動脈弁の経皮留置実験を紹介したところ、興味を持っていただいた実験放射線医学のシュミッツ・ローデ教授のご厚意で人工補助心臓を使った基礎実験をさせていただきました。その際、ウレタンを使った弾性血管モデルや緻密な樹脂製大動脈弁、さらには(私のつたない設計図をもとに)試作デバイスを手作業でつくってくれたDrプフェッファーにこの場をかりて感謝したいと思います。

最後に、ギュンター先生をはじめドイツ研修でお世話になったみなさま、研修を支援していただいた日独放射線交流計画、研修を強く勧めていただいた鳥取大学放射線科小川教授および教室の皆様、そして慣れない外国生活で私を支えてくれた家族に感謝して報告を終わりたいと思います。

おまけドイツ研修メモ

  • 通貨
    ユーロ(1ユーロ=130ー160円台くらい)イギリスなど一部の国を除きどこでも使えます。
  • 滞在ビザ
    原則として居住地(ドイツ)の市役所で申請。入国後3ヵ月以内。滞在目的、期間、滞在費用の証明、研修機関からの招聘状が必要。(ドイツで医療活動を行う場合は、日本の医師免許と戸籍謄本、日本の健康保険加入証明、履歴書、日本での無犯罪証明書、医療訴訟の当事者でない証明、日本の所属機関からの推薦状、ドイツ語(中級)修了証書などが必要で、いずれもドイツ語への翻訳と公証人による証明が必要です。)<大学病院限定の医師免許/州が発行>なお、EU加盟諸国には国境がありません。ひとたびヨーロッパに入ってしまえば、その他の国へ自由に行き来できます。
  • 気候
    夏は40度近くなる時もありますが、空気が乾燥しているので日陰に入ればすずしいです。夜10時ごろまで明るいので、子供が寝てくれません。冬は寒いとマイナス10度から20度近くなる時もありますが、通常はマイナス一桁です。朝は10時ごろにようやく明るくなり昼間でも木の影が長いです。夕方4時には日が暮れています。
  • 生活
    • 治安はよく、大都市の繁華街を除けば夜ひとりで出歩いても大丈夫でした。
    • 物価は日本とほぼ同じくらいですが、最近はユーロ高のためやや割高です。
    • 水は(アーヘンは水道水が飲めましたが)多くの人は炭酸入りの水を買っていました。
    • 観光地の飲食店をのぞき、大半のお店は夕方6時、土曜は午後1時に閉店します。日曜日はデパートも含め大半のお店がお休みなので昔の日本のお正月のような感じです。週末でも大きな駅かガソリンスタンドに併設された売店は時間限定で営業していますが、食料などを買い忘れると、泣きながらバスに乗ってオランダやベルギーまで買いに行く羽目になります。
    • 会話:観光地や駅、病院内(おもに医師)は英語で大丈夫ですが、役所やお店などではドイツ語でなければ通じないこともけっこうあります。困った時は若い人を探しましょう。
    • 幼稚園:住民登録をすると市役所から近くの幼稚園を紹介されますが、定員に空きがなければ入れません。うちの長女は、4月に申し込んで、結局新学期のはじまる9月まで待たされました。日本と異なり、年齢の異なる(3-6歳)子供たちをごちゃまぜにしてひとクラスです。幼稚園は午前中までですが、毎日お弁当を持たせてやります。お弁当はおなかがすいたらいつ食べてもOKです。
    • アパート:日本のアパートよりもむしろ買取りマンションに近い感覚で、基本的には長期間住むことが前提のようです。短期貸しに応じてくれる大家さんを探すのは少々大変です。大学のゲストハウスが利用できるなら迷わずそちらを選びましょう。
    • その他:アメリカと異なり、日本人に出会うことはまれです。ネットなどを利用し、あらかじめ協力者を探しておく方が無難です。また、生活習慣の違いや病気のことなど、下調べは重要です。

左) アーヘン。
中央) アーヘン大学病院。
右) 同僚と。

左) Dr.J Pfefferと。
中央) Prof.RW Güntherと。
右) アーヘンドーム:8世紀ごろの建築でドイツの世界遺産第一号。西フランク王国のカール大帝の戴冠式が行われた。

左) 大学病院限定の医師免許/州が発行。
中央) アーヘンの町並み(妻と次女)。
右) レムシャイドのレントゲンミュージアム。指輪をはめた奥さんの手のレントゲン写真の展示の前で。