高杉 昌平

アサン メディカルセンター(ソウル)

韓国アサンメディカルセンター短期留学記

2013年7-8月の2ヶ月間、韓国アサン・メディカルセンター(AMC)に短期研修する機会を頂きましたので報告致します。AMCは開院が1989年と比較的新しい病院で、病床数2,800床、1日外来患者数10,000人、入院患者数2,500人、手術室67室と韓国最大規模、アジアでも屈指の大病院です。当然ながら放射線科についてもCT15台1000件/日、MRI14台200件/日と日々膨大な数の検査が行われ、IVR部門もアンギオ装置9台100件以上/日、年間約25,000件の検査・治療が行われる一大部門でした。病院はソウル中心部から南東、韓国最大河川の漢江(はんがん)沿いにあり、近隣にはオリンピック公園や河岸公園がありジョギングやサイクリング、夜は素晴らしい夜景を楽しむことができます。

貴重な症例を逃すまいとする執念は見習いたい

今回の研修目的は豊富な症例数を通してIVR医として研鑚を積むことでした。最多のIVR治療はHCCに対するTACEで、7室あるbody partの血管造影室のうち、6室並列でTACEが行われることもありました。シスプラチン製剤の動注/ TACEによる独特な方法で良好な治療成績が得られており、鮮やかな5F RH型カテーテル操作が印象的でした。AMCではAngio-CTを備えておらず診断・治療精度の点ではデメリットに感じましたが、DSA装置を駆使し短時間で最大限の効果を上げる工夫なされていました。その他印象に残ったのは閉塞性黄恒に対するPTBD (経皮経肝胆道ドレナージ)で、透視ガイドのみで穿刺が行われ(超音波ガイド穿刺は殆んど行わない)、ある程度拡張した胆管であれば大抵1-2回の穿刺で胆管にヒットしていたのは驚きでした。十分な解剖学的理解、入念なCT観察に裏打ちされており、自分にとっては肝脈管解剖を見直す良い機会となりました。この他にもVasucularPlugを用いた門脈塞栓術 (PTPE)、胃静脈瘤治療や、カバードステント (Viabhan)を用いた出血症例への緊急治療など、日本未認可デバイスも多数経験でき、今後の臨床、研究に大いに役立つものと思われました。AMCでは興味深い症例、教育的な症例は常にチェックされ毎週の早朝カンファレンスや、治療終了後に毎日行われるフェロー/スタッフによる症例レビューで共有されており、貴重な症例を逃すまいとする執念は是非見習いたい点と思われました。私の滞在中IVR部門には4人のフェローが在籍しており、彼らは画像診断の研修後、卒後6年目で初めてIVRを専門に選択します。IVR医としては数か月程度の経験しかありませんが1人1週間ずつ夜間救急対応のdutyがあり、一応指導医のバックアップ体制はあるものの殆どは自ら適応を判断し治療にあたっていました。翌朝指導医とのディスカッションの後、そのまま通常勤務に突入するハードな日々ですが、AMCではレジデント、フェローへの教育が非常に熱心であり、研修先としてのAMC人気を支える一因と感じました。大動脈ステントグラフト治療は、放射線科、循環器/ 血管外科で行われていました。TAVI(経皮的大動脈弁置換術)を見学する機会もあり、2種類の市販デバイスを見ることができ、TAVI国際カンファレンスでは上行大動脈アプローチがトレンドとなっており外科優位の手技であることを実感しました。

英語コミュニケーション力を鍛える

本研修のもうひとつの目的は、世界中から外国人医師が訪れるAMCで英語コミュニケーション力を鍛えることでした。研修中IVR部門には中国、香港、フィリピン、アメリカから医師が訪れ、互いの病院ではどんな治療がcommonか?このケースは自分の病院ならどう治療するか?などなど、英語でのコミュニケーションに迫られる状況に身を置くことができました。研修2か月目には20分程のプレゼンテーションの機会もあり、緊張のあまり今までに経験しない程発汗しましたが無事完遂できたことは大きな自信となりました。寮生活では1ヶ月間をパナマ人とルームシェアし常に英語で会話する環境にありました。AMCのスタッフ、特に若い世代は英語学習に積極的であり、ようやく英会話に対する抵抗が薄まった自分との差を感じました。この経験を是非今後に生かしたいと思います。最後に本研修の機会を与えて下さった小川教授、神納准教授に深く感謝すると共に、留守中何かとバックアップして下さったIVRチームに心よりお礼申し上げます。

左) アサン・メディカルセンターの外観。3つのビルと研究棟、教育棟、寮からなる。各建物は地下通路で繋がっており雨の日も安心だった。 中央はドクター、左は放射線技師。
中央)治療中の風景。AMCではAIS (Angio-lntervention Specialist)という専門トレーニングを受けた看護師が助手をしている(右)。
右) 治療の合間にディスカッションするAMCスタッフ(右)と筆者(左)香港人医師 (後ろ)

左) Viabahnステントグラフト。非常に柔軟で対キンク性が高い。5-6mm径デバイスは腹部仮性動脈瘤の緊急止血に用いられる。
中央)プレゼン終了後にAMCスタッフ、外国人医師らと記念撮影。左より香港人医師、レジデント、Yoon教授、アメリカ人医師(2名)、筆者、フェロー(3名)
右) Farewell party2次会にて。AMCフェロー、レジデント、外国人医師らと別れを惜しむ。

髙杉昌平 | スタッフ紹介