矢田 晋作

アサン メディカルセンター(ソウル)

韓国留学体験記

2011年8月から2ヶ月間にかけて、韓国アサン・メディカルセンター(AMC:図1)に短期研修する機会を頂きましたので、ご報告いたします。

AMCは2、800床を擁し、1日約80-100件、年間約25、000件のIVRが行われており、多数の症例を見学すること、英語の環境の中で国際感覚を養うことが目的でした。

各科に世界中の外国人医師が研修に訪れる

ここでは年間300件を超える肝移植が行われており、移植外科を中心として、各科に世界中の外国人医師が研修に訪れています。研修中、IVR部門には中国人、ウクライナ人が研修に来ており、2ヶ月間宿泊していた職員寮では、フィリピン人(耳鼻科)、ナイジェリア人(整形外科)、台湾人(移植外科)と入れ替わりでルームシェアをし、常に英語で会話する環境にありました。 AMCのIVR部門には、7人のProfessor、3人のFellow、2人のResidentがおり、7つのアンギオ室に分かれてIVRが行われていました(別にNeuro-intervention用のアンギオ室が2つあり)。そのうち1つはResidentがひたすらCVラインを取る部屋(この病院では各診療科でCVラインを取らず、放射線科でCVラインを取るそうです。CVポートはほとんどなし。20-30件/日)、1つはFellowが日替わりで担当する部屋(もちろん難渋する場合やトラブルがあった場合はヘルプが入ります)、1つは消化器系IVRの部屋、他の4つは各Professorが日替わりで担当しています。CVライン部屋と消化器部屋以外では、各部屋でHCCに対するTACE(韓国でもHCCは多い)や、閉塞性黄疸に対するPTBD(経皮経肝胆道ドレナージ)が行われていますが、これ以外に、各部屋を担当するProfessorにはそれぞれ専門分野(大動脈ステントグラフト、胆道ステント、UAE、血管奇形の硬化療法、腎瘻・尿管ステント、門脈系IVR、肝移植後合併症に対するIVRなど)があり、これらのIVRも散りばめられていました。

日医放やIVR総会など大きな学会で興味ある講演を聴きに部屋を移動する如く、事前に興味深い症例をチェックしておいて(RIS画面上、症例や手技は英語表記されている)、予定の時間になれば、見学する部屋を移動していました。そこに出血に対する緊急TAEの症例が入り込むと(ほぼ毎日出血症例あり)、またそちらに移動するといった感じで、常にいずれかの部屋で何らかの興味深いIVRを見学することができる環境であり、このような病院は日本のみならず世界中探してもなかなかないのではないかと思います。

日韓の英語教育の違いを目の当たりに

まず、最初に驚いたことは、IVRの介助を行っているのは若い医師ではなく、AIS(Angio- Intervention Specialist)というIVRのトレーニングを受けた看護師がおり、彼女らが介助していること、しかも非常に正確かつスピーディーに介助を行っていることでした(図2)。手技の経過を注意深く観察しながら、術者が次に必要としているデバイスを的確に判断し、術者が言わずとも手元に用意し、あらゆるデバイスのセットアップも行っていました。そして、医師のみならず看護師も技師もスタッフのほとんどが英語に堪能であることにも驚きました。上述の通り、世界中の医者が研修に訪れているため、これを受け入れる側が英語を話せることは必然なのだと思われますが、特に若い世代はnative speakerかと思えるほど流暢な人が多く、日韓の英語教育の違いを目の当たりにした思いでした。

国も違えばIVR手技や使用できるデバイスも異なる

今や日本では当たり前になったIVR-CTが1台もなかったことも新鮮でした。もちろんコーンビームCT(Cアームを回転しながら撮影してCT-like imageを作成)も行っていません。1日30-40件あるHCC症例のうち、CTAPあるいはCTHAを行うのは術前の症例など1日1、2件でした(これはCT室に移動)。透視やDSAのみで、どうやって腫瘍や栄養血管を同定するのか、興味深く見学しました。

これだけの症例を抱えており、IVR医はベッドを持つのは当然不可能です。また、術前のインフォームドコンセントは全て主治医がとり、アンギオ室で初めて患者と対面するのに違和感がありましたが、致し方のないことでしょう。また、非常に多くの件数をこなさなければならず、圧迫止血をする時間もありません。そのため、止血器具を使っていたのですが(図3)、器具を使って大腿の穿刺部を圧迫止血されている患者同士がアンギオ室の受付で横並びになっている光景は日本人にとっては少し異様に思えました。

国も違えば、保険適応となるIVR手技や使用できるデバイスも異なっており、Vascular Plug®(図4)、 DC-Beads®(ドキソルビシン溶出ビーズ)などの塞栓物質、胆管用retrievable stentを初めて目にしました。私個人としては、門脈系IVRを勉強している最中であり、もっと多くのB-RTO(バルーン閉塞下逆行性経静脈的塞栓術)、TIPS(経頸静脈的肝内門脈肝静脈短絡術)を見学したかったのですが、これだけの大病院でも2ヶ月間で各2件、1件しかなかったのは少し残念でした。この病院では肝切除術が多いこともあり、毎日1-2件のペースでPTPE(経皮経肝的門脈塞栓術)の症例があり、PTPEについては十分見学できました。スピードがすべてではありませんが、Vascular Plug®とゼラチンスポンジを用いて、10分で終了していたのは驚愕でした。

同世代のFellow3人もいい刺激に

自分と同世代のFellow3人もいい刺激になりました。1週間ずつ交代しながら、Fellow1人が病院で夜間待機し、毎日数例の緊急症例を対処していました。驚くほど上手というわけではないですが、何とか自分で解決するハートの強さに感心しました(これも必要時には、毎日交代で待機している上司をコール)。「昨日の夜こんな症例で呼び出されて、こうやって治療したけど、お前だったらどう治療する?」と症例を呈示され、ディスカッションすることも度々でした。

仕事が終わると、近くの飲み屋街に連れていってくれ(図5)、仕事のこと以外にも、家族のこと、日韓それぞれの文化、習慣、食べ物、スポーツなど、いろいろな話をしたのを覚えています。 ほとんどの症例では室外で他の外国人医師と「次はこうやって攻めるだろう」「多分あのデバイスを使って治療するだろう」「お前の国ではどうやってる?」など英語でディスカッション(雑談?)していましたが(図6)、時々介助に入らせてもらっていました(流儀や使用するデバイスが違うこともあり、AISのようにうまく介助できませんでしたが)。

英語でプレゼンテーションすることに多少抵抗がなくなる

研修期間中は、Neuro-interventionの部屋に忍び込み、Onyx®を使ったAVMの塞栓術を見学したり、ソウル国立大学やサムソン・メディカルセンターでのIVRの見学ならびにTaewoong社でのステント製造の見学の機会もいただき、非常に有意義な時間を過ごすことができました。 留学前には英語で外国人に話しかけるのは非常に勇気がいりましたが、今では話しかけること、英語でプレゼンテーションすることに多少抵抗がなくなったのも大きな収穫です。

これらの貴重な経験を今後に生かしたいと思います。研修中、温かく接してくださったAMCのスタッフの方々はもちろんですが、このような機会を与えていただいた小川教授、神納准教授に深く御礼申し上げます。

左) 図1 アサン・メディカルセンターの外観。ソウル中心部の南東、オリンピック公園の近くにあります
中央) 図2 2人のAIS(Angio-Intervention Specialist)が介助している様子。それを覗き込んでいる2人の大男はウクライナ人医師
右) 図3 左が止血圧迫用の器具.右がこれを使用して圧迫止血している様子

左) 図4 Vascular Plug.伸縮自在で、下図のように引き伸ばされた状態でdelivery systemに収納されており、リリースすると上図のような形状でdeployされます.留置する血管の状態に合わせて4種類を使い分けます。
中央) 図5 仕事の後はFellow、Residentと飲み屋街の人気店で食事.中央のFellowは年下ですが、貫録があります.いつも優しく接してくれて感謝。
右) 図6 アンギオ室の外では外国人同士でディスカッション(談笑しているようにも見えますが).左から中国人、ウクライナ人、筆者。

矢田 晋作 | スタッフ紹介