研究課題

1.ヒト幹細胞から機能性肝細胞への分化誘導技術開発の研究プロジェクト

 平成20年に文部科学省再生医療実現化プロジェクト幹細胞分化誘導技術開発領域(http://www.stemcellproject.mext.go.jp/)に、私たちの研究課題が採択された。肝不全治療は、肝移植が理想的だが、わが国では十分なドナーが得ることは不可能であり、幹細胞による肝再生治療の開発が急務である。慢性肝不全患者への肝細胞移植治療による再生医療の実現のため、ヒト幹細胞を機能性肝細胞へ分化させる、真に臨床応用可能な効率的な分化誘導技術を開発することを目標にしている。 私たちは、ヒト間葉系幹細胞が肝細胞へ分化する際にWnt/beta-catenin経路が抑制され、Wnt/beta-catenin経路を抑制することで肝細胞への分化が促進されることを見出しました(Am J Physiol Gastrointest Liver physiol 293, 1736-40, 2007, Hepatol Res. ,37,1068-79, 2007, Hepatology. 48,597-606, 2008)。   本研究課題は、Wnt/beta-catenin経路抑制性低分子化合物を作成し、最も有効な化合物を選択し、有効な化合物と組織シートを組み合わせ、最大の分化効率を得る、安全な分化誘導法を開発することを目標に、平成20~23年度に施行する。 ヒト間葉系幹細胞のほか、iPS細胞、ES細胞の肝細胞への分化誘導技術開発も進めている。

2.遺伝子・細胞治療に携わる臨床研究者育成プログラム開発:肝臓癌遺伝子治療研究

 平成19年度科学振興調整費「科学技術連携施策群の効果的・効率的な推進」事業における「遺伝子・細胞治療に携わる臨床研究者育成プログラム開発」に採択された。本事業は、岡山大学、香川大学、川崎医科大学、鳥取大学、山口大学ならびに四国がんセンターが連携して進めるプロジェクトで、基礎的研究から創出された新しい医療シーズを臨床応用に結びつけるための基礎研究を行い、遺伝子・細胞治療に関するシーズを発展させ、3年間で前臨床試験(動物実験)が終了し、本事業を推進する過程で、若手研究者を育成するためのプログラム開発を行うことを目的としている。 本学のプロジェクトは、抗癌剤感受性増強遺伝子を用いた新規の肝臓癌遺伝子治療についての研究を行っている。

 3.レチノイン酸の肝臓領域での作用の解析と標的遺伝子同定による新規治療法開発

 ビタミンAの活性体であるレチノイン酸は、生体の発生、免疫、増殖、細胞死に関与し、重要な役割を担っている。肝臓においてビタミンAは、肝類洞で肝臓の生理的機能発現に重要である肝星細胞に大量に貯蔵されている。肝星細胞に貯蔵されるビタミンAは、レチノイン酸へ変換されたのち、肝細胞の核内に存在するレチノイン酸受容体に結合する。レチノイン酸は、坑酸化作用を有し、種々の酸化ストレスから肝細胞を保護していると考えられている。ところが、慢性C型肝炎〜肝硬変〜肝細胞癌への進展過程で、肝星細胞のビタミンAが消失する。私たちは、肝星細胞のビタミンA減少による抗酸化作用の低下が肝細胞癌発生の一要因であることを証明した。すなわち、肝細胞特異的にレチノイン酸受容体を欠損させたマウスでは脂肪性肝炎を経て、肝細胞癌を発症することを報告した(Hepatology 40,366-75,2004)。最近、レチノイン酸が肝臓の鉄量を減少させ、その結果、酸化ストレスの発生を抑制することを見出した(Gastroenterology, in press)。 レチノイン酸は、AGGTCA配列に囲まれた5塩基の配列を認識して、結合することが報告されており、私たちはレチノイン酸の標的遺伝子の中から、坑酸化作用、細胞死誘導作用などをもつ遺伝子を同定することを目的に研究している。このような遺伝子は、ひとの肝疾患の治療や予防に有効であると推定され、これらの遺伝子を用いた遺伝子治療を構想している。