婦人科手術・化学療法

1.はじめに

当院は日本婦人科腫瘍学会専門医制度の指定修練施設であり、また、日本産科婦人科内視鏡学会の認定研修施設です。 婦人科腫瘍専門医3名、内視鏡技術認定医4名、ロボット手術プロクター1名、がん治療認定医5名、細胞診専門医7名が在籍し、チームで婦人科悪性腫瘍の治療を行っています。

婦人科悪性腫瘍には子宮頸がん、子宮体がん、卵巣がん、外陰がん、腟がんなどがあります。当院では婦人科腫瘍専門医を中心として、各症例に最適な手術療法・化学療法・放射線療法を組み合わせた集学的治療を行います。初回治療・再発治療ともに、最新のエビデンスに基づいた的確な選択肢の提示が可能です。また、放射線治療科、病理診断科、遺伝子診療科と定期的なカンファレンスを開催し、他科とも連携を行います。

2.婦人科悪性腫瘍の手術の適応と基本術式

ロボット支援下手術について

2018年4月の診療報酬改定で、ロボット支援下腹腔鏡下子宮全摘術、ロボット支援下子宮悪性腫瘍手術(子宮体がんに限る)の2術式が保険適用となりました。当科では子宮体癌IA期の大部分と子宮頸癌IA期に対してロボット支援下手術を行っています。
ロボット支援下手術は、daVinciサージカルシステムという手術支援ロボットを用いて行います。自由度の高い操作性と拡大視野、3D画像による高い視認性が特徴であり、低侵襲かつ精緻な手術を確実に行うことが可能となります。

写真 | 手術支援ロボット
写真 | 手術支援ロボットをセッティングしています。
写真 | 実際の手術風景
写真 | ここで手術支援ロボットを操作しています。
写真 | 両目で覗くと3D映像になっています。
写真 | ロボット支援下手術の実際の創部
子宮頸がん

子宮頸癌IA期に対しては、当科ではロボット支援下手術を行っています。ロボット支援下手術は、開腹手術と比較して、傷も小さく、腸閉塞などの術後合併症が少なくなります。
IB期からIIB期に対しては子宮と骨盤リンパ節の摘出(広汎子宮全摘出術)を行います。当科では、広汎子宮全摘出術後の排尿障害を回避するために、可能な限り神経温存広汎子宮全摘出術を行っています。当科で行われた神経温存術式と、これまでの非神経温存術式の広汎子宮全摘出を比較すると、神経温存術式群において、周術期合併症や術後の神経因性膀胱が有意に少ないことが分かっています。
再発腫瘤やがんの広がりによっては、他科と連携して膀胱や直腸などの骨盤内臓器を合併切除する(骨盤除臓術)場合もあります。

写真 | 神経温存広汎子宮全摘出術
子宮体がん

子宮と両側付属器(卵巣・卵管)および骨盤リンパ節の摘出(準広汎子宮全摘出術あるいは広汎子宮全摘出術)を行います。当科ではIA期のほとんどの症例に対して、ロボット支援下手術を行っています。子宮体癌IA期に対するロボット支援下手術の件数は、中四国地方でトップクラスです。医療従事者の手術見学も随時受け付けています。

写真 | 子宮体癌に対するロボット支援下手術
写真 | 子宮体癌に対するロボット支援下手術での骨盤リンパ節郭清
卵巣がん

初回手術時に完全摘出が可能と予想された進行がんに対しては、両側付属器(卵巣・卵管)、子宮、大網の摘出を行います。骨盤および傍大動脈リンパ節の摘出を行う場合もあります。
当科では、初回手術時に完全摘出が不可能と予想された進行がんに対しては、がんの種類や広がりを知るために審査腹腔鏡(腹腔鏡検査)を行っています。また、手術中に腹水を回収し、腹水濾過濃縮再静注法も行っています。抗がん剤による治療を行った後に完全摘出を目指した根治術を行います。

3.妊孕性温存療法(妊娠の可能性を残す治療)

① 早期の子宮頸がんが対象となります。子宮頸部円錐切除術でIA1期と診断がついた場合は、慎重な経過観察をした上で妊娠は可能です。IA2からIB1期の浸潤した子宮頸がんの手術術式としては子宮をすべて摘出することが一般的です。当科では、妊孕性を残す目的で広汎子宮頸部摘出術という手術も検討します。この手術は、子宮の頸部と骨盤リンパ節を摘出した後に残った子宮の体部と腟とをつなぎ合わせる手術です。この手術が可能かどうかは、がんの広がりや大きさによって異なります。

② 子宮体がんの治療では、通常子宮の摘出をおこないます。しかしながら、条件を満たした早期の子宮体癌で妊娠を強く希望される患者さんでは、ホルモン療法による子宮温存療法が考慮されます。治療後は慎重に経過観察をおこないます。

③ 初期の卵巣がん(IA期)では妊孕性を温存できる可能性があります。 患側付属器とともに大網、骨盤および傍大動脈リンパ節の摘出を行います。 がんの種類や性質によっては、この手術が不可能な場合があります。

④ 妊孕性温存手術は標準的な治療ではなく、慎重にその適応を検討する必要があります。 その施行にあたっては患者本人が挙児を強く希望していることや、患者および家族に病気を深く理解していただくことが必須となります。また、慎重かつ長期間のフォローアップも必要となります。

4.手術後の補助療法

手術によって摘出した組織の詳しい検査(病理組織学的検査)の結果、再発の危険因子がみられる場合には、再発防止を目的として放射線治療や薬物療法などの術後補助療法を行います。薬物療法には化学療法(抗がん剤治療)、分子標的療法、内分泌療法、免疫療法などがあります。補助療法はがんの種類や広がりにより様々です。
最近では、卵巣癌におけるコンパニオン診断(治療薬選択のための検査)としてBRCA遺伝学的検査や相同組換え修復欠損(HRD)検査が承認され、当科でも遺伝子診療科と連携しながら検査を施行しています。

5.がん薬物療法

「がん薬物療法」は化学療法(抗がん剤治療)、分子標的療法、内分泌療法、免疫療法、支持療法などを用いて、がんの進行を抑えたり、症状を和らげたりする治療法です。

婦人科悪性腫瘍に対する薬物療法の多くは点滴投与による全身化学療法であり、抗がん剤が全身を巡ることにより、全身的な効果が期待できます。近年は分子標的療法や免疫療法の進歩が目覚ましく、治療の選択肢が広がってきています。

しかしながら、薬物療法はがん細胞を死滅させるとともに、正常な細胞も障害させてしまう作用(薬物有害反応)も有するため、薬物療法を安全に行うために薬物有害反応をきちんと管理しなければなりません。

当科では、婦人科腫瘍専門医、がん治療認定医を中心に、患者さんの全身状態を確認し、血液検査などを含めた診察を行っています。患者さん自身も治療前に、自分が受ける薬物療法の主な薬物有害反応を十分に理解することが重要になります。毎週月・水曜日の午後に、薬物療法の専門外来を行っています。

外来薬物療法

がん治療には精神的、身体的、経済的に大きな負担が伴います。特に、「治療前と同じような日常生活が送れない」という精神的な苦痛は、「生活の質(QOL: Quality of life)」を大きく損ないます。最近、薬物療法の主な薬物有害反応である吐き気、嘔吐、食欲不振に対して極めて有効な薬剤が開発され、徹底した安全管理を行うことにより薬物療法の副作用は軽減され、多くを外来で行うことができるようになりました。
女性診療科でも一部を除いて、婦人科悪性腫瘍に対する薬物療法は外来で行っています。

写真 | 当院のがんセンターでは、化学療法センターの他にも、がん治療に関連した様々な部門があります。
臨床試験

婦人科悪性腫瘍に対する新しい治療・診断法は、臨床試験により安全性と有効性が確認されて初めて標準的な治療・診断法として確立します。臨床試験には「治験」と「研究者(医師)主導型臨床試験」があり、「治験」は厚生労働省から新しい薬として承認を得ることを目的とし、未承認薬を用いて製薬会社が行う臨床試験です。一方、「研究者(医師)主導型臨床試験」は原則として厚生労働省の承認を得ている治療薬や診断法を用いて、より良い治療法や診断法を確立することを目的とします。患者さんに一つでも多くの治療選択肢を提供できるように、国内および国際共同で実施されている「治験」や「研究者(医師)主導型臨床試験」に積極的に参加するように努めています(参加している臨床試験は末尾参照)

6.治療後のフォローアップ

治療後のフォローアップは毎週木曜日午後の専門外来で行っています。一般の婦人科診察に加えて、腫瘍マーカー検査や超音波検査、CT、MRIなどの画像検査を状態に応じて定期的に行います。腹痛や不正性器出血など何らかの自覚症状がある場合には、受診日以外でも構いませんので、女性診療科外来窓口までご連絡ください。

7.婦人科手術後のリンパ浮腫

婦人科がんの手術でリンパ節を摘出した場合に、術後の合併症としてリンパ浮腫とよばれる下腹部、外陰部、下肢の浮腫(むくみ)がみられることがあります。リンパ浮腫は手術後早期に発症することもあれば、数年経ってから発症することもあります。リンパ浮腫の状態に感染が起こると、蜂窩織炎という強い炎症(熱や腫れ)により入院治療が必要となることもあります。
リンパ浮腫を予防することや、悪化を防ぐことは手術を受けられた方の生活の質を保つためとても重要です。当科ではリンパ浮腫治療のトレーニングを受けた医師(日本医療リンパドレナージ協会医師対象倫理講習会終了)や専門のセラピスト(看護師)により、リンパ浮腫に対するマニュアルリンパドレナージやスキンケアなどによる複合的理学療法の指導をおこなっており、保険診療として受けることが可能です。

8.遺伝性腫瘍(遺伝性乳癌卵巣癌症候群:HBOC、リンチ症候群)

遺伝性腫瘍は、がんに関連する遺伝子に生まれつき異常があるため、がんにかかりやすい状態をいいます。当院の遺伝子診療科では、適切な遺伝カウンセリングと遺伝学的検査が行われ、原因について調べることができます。

遺伝性腫瘍の中でも婦人科に関連するものとして、①遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)、②リンチ症候群が挙げられます。当院ではHBOC診療チームが活動しており、婦人科の他に、遺伝子診療科、乳腺内分泌外科、泌尿器科と消化器内科・外科とともに、多職種連携で遺伝性腫瘍の診療を行っています。

遺伝性乳癌卵巣癌症候群(HBOC)と診断された患者さんで卵巣癌・卵管癌を発症していない場合には、卵管・卵巣を予防的に切除する手術(リスク低減卵管卵巣摘出術)を積極的に勧めています。予防的手術を選択しない場合には、次善の策として卵巣癌・卵管癌・腹膜癌の定期的な検診(サーベイランス)を行っております。

写真 | HBOCの診療チームの構成
写真 | 年1回の特別講演会では全国各地から講師をお招きし、講演を行っています。

9.当院が現在参加している多施設共同臨床研究一覧

略称 試験名
JCOG1101 腫瘍径2cm以下の子宮頸癌IB1期に対する準広汎子宮全摘術の非ランダム化検証的試験
JCOG1203 上⽪性卵巣癌の妊孕性温存治療の対象拡⼤のための⾮ランダム化検証的試験
JCOG1311 IVB期および再発・増悪・残存子宮頸癌に対するConventional Paclitaxel +Carboplatin ± Bevacizumab 併用療法 vs.Dose-dense Paclitaxel + Carboplatin ± Bevacizumab 併用療法のランダム化第II/III相比較試験
JCOG1402 子宮頸癌術後再発高リスクに対する強度変調放射線治療(IMRT)を用いた術後同時化学放射線療法の多施設共同非ランダム化検証的試験
JCOG1412 リンパ節転移リスクを有する子宮体癌に対する傍大動脈リンパ節郭清の治療的意義に関するランダム化第III相試験
JGOG1082 子宮頸癌IB期-IIB期根治手術例における術後放射線治療と術後化学療法の第Ⅲ相ランダム化比較試験
JGOG2051 子宮体癌/子宮内膜異型増殖症に対する妊孕性温存治療後の子宮内再発に対する反復高用量黄体ホルモン療法に関する第 II 相試験
JCOG3020 ステージング手術が行われた上皮性卵巣癌Ⅰ期における補助化学療法の必要性に関するランダム化第Ⅲ相比較試験
JGOG3024 BRCA1/2遺伝子バリアントとがん発症・臨床病理学的特徴および発症リスク因子を明らかにするための卵巣がん未発症を対象としたバイオバンク・コホート研究
JGOG3025 卵巣癌における相同組換え修復異常の頻度とその臨床的意義を明らかにする前向き観察研究
JGOG3026 プラチナ感受性初回再発卵巣癌に対するオラパリブ維持療法の安全性と有効性を検討するヒストリカルコホート研究
JGOG9004 初発子宮頸がん患者を対象とした治療後のセクシュアリティの変化に関する前向きコホート研究
LUFT試験 局所進行子宮癌根治放射線療法施行例に対する UFT 補助化学療法のランダム化第Ⅲ相比較試験

専門外来 女性診療科外来窓口

TEL : 0859-38-6642