鳥取大学器官制御外科学講座
生殖機能医学分野(産科婦人科学)
病院長 原田 省
産科婦人科学教室は昭和19年に米子医学専門学校が開校したと同時に作られました。この75年の伝統を有する産科婦人科学教室は、鳥取と島根だけでなく、広島、山口、兵庫、大阪に関連施設を有しこれらの地域の産婦人科医療を支えています。
産科婦人科学は、周産期、不妊・内分泌、婦人科腫瘍と広い専門領域を包含する臨床科です。
新臨床研修制度が開始されてから、大学以外の病院で研修を受けてからそのまま、大学の教室に入局しないで産婦人科医になる方もあると聞きます。
確かに、第一線の臨床病院では即戦力として、いろいろな臨床手技を早い時期から経験できるというメリットもあり、産婦人科医としての基本的な手技の習得という点では、良いかもしれません。
しかし、この時期に、大学で研修を受けることには以下のような重要な意味があることを認識して頂きたいと思います。
大学では専門医が多く在籍するため、いろいろな知識や考え方をもった多くの先輩に異なった角度から指導を受けることができます。また、同時に後輩の存在も忘れてはいけないでしょう。彼らからの質問に答えて、学生や後輩を指導しながら臨床をすることでどれだけ自分が鍛えられるか解りません。
大学の教室には長年に渡って培われた先輩後輩の絆があります。これを煩わしいと思う方もあるかも知れませんが、医師、特に外科系の医師は、最初は先輩に手取り足取り指導してもらうことが必要です。
特に、私たちの教室は、先輩達が後輩の面倒をよくみるという、誠によい人間関係が伝統的にあることが特徴です。
私自身、先輩の影響もあって不妊治療に興味を持ったことや、医師になる直前に日本で最初の体外受精児が誕生しマスコミにも大きく取り上げられていたことから、「先輩と協力して鳥取大学でも体外受精を成功させたい」という強い気持ちが、初期の臨床研修や研究への動機になりました。
現在では、卒後5年で日本産科婦人科学会の専門医の受験資格が得られ、専門医試験に合格したあとは、それぞれ自分の興味のある分野の専門医を目指して、臨床経験を積んでいくことになります。この時に、最も重要なことは、身近にしっかりとした技術を持った専門医がいる事です。 この点で、私たちの教室には生殖医療専門医が2名、日本産婦人科内視鏡学会の技術認定医が4名、内分泌代謝専門医が1名,婦人科腫瘍専門医が4名、細胞診専門医が5名、超音波指導医1名、周産期(母体・胎児)専門医が2名、と、 それぞれの分野にバランスのとれたスタッフを有しており、十分な教育環境を備えています。
大学の使命は、『先進医療』と『研究』だと考えています。私は、現在、子宮内膜症の基礎と臨床に関する研究を続けています。この研究は、「不妊症の方に多くみられる子宮内膜症がどうして不妊と結びつくのか?」という臨床的疑問から始まりました。この研究には、患者さんから手術時に採取させて貰った腹水中のサイトカイン濃度を測定したり、卵巣チョコレート嚢胞から分離した細胞を対象に分子生物学的手法を使いました。子宮内膜症細胞の増殖に炎症反応が関与することが明らかとなり、炎症のキーメディエーターを指標として子宮内膜症治療薬について検討を続けています。臨床教室ですから純粋な基礎研究ではなく、日々の臨床に直結した治療につながる研究を目指しています。
臨床面では、腹腔鏡下手術を積極的に行っています。平成22年11月からはdaVinciを使ったロボット支援子宮全摘出手術も始めました。また、令和2年からは子宮体がんのロボット手術を開始しました。婦人科腫瘍グループでは、卵巣癌の化学療法に関する基礎的および臨床的な研究を行っています。子宮内膜症と卵巣癌に関する当教室の研究成績は、わが国だけでなく世界的にも認められています。周産期グループは、県内唯一の総合周産期母子医療センターとして、ハイリスク妊娠の管理・治療を行うと共に臨床研究を進めています。
最後になりますが、教室員ひとりひとりが、向上心を持って自分の目標達成に向かって努力することが、教室の力となり発展につながると思います。私は、教室員が少しでも仕事がしやすい場所を提供できるように先輩としてサポートしていきたいと思います。当教室に興味のある方はぜひ見学にいらして下さい。お待ちしております。