太田真貴先生
臨床心理学 講師
鳥取大学大学院医学系研究科
臨床心理学専攻 講師
研究内容
「司法犯罪臨床心理学」
「地域精神保健」
「メンタルトレーニング」
司法精神医学領域での臨床経験から、地域精神保健の機能強化の必要性を感じ研究に取り組んでいます。現在は、若者の自殺予防に関する心の健康教育プログラムの構築、地域で精神障害者を支援するスタッフに対する支援プログラムの構築を主な研究テーマとして取り組んでいます。
若者の自殺予防にSNSは貢献できるか?
新型コロナウイルスによる社会情勢の影響もあり、若者の自殺率は2020年以降増加傾向にあります(表1参照)。こうした社会的背景を受け、厚生労働省の第4次「自殺総合対策大綱」(令和4年10月14日閣議決定)では、「子ども・若者」の自殺対策のさらなる推進・強化や、自殺対策におけるインターネットおよびSocial Networking Service(以下、SNS)の活用推進が国の重要施策の一部として掲げられています。現代の若者にとって、インターネットやSNSは重要なコミュニケーションツールであり、生活の一部と言っても過言ではありません。また、自殺予防対策として実施されている全国的なSNS相談サービスでは、利用者の約80~90%が10代や20代の若者であると報告されています。 しかし、SNSと精神的健康に関する研究では、SNSがポジティブな効果(支持的な対人関係の構築など)とネガティブな効果(依存リスクなど)の両面を持つことが確認されており、その利用方法次第で心の健康にさまざまな影響が及ぶことがわかっています。私が現在取り組んでいる研究では、SNSが単なる情報発信手段に留まらず、心の拠り所や他者とのつながり(個人の居場所)を維持・増進する可能性に注目しています。この「居場所」の存在とそれを育み維持する取り組みは、自殺予防対策において重要な要因とされています(例えば、Joiner, T.E.の自殺の対人関係理論に基づく考え方)。
本研究では、20代の大学生を対象にアンケート調査を実施しました。その結果、身近な「友人」や「家族」が居場所や相談相手として機能している場合、若者の精神的健康にポジティブな影響を与えることが確認されました。また、SNSの利用に関しても、その利用目的によって精神的健康に異なる影響が見られました。例えば、「逃避」を目的とする使用はネガティブな影響を示す一方で、身近な他者との関係を維持する目的での使用はポジティブな関連を示しました。つまり、若者の自殺対策において、オフラインでの対人的な「つながり」を強化することが重要であると同時に、SNSはその補強手段となり得ることが示唆されました。
以上の結果から、SNSはその使用方法を工夫する必要はありますが、若者の心の健康を支え、孤立感を防ぐために重要な役割を果たすことが期待されます。
今後の展望
今後は、この調査結果をもとに、SNSを自殺予防に効果的に活用する具体的な対策を試行する予定です。具体的には、SNSリテラシー教育やSNSの特性を活かして、若者の「つながり」を強化する取り組みを含めたプログラムの試行を計画しています。若者が精神的に健康で生き生きと活動できる社会を目指すことは、社会全体の自殺予防にもつながります。今後も、研究の成果を社会に還元する視点を持ち、より効果的な対策の構築に努めていきたいと思います。
受験生へのメッセージ
大学での学びは、自分自身で考え、意見を述べることから始まります。皆さんが考え抜いて出す意見は、時に簡単に受け入れられないこともあるかもしれませんが、臆せず自分の視点を持ち続けて学ぶことは、豊かな知性と人間的な成長につながります。当専攻では、単に知識を詰め込むのではなく、自分の考えを深め、他者と意見を交わす場でありたいと考えています。そうした経験が皆さんの幅を広げるとともに、私たち教員にとっても新たな視点を得る貴重な機会となるからです。臨床や研究を通じて地域に根ざし、共に貢献していきたいと願う皆さんを歓迎します。皆さんと協働し、地域に役立つ活動や研究を進められることを楽しみにしています。