井筒瑠奈先生
実験病理学分野 助教
鳥取大学 医学部 生命科学科
実験病理学分野 助教
研究内容
- がん死の直接要因となる"転移"を克服する
がんの肝転移を決めるAMIGO2
がん患者の死因の多くは遠隔転移によるものであり、所属リンパ節を除いて肝臓は最も転移しやすい臓器と言われています。しかしながら、肝転移の予防法は現時点で確立されておらず、その詳細なメカニズムの解明が求められています。消化器がんの肝転移は、原発腫瘍から血管に浸潤したがん細胞が門脈系を介して肝臓に到達し、肝臓内の血管内皮細胞に接着することから始まります。したがって転移先の臓器においては、がん細胞による血管内皮細胞への接着が「転移の第一段階」といえます。そのため、がん細胞と肝血管内皮細胞との接着を阻害することができれば、肝転移の予防が期待できると考えています。
私の所属する実験病理学分野では、がん細胞の肝血管内皮細胞への接着、つまり「転移の第一段階」を規定する分子として細胞接着分子Amphoterin-induced gene and open reading frame 2 (AMIGO2)を同定しました。そのメカニズムとして、がん細胞におけるAMIGO2の発現量を増加させると肝類洞内皮細胞との接着が促進される一方で、AMIGO2の発現を抑制させると肝類洞内皮細胞との接着を減弱させ肝転移が抑制されることが分かりました。実際にAMIGO2の発現量が高い大腸がんおよび胃がん患者は肝転移を起こしやすく予後が不良であることから、AMIGO2は肝転移の予防や治療のターゲットになるものと考えています。
近年、細胞が分泌する小さな粒子のひとつであるエクソソームが転移の促進に関わることが多く報告されています。エクソソームは生体内のほぼ全ての細胞から放出され、細胞間のコミュニケーションを担っています。ところが、がん細胞ではエクソソームの機能を悪用し、がんの進展を促進することが分かってきました。最近の我々の研究では、AMIGO2を多く発現するがん細胞が分泌するエクソソームにはAMIGO2が豊富に含まれ、そのAMIGO2を包含するエクソソームは、肝臓の血管内皮細胞に取込まれることによってがん細胞に対する接着を亢進させることや、肝臓の血管外の隙間(=ディッセ腔)に存在する肝星細胞の活性化を介してがん細胞の遊走能を高めるなど、肝転移を促すための臓器環境の改変にAMIGO2包含エクソソームが直接的に関わることを見出しています。
今後の展望
これまでの研究成果から、がん細胞に発現するAMIGO2や、AMIGO2包含エクソソームの分泌が「がんの肝転移」に大きく関与することから、これらをターゲットとすることで肝転移を予防できる可能性があると考えています。今後は、がん細胞におけるAMIGO2の発現制御機構や、AMIGO2包含エクソソームをはじめとして、新たな肝転移予防法の確立を目指して研究を進めていきたいです。
受験生へのメッセージ
鳥取大学医学部では特色ある研究が盛んに行われており、集中して研究に取り組むことが出来る環境が整っていると思います。みなさんと一緒に研究ができる日を楽しみにしています。