阿部玄武先生

発生生物学分野 准教授

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鳥取大学 医学部 生命科学科
発生生物学分野 准教授

研究内容

手足からヒレまで、かたち作りと再生の研究

かたちが作られる仕組みを解き明かし、ヒト疾患の理解や再生に貢献する

 私たちのからだは、外側からは一見シンプルに見えます。ですが皮膚の下には、からだを支える骨格や運動のための筋肉、それらをつなげる腱や靭帯などがあります。また、運動の指示を出す神経や、酸素や栄養を送り込む血管系なども重要です。それらの複雑な細胞、組織構造は、大人の体で言うとおおよそ200種類、総数で約60兆個の細胞で構成されています。
 この膨大な数の細胞は、ですが始まりは一つの細胞、受精卵です。たった一つの受精卵から、細胞分裂により数が増加し、そこから多種多様な種類の細胞が生まれます。さまざまな細胞が時間的、空間的に精緻に配置され、機能的な組織・形を作りだす、この一連の過程を発生と言います。
 この発生過程は人の病気にも関係します。遺伝性疾患の一部は、ゲノムにコードされた遺伝子が、発生の途中で通常とは異なる指示を出すようになって起こります。複雑なかたち作りの中で、特定の要素が十分にできなかったり、また逆に過剰になったりすると、機能する器官構造をうまく構築できなくなったりするのです。
 私たちは、発生過程の中で多種多様な細胞が作られ、どうやって機能的な構造を作り出すのか、そのメカニズムを明らかにしようとしています。それは、特定の遺伝性疾患がなぜ起こるのかを理解するため、またその治癒のためにも、重要になると考えています。そのような発生生物学研究には、たくさんの遺伝子情報や発生過程の観察が必要になり、ヒト以外の実験動物で研究を行う必要があります。私たちはそのために、魚類や両生類を使って研究を行っています(図1)。これらの動物は同じ脊椎動物の仲間で、ヒトとほぼ同じ遺伝子セットを持ち、発生過程の基本的な局面は同じように進みます。また体外受精による発生様式を持つので、経時的な観察が容易に行えるとともに、外来遺伝子の導入やゲノム編集を簡便に行えるなど、分子発生学実験に適した特徴を持っています(図1)。魚類・両生類でまずかたち作りの概要を把握し、それをほ乳類に適用できるようアプローチしていく手順です。

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 また魚類や両生類は、私たちには無い強い再生能力を持っていることでも知られています(図2)。アクシデントで失った器官構造を再度作り出す再生現象は、からだ作りのもう一つの局面と言えます。私たちの体にも高い再生能力を付与できないか、またそれが可能になった時にどのように再生が起こせるのか、そのような視点で、私たちは再生現象の研究も行っています。
 是非皆さんと一緒に、体のかたち作りの不思議や謎、また遺伝性疾患の原因を解き明かしていければと思います。

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今後の展望

 現在私たちは、表皮組織で見られるあるヒト遺伝性疾患に注目した研究をおこなっています。この遺伝性疾患と同じ遺伝子の変異により、サカナのヒレに発生過程で異常が生じます。ただし、その異常は成体になるころには回復してしまうのです。この回復現象がどう起こるのか、またそれをヒトの疾患状況でも起こせないか、解析を進めています。
 私たちはまた、高い再生能力のある両生類や魚類の中で、再生能力が低下する現象に注目した研究もおこなっています。この現象は、再生能力の低いほ乳類と似た状況にあると言えます。魚や両生類の再生能力の低下の原因を探ることで、私たちの再生能力が低い理由を解明し、またそこからヒトの再生能力向上につなげられないか、研究を行っています。

受験生へのメッセージ

 最近学生さんと話した際に「発生は厚めの教科書が出来るくらい、もう十分理解されてしまったのではないですか?」と言われました。その際の自分の答えは「よく分かっていないことがまだまだたくさんある」です。大学で学ぶことは、高度な専門知識だけでなく、ここまでが既知でここからが未知である、という境界を知ることです。あるいは、まだまだよくわかっていない現象が広がっている、という事を目の当たりすることでもあります。知的創造にたずさわった経験は、研究だけに限らず、将来きっと様々な場面でみなさんをわくわくさせてくれるはずです。是非いろいろなことを学び、未知を見つけ、チャレンジしていってください。