金井亨輔先生

ウイルス学 講師

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鳥取大学 医学部 医学科
感染制御学講座 ウイルス学分野 講師

研究内容

  • EBウイルスが引き起こす肝炎の研究

EBウイルスと肝炎

トップ > 研究情報 > この人に注目! 金井先生01 EBウイルス(Epstein-Barrvirus)は、ヒトを自然宿主とするヒトヘルペスウイルスの一種で世界中の成人の70~90%が感染しています(図1)。感染経路は唾液を介した経口感染であり、主に白血球の一種であるB細胞に感染して潜伏感染します。多くの日本人の場合では乳幼児期に唾液を介して感染しほとんどの場合は何の症状も起こしませんが、思春期以降の成人が初感染した場合では伝染性単核球症という病気を起こすことがあります。伝染性単核球症は発熱・のどの発赤・脾臓の腫れなどを主な症状とし、患者さんの約70%では肝炎も起こします。多くの場合は安静にしていることで治りますが、まれに肝炎が悪化して命に関わるような重い症状を起こすことがあります。
 肝炎を引き起こすウイルスとしてB型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスがよく知られていますが、EBウイルスも肝炎に関わるウイルスであることが知られています。しかし肝炎ウイルスとは異なり、EBウイルスは肝臓の細胞には感染できないことから、なぜ成人がEBウイルスに初感染した際に肝炎が生じるのかはまだよくわかっていません。

これまでの研究

 EBウイルス肝炎の発症メカニズムを明らかにするために、私たちはマウスヘルペスウイルス68(Murineherpesvirus68:MHV68)というEBウイルスによく似たマウスを自然宿主とするウイルスに着目しました。MHV68は初感染したマウスに伝染性単核球症によく似た症状を起こすことから伝染性単核球症のマウス実験モデルとして用いられています。私たちはMHV68初感染マウスを詳細に解析した結果、MHV68初感染マウスもヒトと同様に肝炎が生じていることを見出しました。そこで、MHV68初感染マウスを用いて肝炎がどのように生じるのかを明らかにするための解析を行いました。
 食べた食物は胃腸で消化吸収され門脈により肝臓に送られます。この際、腸内細菌の一部も同時に消化吸収されて肝臓に送られることから、肝炎の発症に腸内細菌が関与しているのではないか、という仮説を立てました。この仮説を確かめるために飲水中に抗菌薬を加えたマウス群と抗菌薬を加えていないマウス群に分け、それぞれにMHV68を感染させるという実験を行いました(図2)。飲水に抗菌薬を加えたマウス群では腸内細菌が減少するので、腸内細菌が関係するならば肝炎の症状が抑制されるはずです。実験の結果、抗菌薬を加えたマウス群では加えていないマウス群に比べて肝炎の症状が抑制されていました。この結果から、MHV68初感染マウスに生じる肝炎の発症には腸内細菌が関与している可能性が示されました。

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今後の展望

 これまでに私たちはMHV68初感染マウスを用いた解析から、成人がEBウイルスに初感染した際に生じる肝炎の発症には腸内細菌が関わる可能性を示しました。しかし、どのような腸内細菌産物がどのようにして肝炎の発症に関わるのかはまだわかっておらず、今後のさらなる研究が必要です。現在私たちは、引き続きMHV68初感染マウスを用いた肝炎の発生メカニズムの解析や、原因となる腸内細菌産物の探索を行っています。これら原因となる物質や肝炎発生のメカニズムを明らかにすることにより、将来EBウイルス肝炎の予防・治療法の開発に役立てることを目指しています。

受験生へのメッセージ

 2019年に発生した新型コロナウイルス感染症は世界的な流行を引き起こし、人々の健康に関わるだけでなく、医療体制や社会制度、文化や風習に至るまでに大きな影響を与えました。残念なことですが、おそらく今後も人類が生き続ける限り新たなウイルス感染症の発生が止まることはないでしょう。ですからウイルスを研究対象とする研究者はこれからもずっと必要とされます。もし「ウイルス」や「感染症」という言葉に心が動かされる人がいらっしゃれば、本学で一緒に研究してもらえることを期待しています。