長田佳子先生

薬理学・薬物療法学 助教

 長田先生

長田 佳子

鳥取大学医学部医学科
病態解析医学講座 薬理学・薬物療法学分野 助教
(取材時:病理学講座 分子病理学分野)
※以下の掲載内容は、取材時の研究内容等に基づき掲載されております。

研究内容

・EBウイルス再活性化に誘導される抗体産生経路と自己免疫疾患への関わり

EBウイルスとその再活性化

 Epstein-Barr virus(EBウイルス)はヘルペスウイルスの仲間です。乳幼児期に唾液を介して初感染がおこるとされており、初感染後はBリンパ球の中に終生潜伏感染します。ほとんどの成人はBリンパ球104-6個に1個の割合でEBウイルス感染リンパ球を持っています。乳幼児期に初感染しても症状はありませんが、青年期以降に初感染した人の一部に伝染性単核球症がおこることがあります。
 EBウイルスは普段はおとなしく潜伏感染していますが、宿主の抵抗力が落ちた時などに時折、再活性化をおこして、大量の子孫ウイルスを産生します。

長田先生原稿用画像1

EBウイルス再活性化は自己抗体産生を刺激する

 Bリンパ球は抗体産生細胞である形質細胞に分化するリンパ球ですので、そのBリンパ球に潜伏しているEBウイルスは抗体産生を刺激する可能性があります。
 私たちは自己免疫性の甲状腺機能亢進症であるバセドウ病を対象とし、バセドウ病のもとになっている自己抗体、TSHレセプター抗体(TRAb)の産生をEBウイルスが刺激するかどうかを調べました。まずTRAb産生性のBリンパ球で、かつEBウイルスが潜伏しているものが実際にヒトの末梢血中にいることを証明し、さらにこのような細胞を含むリンパ球にEBウイルス再活性化刺激を加えると、培養上清中にTRAbの産生が確認されました。


長田先生原稿用画像2

 

 

EBウイルス再活性化に誘導される抗体産生経路

 EBウイルス再活性化に誘導される抗体産生経路は、リンパ節や骨髄を通る通常の経路とは別の抗体産生経路です。EBウイルスは再活性化するときに、感染しているBリンパ球を形質細胞へと分化させて抗体を産生させます。
 リンパ節や骨髄を通る通常の抗体産生では、実はリンパ球は厳しい選択を受けるのですが、EBウイルス再活性化に誘導される抗体産生経路ではそれがありません。自己抗体産生性のBリンパ球にとっては自己抗体を産生しやすい経路です。
 EBウイルス再活性化に誘導された抗体は、ちょっと鍛え方の足りない抗体ですが、おそらく骨髄からの抗体とは違う方法で自己免疫疾患の発症・増悪に重要な役割を持っています。

長田先生原稿用画像3

 

今後の展望

 私たちはEBウイルス再活性化に誘導される抗体産生系が、自己免疫疾患の発症・増悪について、どのような役割をもっているのか解明したいと思っています。
 また、EBウイルスに感染した自己抗体産生Bリンパ球は、健常者も持っていますが、病気にはなりません。患者さんのなかでも自己抗体の多い人、少ない人があります。これを左右するEBウイルス再活性化を調節する治療法の開発をめざしています。

 

受験生へのメッセージ

 私はなんでもスイスイと上手にできるほうではありませんので、当然のようにたくさんの壁にぶつかります。でも本来、努力というのは格好悪いものですから、コツコツとひとつひとつ壁を乗り越えていかなくてはならないと思っています。
 どんな状況になっても、あきらめないで、夢をもって立ち上がってほしいです。