大槻均先生

医動物学 准教授

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大槻 均

鳥取大学医学部医学科
感染制御学講座 医動物学分野 准教授

研究内容

  • マラリア原虫の赤血球侵入機構の解明とそれを応用したマラリアワクチンの開発  

マラリアとは

マラリアは、マラリア原虫という単細胞の寄生虫が赤血球内部に寄生して起こる感染症です。ハマダラカという蚊が媒介し、ヒトからヒトへ広がっていきます。
マラリアの主要な症状は40℃近い発熱を繰り返す事で、「悪性マラリア」とも呼ばれる熱帯熱マラリアでは多臓器不全により生命が奪われます。現在患者数2億人、年間40万人の命を奪っている世界で最も重要な感染症の一つです。患者は主に熱帯・亜熱帯地域に多いのですが、第二次世界大戦前の日本にも1万人程度の国内感染者がいました。現在、日本国内の患者は海外で感染して日本国内で発症する輸入マラリアによるものですが、2016年には2名の方が医療機関への受診の遅れから命を落としています。

 

マラリア原虫の生活環

マラリア原虫はヒトと蚊の間を行き来する複雑な生活様式をとっています(図1)。
ヒトの体内では、まず肝細胞に寄生して数を増やした後、血流中に放出され、赤血球に寄生するようになります。そして、赤血球内部のヘモグロビンなどを栄養源として成長・分裂して数を増やし、次の赤血球に寄生します。
この赤血球への侵入が、マラリア原虫にとって非常に重要なステップになります。マラリア原虫は、先端部にある特別な分泌器官からタンパク質を放出し、これを順序よく機能させる事で赤血球膜を破壊すること無く内部に潜り込みます。このタンパク質は赤血球表面のタンパク質と特異的に結合し、原虫の侵入を助けます。
私達は、このマラリア原虫の持つタンパク質の中で「Erythrocyte-Binding-Likeタンパク質(EBL)」と呼ばれる分子に注目しています。EBLが結合できないとマラリア原虫は赤血球に侵入出来ず、増殖できません。

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EBLがどこに運ばれるかで病原性は変化する

私達はモデル生物であるネズミマラリア原虫のうち、ネズミを殺さない低感染性の株とネズミを殺す高感染性の株の2つの株を用いて、以下の実験結果を導き出しました。
1.2つの株におけるEBLの間で、アミノ酸が1つ置き換わっている。
2.この2つの株のEBLは、細胞内の異なった分泌器官に輸送されている(図2)。
3.この2つのネズミマラリア原虫の遺伝子を組換えたところ、EBLの輸送される先がアミノ酸の置換えに応じて変化し、原虫の感染性も変化する事を確認(図3)。
このように、EBLは細胞内のどこにあるかで原虫の感染性を変化させるほど、原虫の赤血球侵入に重要なタンパク質である事が示されました。

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今後の展望

マラリア原虫はEBLだけでなく、他の異なった働きを持つ多くのタンパク質を組み合わせて赤血球に侵入します。そこで、EBLが他のタンパク質とどの様に相互作用をしているのかを解明し、どのタンパク質の機能を断ち切ることで赤血球への侵入を防げるのかを解明していく予定です。この研究で見出す事を目標にしている重要なタンパク質は、マラリアワクチンを開発する際の標的になり得るものです。

受験生へのメッセージ

日本は、野口英世や北里柴三郎をはじめとする世界的な研究者を輩出し、感染症研究に貢献してきました。経済発展に伴う生活環境の向上や抗菌薬等の治療手段の発展で、感染症に対する関心はやや薄れていますが、世界では未だに感染症は猛威を振るっており、日本も今後の社会情勢の変化から感染症の脅威に再度さらされる事が予想されます。
鳥取大学医学部は、今や日本でも珍しくなってしまった寄生虫学・ウイルス学・細菌学の研究室が独立して存在し、連携しながら教育や研究を行っている感染症研究の体制が整った大学です。
医師として感染症対策を目指す方、研究者として感染症に興味を持っている方、それぞれ自分の興味やテーマを追求できると思いますので是非一緒に感染症との戦いに加わりませんか?