土谷博之先生

遺伝子医療学 准教授

 土谷博之(写真)

土谷博之

鳥取大学医学部医学科
ゲノム再生医学講座 遺伝子医療学分野 准教授
(取材時:大学院医学系研究科 機能再生医科学専攻 遺伝子医療学部門)
※以下の掲載内容は、取材時の研究内容等に基づき掲載されております。

研究内容

  • 慢性肝疾患・肝癌の発症メカニズムの解明と新規治療法の開発

 

 

肝癌の発症背景

予後(手術や病気等の回復の見込み)が非常に悪い肝癌は、主に肝炎や肝硬変を背景に発生します。日本の肝癌を起こす肝疾患別割合を見ると、C型肝炎ウイルス(HCV)感染者が約6割を占め、B型肝炎ウイルス(HBV)感染者は全体の15%程度、残りが非ウイルス性の肝癌となっています。
  土谷博之(表1)

HCV関連肝癌は、新しいHCV治療薬の登場によってここ数年で明らかに減少しています。一方、HBVに対しても新しい治療薬が開発されていますが、HBV関連肝癌の割合はほとんど変化していません。また、非ウイルス性肝癌患者は顕著に増加しています。これは、アルコール摂取はほとんど無いにも関わらず肝臓へ脂肪が蓄積してしまう非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)という、メタボリック症候群や糖尿病とよく似た病態の慢性肝疾患患者の増加が原因として考えられています。


研究の方針

以上の現状を鑑み、本研究室では以下2つの観点から研究を進めています。

1.HBV関連肝細胞癌の発癌メカニズムの解明

HBV関連肝癌患者数の減少を達成するためには、既存のHBV治療薬とはまったく異なる、新しい作用の仕組みに基づいた治療薬の開発が必要であることが考えられます。このような考えのもと、私は、これまでとは違った角度から、HBVによる肝癌発症メカニズムの解明に取り組んでいます。

2.レチノイドによる慢性肝疾患制御作用の解明

非ウイルス性肝癌患者の増加原因として考えられている慢性肝疾患患者をいかにして減少させるか。私は、ここでビタミンAの本体であるレチノイドに着目しました。このレチノイドは、様々な生理作用を及ぼすことがわかっており、NAFLDと深く関係しています。
これをヒントに研究を進め、次の発見に成功しています。
・NAFLD患者の肝臓では、レチノイド分解が進むことでNAFLDや肝癌が引き起されている可能性がある
・NAFLD病態を示す実験動物にレチノイドを投与するとNAFLD病態が改善する
・レチノイドが肝臓の脂質代謝や鉄代謝、インスリン感受性を改善する
  土谷博之(表2)

今後の展望

HBVのX遺伝子産物であるHBxは、単独で肝細胞癌を引き起こすことができるウイルス性癌遺伝子です。現在、このHBxが肝細胞内で影響を及ぼす宿主側因子を見極めており、この因子が肝細胞癌発症過程でどのような役割を持つのか、明らかにしようと研究を続けています。将来的には、この因子を標的とするHBV関連肝細胞癌の治療薬の開発につなげていきたいと考えています。
また、レチノイドには抗腫瘍作用を含め、まだまだ隠された生理機能があります。私たちはこれを明らかにし、レチノイドの優れた有効性を利用した、新たな慢性肝疾患治療薬を開発していきたいと考えています。

受験生へのメッセージ


ライフサイエンス研究では、仮説をたて、実験によって立証することで、生命現象を分子レベルで解き明かしていきます。とは言っても、思った通りの実験結果はなかなか出ないので、いつも試行錯誤の繰り返しです。
ただそれだけに、自分の仮説通りの実験結果が出たときこそが研究の醍醐味とも言えます。しかも、それがまだこの世の誰も知らない現象で、更にもしかしたら病気で苦しんでいる人の助けになるかもしれないとなると、夢もどんどん拡がっていきます。解明されていない生命現象は、まだまだ無数に存在します。鳥取大学で皆さんと一緒に研究できる日を楽しみにしています。