世界初、DNAバーコード入りのヒト人工染色体を開発~謎に包まれたセントロメアの内部構造を高精度に解読~

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概要

 このたび、鳥取大学染色体工学研究センターの大関 淳一郎 特命准教授、鳥取大学医学部生命科学科・染色体医工学講座/染色体工学研究センターの香月 康宏 教授らの研究グループは、認識可能なバーコードを組み込んだDNAを組み立てることで、これまで解析が不可能であったヒト人工染色体の構造やセントロメア(※)内部構造を世界で初めて解明しました。

(※)セントロメア:細胞の中で染色体の“中心”にあたる部分で、細胞分裂の際に染色体が正しく分かれるために重要な役割を担っています。

 本研究は、長年未解明だった人工染色体が細胞内で形成・安定化するプロセスを紐解くとともに、セントロメアの機能を維持するために複数の因子が協調して働く「攻防」のメカニズムを明らかにしました 。本成果は、セントロメアと遺伝子が調和して働く人工染色体の設計と操作を可能にし、次世代の遺伝子・染色体工学技術の高度化につながります。将来的には、より精密で安全なモデル動物の作製や遺伝子治療などへも応用が期待されます。

 本研究成果は、2026年6月30日にオックスフォード大学出版局によって発行される国際科学誌「Nucleic Acids Research」に掲載されています。

 

 

ポイント

  • 高詳細なセントロメア解析基盤:DNAバーコードを組み込んだ人工反復配列から「ヒト人工染色体*1」(図1)を作製し、これまで解析困難だった、染色体分配の要である「セントロメア*2」の内部構造を、高精度に解読する新技術を開発した。
  • 人工染色体形成過程の解読:細胞へ導入された人工反復配列は、細胞内で分断と再結合を繰り返しながら、最小限のヒト染色体サイズ(1〜2 Mb)まで大型化することで安定化していたことがわかった。
  • セントロメア維持における攻防:セントロメアの中心領域において、「CENP-Aタンパク質*3」と「ユウクロマチン*4」が協調し、機能を阻害する「ヘテロクロマチン*5」の侵入を押し戻して機能を維持する動的メカニズムを見出した。
  • 次世代の染色体工学への応用:本研究は、単なるセントロメア・ヒト人工染色体の解読ではなく、染色体を『つくって調べる』基盤となる。また、得られた知見をフィードバックし、さらに精密にデザインされた人工染色体の作製が可能となる。

鳥取大学染色体工学研究センター(元:生命創成探究センター 特任助教/元:かずさDNA研究所 研究員)の大関淳一郎特命准教授と、同センター/鳥取大学医学部生命科学科・染色体医工学講座/生命創成探究センター 染色体工学研究グループ 客員教授の香月康宏教授らの研究グループは、バーコード入りの合成セントロメア配列からヒト人工染色体(Human Artificial Chromosome: HAC)を作製し、そのDNA配列を高精度に解析することで、これまで不明であったHACの構造や形成機構の一端を解明しました。

染色体は、ゲノムDNAを保持し、細胞分裂のたびに正確に受け継ぐための基盤です。なかでもセントロメアは染色体分配を担う重要な領域ですが、人工染色体やヒトセントロメアは均一な反復DNAから構成されるため、その詳細な構造解析は困難でした。

本研究では、識別可能なDNAバーコードを多数組み込んだ人工染色体を作製し、ロングリード・ショートリードのシークエンサーを用いてその構造を高精度に解析しました。その結果、CENP-Aが高密度で集積するセントロメアのコア領域と、周囲のクロマチン構造の特徴が明らかになりました。また、セントロメア機能を維持するために複数の因子が協調して働き、抑制的なクロマチンの侵入を防いでいることもわかりました。

さらに、HACのロングリード解析から、人工染色体の初期形成過程では高頻度のDNA再編成と大型化が起こる一方、一度形成された人工染色体は安定に維持されることがわかりました。これは長年不明であった人工染色体形成機構の理解につながる重要な発見です。

本研究で開発したバーコード付き人工セントロメアDNAは、人工染色体を高詳細に解析するための新たな研究基盤となります。HACは次世代の遺伝子導入ベクターとしても期待されており、本研究成果は染色体工学、創薬、バイオテクノロジー分野の発展にも貢献すると期待されます。

本研究成果は、自然科学研究機構 生命創成探究センターの山﨑匡太郎特任助教や、かずさDNA研究所の白澤健太室長らのグループなどとの共同研究で行われ、2026年6月30日にオックスフォード大学出版局によって発行される国際科学誌「Nucleic Acids Research」に掲載されました。

背景

染色体分配の要「セントロメア」における構造解析の壁

 生命の設計図であるゲノムは、染色体単位で細胞内に収納され、細胞分裂のたびに娘細胞へと正確に受け継がれます。この染色体分配機構の中心的な役割を果たしているのが、セントロメアと呼ばれる染色体上の特殊な領域です。このセントロメアの構造を調べることは長年困難でした。その理由は、セントロメアの下地となるDNAが同じ配列の繰り返しでできているためです。これは、まったく同じ形のピースだけでできた巨大なジグソーパズルのようなもので、完成状態では機能していても、一度バラバラにすると、どのピースがどこにあったのか分からなくなり、元の形に戻せません(図2上段)。

国際プロジェクトによる天然の目印を用いた解読

 近年、国際的なゲノム解読チームは、DNA配列を長文で解読できる「ロングリードシークエンサー*6」を活用し、反復配列中に存在する、わずかな天然の変異(ピースについた傷)を目印としながら、ヒトセントロメア配列を繋ぎ合わせ、解読を進めてきました。しかし、このような変異は偶然の産物であるため、解読できる領域や精度には制限がありました。

逆転の発想:人工バーコードで独自の解析地図を構築

 そこで本研究チームは、『染色体をつくって調べる』という新しい発想でこの問題に挑みました。まず、セントロメアを形成できるDNAと形成できないDNAの2種類の反復単位(人工のピース)を200個以上用意し、それぞれに識別用の『バーコード配列』を埋め込みました(図2中段緑枠部分)。これらを独自の技術で連結し、細胞に導入することで、バーコードを持つ人工反復配列上にセントロメアがつくられた、ヒト人工染色体(図1)を作製しました。そして、この人工染色体を用いて、セントロメアの高詳細な解析に成功しました。

 

 

研究成果の内容

(1)人工染色体の構造と形成機構

 まず、バーコード付き人工DNAから作製したヒト人工染色体の構造をロングリードシークエンサーで解析し、セントロメア領域を含めたDNA配列(セントロメアの地図)を明らかにしました(図2下段青枠部分)。

  • 導入DNAの再編成と人工染色体形成:加えて、細胞へ導入した約200kbの人工DNAが人工染色体になるまでの間に、およそ10kbに1回の頻度での組換えと連結を繰り返す再編成が起こり、1~2Mb程度の長さまで導入DNA同士がつながって大型化していたこともわかりました。また、一度大型化するともう再編成は起こらず、人工染色体は安定に維持されることもわかりました。これらの結果は、長年不明であったDNA導入から人工染色体形成までの過程や、人工染色体が安定維持されるために必要な条件(染色体の大きさの重要性など)を紐解く重要な手がかりとなる知見です。

(2)セントロメアの維持機構:タンパク質とクロマチンの『攻防』

 次に、「クロマチン免疫沈降法*7」と「ショートリードシークエンサー*8」を組み合わせて、各反復単位上のタンパク質結合状態や、クロマチン構造の指標となるヒストンの化学修飾の情報を取得し、上記のロングリードから得られた配列(セントロメアの地図)に重ね合わせました。その結果、以下のような、これまで不明だったセントロメア領域の動的な構造を解読することができました(図2下段青枠部分)。

  • 機能の核となるコア領域:HACセントロメア上には、セントロメア特異的なヒストンH3であり、他のセントロメアタンパク質集合の起点となるCENP-Aタンパク質が高密度に集まった、18〜50 kb程度のコア領域が存在することがわかりました。
  • コア領域のクロマチン構造:このコア領域には、遺伝子発現の活性化に関わるユウクロマチンが共存していることがわかりました。一方、その周囲は遺伝子発現の抑制に関わるヘテロクロマチンが隣接し、周期的にセントロメアへの侵入と退去を繰り返していることがわかりました(図3)。
  • セントロメアを維持するメカニズム:コア領域のCENP-Aかユウクロマチンのいずれかを減少させると、ヘテロクロマチンがコア領域を占拠してしまうことが分かりました。つまり、CENP-Aとユウクロマチンが協力し、ヘテロクロマチンの侵入を押し戻すことで、セントロメアの機能と構造が安定維持されているという、動的な制御機構が明らかになりました(図3)。

 

今後の展開・意義

 近年、様々な生物のゲノム情報が日々解読され、蓄積され続けています。一方、DNA情報だけでは、染色体がどのように機能し維持されるかを十分に理解することはできません。特にセントロメアは、反復配列と「エピジェネティック*9」な制御によって成り立つため、未解明な部分が多く残されていました。

 本研究では、人工染色体を『つくって調べる』ことで、セントロメアの構造と機能のルールを読み解きました。この知見を今後の設計にフィードバックしてゆくことで、より安定かつ実用的なヒト人工染色体の開発や、ヒト以外の生物種におけるセントロメア形成原理の解明などへとつながります(図4)。

 また、今回開発した人工反復配列には、バーコードだけでなく特定のタンパク質が結合する配列も多数埋め込んであります。これを利用すれば、セントロメアの機能制御や人工染色体の可視化など、染色体機能を人為的に操作することが可能であり、新たな染色体研究の基盤としても利用可能です(図4)。

 加えて、近年はゲノムAIなどの大規模な予測・設計技術も急速に進歩しています。人工染色体は、そのような予測に基づく大規模合成ゲノム・遺伝子クラスターを搭載し、機能の実証に用いることのできるプラットフォームとしても有望です。将来的には、遺伝子座からセントロメアまで、全てをデザインした人工染色体を用いて、『つくって調べ、制御する』新たなゲノム研究や創薬、バイオテクノロジーへの展開も期待されます。

 

 

参考図

参考図1

図1 ヒト人工染色体(HAC)とセントロメア

 ヒト染色体のセントロメア領域のDNA配列を元に、ヒト人工染色体が構築されました。人工染色体は、末端をテロメアに保護された線状のものと、末端とテロメアを持たない環状のものがあります。どちらも、デザインしたDNA配列から構築可能で、天然染色体と同等の大きさのDNA配列を搭載可能です。

 

参考図2

図2 合成セントロメア配列を用いたヒト人工染色体の解析

 これまで解析が難しかったヒトセントロメアの構造を明らかにするため、バーコードを埋め込んだ人工反復配列を設計し、人工染色体を作製しました。この解析から、ヒトセントロメアの構造を明らかにすることができました。

 

参考図3

3 ヒトセントロメアにおける維持機構

 複製期にはゲノムDNAが複製され、DNA量は2倍(2コピー)になりますが、セントロメアのCENP-Aタンパク質は補充されません。このため、セントロメアDNA上における相対的なCENP-Aの集合量は半減します。この複製期から分裂期の間に、ヘテロクロマチンに特徴的なヒストン修飾がセントロメアのコア領域に侵入し蓄積することがわかりました。

 一方、G1期になると、CENP-A補充因子が集合し、CENP-Aを補充します。これと同時に、ユウクロマチン因子はヘテロクロマチン修飾の入ったヌクレオソームを除去して行きます。これらの協調した働きにより、ヘテロクロマチンの侵食と蓄積が防がれていることがわかりました。

 

参考図4

図4 人工染色体を用いた染色体機能の理解と操作・応用

 今回開発したバーコード入りの人工反復配列により、詳細なセントロメアの構造解析が可能になりました。ここから得られた情報を元に、より精密な人工染色体をデザインすれば、より詳細な解析や制御も可能になります。このような染色体設計は、セントロメアだけではなく、搭載する遺伝子などにも有効であり、今後さまざまな分野での応用が期待されます。

用語解説

  1. ヒト人工染色体(HAC:Human Artificial Chromosome): 宿主染色体とは独立に安定に分配・維持される人工の染色体。天然の染色体からセントロメアとテロメアを残して余分な遺伝子を除いたトップダウン型と、人工的に設計・合成したセントロメアDNAを細胞に導入することで作製されるボトムアップ型がある(今回用いたのは後者)。宿主染色体と同じしくみで維持されるため、染色体スケールの巨大なDNA断片を搭載できる次世代ベクターとしても期待されている。
  2. セントロメア: 染色体分配に必須なクロマチン構造。CENP-Aタンパク質を起点として、さまざまなセントロメア特異的なタンパク質が集合している。分裂期にはこの上にキネトコアと呼ばれるタンパク質複合体が集合し、紡錘体微小管との相互作用を介して染色体を物理的に牽引することで、各娘細胞への均等分配を実現する。
  3. CENP-Aタンパク質: セントロメア特異的に集合する特殊なヒストンH3バリアント。他のヒストン(H2A、H2B、H4)と共にヌクレオソームを形成し、セントロメア構造形成と維持の基盤として働く。
  4. ユウクロマチン: 連続したヌクレオソームの構造が緩んだ状態で、遺伝子発現が可能なクロマチンと考えられている。代表的な特徴として、ヒストンのアセチル化修飾や、転写活性化に関わるリジン残基のメチル化修飾などが知られている。
  5. ヘテロクロマチン: 連続したヌクレオソームが凝縮した状態にあり、遺伝子発現が抑制されている。代表的な特徴として、転写抑制に関わるリジン残基のメチル化修飾や、この修飾に結合するヘテロクロマチンタンパク質の集合が知られている。セントロメア近傍のヘテロクロマチンは、隣接する領域にも拡大して、遺伝子発現を抑制することが知られている。
  6. ロングリードシークエンサー: 連続した長い塩基配列を読み取る装置。繰り返し配列などの領域を効果的に解読できる。代表的なものにPacBio社製の装置とNanopore社製のものがある。それぞれ読み取り方法や解読長が異なるが、今回用いたPacBio社のシークエンサーは、10〜40kb程度の連続したDNA配列を高精度で読み取ることができる。
  7. クロマチン免疫沈降法: 抗原となるタンパク質や修飾が、ゲノム上のどの配列に結合しているかを調べる解析手法。クロマチンサンプル中のDNAを細断して可溶化したインプットから、抗体を用いて免疫沈降を行い、共沈降してきたDNA断片を解析する。
  8. ショートリードシークエンサー: 150〜300bp程度までの短いDNA配列を読み取るシークエンサー。長いDNAを読まない代わりに、ほぼ塩基の誤りなく100億個程度の断片を一度に読み取れる、膨大なアウトプットを持つ。
  9. エピジェネティック: DNAの塩基配列は同じであっても、タンパク質の結合や、アセチル化・メチル化などの化学修飾によって、後天的に遺伝子の働きや染色体の機能が制御される仕組みのこと。

論文情報

  • 題目:Epigenetic landscape of synthetic human centromere core regions: CENP-A assembly and euchromatic modifications interdependently antagonize heterochromatin accumulation
  • 著者: Junichiro Ohzeki*, Akiko Watanabe, Jia Xian Lee, Chiharu Minami, Kazuto Kugou, Kyotaro Yamazaki, Kenta Shirasawa, Sachiko Isobe, Yusuke Endo, and Yasuhiro Kazuki*.

(*は責任著者)

  • 掲載誌:Nucleic Acids Research
  • DOI:10.1093/nar/gkag597

お問い合わせ先

本成果は、以下の事業・研究領域・研究課題によって得られました。

戦略的創造研究推進事業 さきがけ・CREST

研究領域:「ゲノムスケールのDNA設計・合成による細胞制御技術の創出」 (研究総括:塩見 春彦 慶應義塾大学 医学部 教授)

 さきがけ研究課題名:「メガベースサイズの人工DNAを用いたヒト人工染色体の設計・構築と汎用化(JPMJPR18K3)」

 研究代表者:大関 淳一郎(鳥取大学 染色体工学研究センター 特命准教授/元:生命創成探究センター 特任助教/元:かずさDNA研究所 研究員)

 CREST研究課題名:「ヒト/マウス人工染色体を用いたゲノムライティングと応用(JPMJCR18S4)」 

 研究代表者:香月 康宏(鳥取大学 医学部 生命科学科/染色体工学研究センター 教授/生命創成探究センター 染色体工学研究グループ 客員教授)

 また、本研究は、日本学術振興会(JSPS)科学研究費補助金 [基盤研究(C)(JP23K05611:大関淳一郎)、学術変革領域(A)『性染色体サイクル』 (JP26H00427:香月康宏)]、日本医療研究開発機構(AMED)BINDS事業(JP26ama121046:香月康宏、山﨑匡太郎)、生命創成探究センター(ExCELLS)連携研究(No, 21-101:香月康宏)・かずさDNA研究所(KDRI)研究費(白澤健太、磯部祥子、遠藤裕介)などの支援も受けて行われました。

お問い合わせ先

<研究に関すること>

香月 康宏(カヅキ ヤスヒロ)

  鳥取大学 医学部生命科学科/染色体工学研究センター 教授

  自然科学研究機構 生命創成探究センター 染色体工学研究グループ 客員教授

  〒683-8503 鳥取県米子市西町86番地

  Tel:0859-38-6219 Fax:0859-38-6210

  E-mail:kazuki@tottori-u.ac.jp

 

大関 淳一郎(オオゼキ ジュンイチロウ)

  鳥取大学 染色体工学研究センター 特命准教授

  (元:自然科学研究機構 生命創成探究センター 特任助教 /元:かずさDNA研究所 研究員)

  〒683-8503 鳥取県米子市西町86番地

  Tel:0859-38-7539                                                                   

  E-mail:johzeki@tottori-u.ac.jp

 

<報道担当>

鳥取大学米子地区事務部総務課広報係

  TEL:0859-38-7037

  FAX:0859-38-7029

  E-mail: me-kouhou@ml.adm.tottori-u.ac.jp

 

自然科学研究機構 生命創成探究センター(ExCELLS)研究力強化戦略室         

TEL:0564-59-5203

E-mail: press@excells.orion.ac.jp

 

公益財団法人 かずさDNA研究所 広報教育支援グループ

TEL:0438-52-3930

FAX:0438-52-3931

E-mail: kdri-kouhou@kazusa.or.jp