小さな出来事が、翌日まで残る 一度の短い刺激がプラナリアに一日続く内部状態の変化を残すことを発見

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概要

  鳥取大学医学部適応生理学分野の井上武准教授らの研究グループは、プラナリア(※) に一度だけ短く弱い刺激を与えると、その小さな出来事の余波が約24時間にわたって残り、その後 の行動の起こりやすさを変化させることを発見しましたので、お知らせいたします。

 ※プラナリア:再生能力に優れた淡水にすむ扁形動物。進化の早い段階で脳を獲得した動物の一つであり、行動を 制御する神経系の中核的なしくみを探るモデルとして用いられています。

 動物は、過去に受けた出来事の影響をしばらく体の中に残し、その後の行動に反映していると考え られています。しかし、短く弱い刺激を一度受けただけでも、行動に影響を与えるかどうかは明らかに なっていませんでした。

 本研究では、プラナリアを対象に長時間の行動を調べた結果、一度だけ短い刺激を受けた後も、そ の影響が約 1 日間にわたって残ることを明らかにしました。これは、小さな出来事であっても、その場 限りで終わらず、その後の行動のしやすさに長く影響し得ることを示すものです。また、このような性質 が、起源的な脳をもつ動物にも備わっている可能性が示されました。本成果は、ストレスや経験が心身 の状態や行動に長期的な影響を及ぼすメカニズムを解明するための基礎的知見となり、将来的には、 神経系の働きに関わる医療への貢献も期待されます。

 なお、本研究成果は、2026年6月16日付で国際学術誌「Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(PNAS)」にてオンライン公開されています。

研究内容

 鳥取大学医学部の研究グループは、プラナリア#1に短く弱い刺激を一度与えるだけで、その後の行動が約1日にわたって変化することを明らかにしました。刺激を受けたプラナリアは速く動くようになったのではなく、休止状態から活動状態へ移りやすくなっていました。この結果は、一度きりの小さな刺激であってもその場限りの反応にとどまらず、内部状態(internal state)#2として長時間保たれ、その後の行動の出やすさを左右することを示しています(図1)。

 自然界に生きる動物は、絶えず変化する環境の中で無数の一時的な刺激にさらされています。個々の刺激に過剰に反応せず安定した行動を保つには、過去の刺激の影響をしばらく保持し、その後の行動のしやすさに反映させる仕組みが欠かせません。しかし、自然環境で起こり得る短く弱い刺激が、たった一度でも長時間の偏りをもたらすかどうかは、これまで分かっていませんでした。

 本研究は、単発の小さな刺激であっても、内部状態として翌日まで残り、その後の行動の出やすさを変え得ることを示しました。プラナリアは原始的な脳をもつ動物であり、神経系による行動制御の起源を探る研究対象として用いられています。本成果は、内部状態が行動選択を左右するという仕組みが、複雑な脳をもつ動物に限らず、動物に広く共有された行動制御の原理である可能性を示すものです。

井上先生プレスリリース図1

図1. 本研究成果の概念図
一度の短く弱い刺激でも、内部状態を偏らせ、その後約1日にわたって行動選択を偏らせる。

本研究のポイント

  • 一度だけ与えた短く弱い刺激が、プラナリアのその後の自発行動に約24時間にわたる変化をもたらすことを発見しました。
  • その変化は、活動中の動きの強さよりも、休止状態から活動状態へ移行しやすくなるという形で現れました。
  • 刺激後の変化は、数時間ごとの活動・休止のゆらぎを伴いながら、約1日続くゆるやかな偏りとして現れました。
  • これらの結果は、一度きりの小さな刺激が、その場限りの反応にとどまらず、内部状態として長時間にわたって行動が起こりやすい状態を作り出すことを示しています。
  • 本成果は、過去の小さな刺激をその後の内部状態に反映させる性質が、起源的な神経系をもつ動物にも見られる可能性を示しました。

背景

 動物は、目の前の刺激だけに反応しているわけではありません。過去に受けた刺激の影響を内部状態として一定時間保ち、その後の行動の出やすさを変えることで、変化する環境に応じた行動を生み出しています。こうした仕組みは、刺激がなくなった後も行動選択に影響を及ぼすものとして、近年注目されています。

 自然環境では、動物は多様な刺激に絶えずさらされています。それらの刺激には、近づく手がかりになるものもあれば、避ける手がかりになるものもあります。刺激を受けるたびに、その場限りで反応を切り替えるだけでは、行動は不安定になります。そこで、過去の刺激の影響を内部状態としてしばらく保持し、その後の行動の出やすさに反映させる仕組みが重要になります。

 これまで、内部状態を長く変える要因は、繰り返しの経験、長時間にわたる環境変化、あるいは一度であっても強い刺激と結びつけて理解されてきました。しかし、自然環境で動物が遭遇する刺激は、必ずしも長く続くものや強いものばかりではありません。一度だけの短く弱い刺激が、内部状態をどの程度長く変え、その後の行動にどのような偏りを生み出すのかは、よく分かっていませんでした。

研究成果の内容

 研究グループは、一度の弱い刺激が内部状態をどれほど長く変えるかを調べるため、その変化を反映する自発行動#3を長時間にわたって連続解析できる実験系を開発しました。この実験系では、120時間の画像記録と深層学習(AI)による行動追跡を組み合わせ、自発行動を活動と休止#4の繰り返しとして解析しました。この方法を用いて、プラナリアに一度だけ短い機械刺激#5を与え、その後の行動を100万枚以上の画像から調べたところ、刺激後の活動量は数時間で単純に元へ戻るのではなく、上昇と低下を繰り返しながら約24時間かけて安定した状態へ近づくことが分かりました(図2)。これは、一度の軽い刺激の影響が、分単位・数時間単位の一過性の反応にとどまらず、内部状態の変化として一日規模で持続することを示しています。

 次に、この自発行動の変化がどのように生じたかを調べました。行動変化を特徴づけていたのは、活動している間の速度が速くなったり、移動距離や持続時間が長くなることではなく、休止から活動へ戻る局面の変化でした。刺激後のプラナリアでは休止状態が短縮され、休止から活動へ移るタイミングが早まっていたのです。これは、動きの速さが変わらなくても、休止を切り上げるタイミングがわずかに変わるだけで、刺激の影響が一日全体の活動量の増加として現れうることを意味します。一度の刺激が特定の行動を直接引き起こすのではなく、行動が起こりやすい状態そのものを長時間にわたって変える点に、本研究の特徴があります。

井上先生プレスリリース図2

図2. 一度の短い刺激の影響は約1日にわたって行動に残る
プラナリアに一度だけ短い機械的刺激を与え、その後の活動量を120時間にわたって追跡しました。刺激後の活動量は数時間で単純に消えるのではなく、0〜24時間にわたって大きく変動し、その後ゆっくりと落ち着いた状態に近づきました。この結果は、一度きりの刺激の影響が、その場限りの反応を超えて行動状態に残ることを示しています。

今後の展開・意義

 プラナリアは、進化上最初に脳を獲得した動物に近いと考えられており、神経系による行動制御の起源を考えるうえで重要な研究対象です。本研究により、一度きりの短い刺激が約1日にわたって行動の切り替わり方を偏らせることが明らかになりました。この結果は、過去の小さな刺激を内部に保持してその後の行動へ反映させる性質が、高度に発達した脳をもつ動物だけに限らない可能性を示しています。本成果は、動物が変化する環境の中で行動の安定性を生み出す仕組みを、内部状態の持続という観点から理解する基盤となります。


用語解説

#1. プラナリア

淡水にすむ扁形動物の一種で、体の再生能力でよく知られています。一見単純な生き物ですが、脳をもつ神経系を備えており、神経系による行動制御の起源を進化の観点から探ることができる生物として注目されています。本研究では、ナミウズムシ(Dugesia japonica)を用いました。

#2. 内部状態(internal-state)

外から直接見ることは難しいものの、知覚や認知、行動の起こりやすさを左右する、動物の内部にある状態です。空腹、覚醒、情動、代謝状態などがその例です。

#3. 自発行動

外部から刺激や課題を与えなくても、動物自身の状態に応じて現れる行動のことです。本研究では、自発行動を内部状態の変化を読み取るための指標として解析しました。

#4. 活動と休止

プラナリアは無刺激条件下でも自発的に活動と休止を繰り返す性質があります。本研究では、刺激後に休止がどの程度続くか、また休止から活動へ切り替わるタイミングがどのように変化するかを調べました。

#5. 機械刺激

物理的な接触や動きによって動物に加わる刺激です。本研究では、プラスチック製のピペットで穏やかに一度だけ吸引してすぐ放出する操作を採用しました。これは強い刺激ではなく、日常的な飼育・実験で生じるハンドリングに近い、短時間の穏やかな刺激です。

研究支援

 本研究は、JSPS科研費(21K06266、24K09532)、および公益財団法人山田科学振興財団の支援を受けて実施されました。また、計算には自然科学研究機構 岡崎共通研究施設 計算科学研究センターの計算資源(プロジェクト: NIBB, 24-IMS-C362、25-IMS-C261)を使用しました。


論文情報

論文タイトル:A single brief cue leaves a day-long internal state imprint in planarians

論文タイトル(和訳):一度の短い刺激がプラナリアに一日続く内部状態の変化を残す

著者(原著表記):Ojeiru Felix Ezomo, Rena Suzuki, Maria Narahashi, Satoshi Matsuo, Takeshi Inoue*

著者(日本語表記):恵祖茂 オジェイル,鈴木 麗菜,楢橋 真理環,松尾 聡,井上 武*

所属:鳥取大学 医学部 医学科 適応生理学分野

掲載誌:Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America(米国科学アカデミー紀要, PNAS)

論文種別:Brief Report

DOI: 10.1073/pnas.2606749123

論文URL: https://www.pnas.org/doi/10.1073/pnas.2606749123

掲載日:2026年6月16日

 

 本研究成果を取り上げる際には、原典の論文を引用していただきますようお願い致します。また、このお願いにつきまして、「生物科学学会連合から報道機関関係者方々へのお願い」 (https://seikaren.org/news/9844.html)も併せてご覧いただければ幸いです。

本件に関するお問い合わせ先

<研究に関すること>

鳥取大学医学部医学科 適応生理学分野

 准教授 井上 武

 Tel: 0859-38-7576

 E-mail:inoue.t@tottori-u.ac.jp

 

<取材担当>

鳥取大学米子地区事務部総務課広報係

  TEL:0859-38-7037

  FAX:0859-38-6992

  E-mail: me-kouhou@ml.adm.tottori-u.ac.jp