医学生の「できる!」をスマホで可視化 - 鳥取大学発アプリを用いた外科実習で〝自信(自己効力感)″向上を確認 -
概要
鳥取大学医学部医学教育学分野の花木武彦講師、植木賢教授らの研究グループが、教育DX(デジタルトランスフォーメーション)の一環として、鳥取大学独自に開発された教育支援システム「Step Ladder System(SLS)」を活用し、外科臨床実習における学修の可視化を行った結果、医学生の自己効力感が実習前後で有意に向上したことを明らかにしましたのでお知らせいたします。なお、SLSを用いた臨床実習において、医学生の自己効力感の変化を検証した研究は世界で初めての報告となります。
「Step Ladder System(SLS)」は、2019年に運用を開始し、2021年からはスマートフォンアプリとして本学の複数診療科で活用されている新しい教育手法です。SLSでは、臨床実習で学ぶべき内容を段階的に整理しており、学生は学修目標を事前に確認できるほか、実習中の課題達成状況や評価・フィードバックをアプリ上で記録・共有することができます。
従来、客観的に見えにくく、指導医ごとに把握されていた学修過程を、SLSにより可視化することで、学生の主体的な学びを支える教育DXの一例になります。2026年4月現在、学内11診療科で運用されており、2025年度は、延べ100名以上の医学生・研修医が利用しました。
鳥取大学発の教育支援システムであるSLSを活用した外科臨床実習が、学びの可視化を通じて、学生の主体性や自己効力感の向上に寄与する可能性が示されました。
なお、本研究成果は2026年4月6日に、学術誌「BMC Medical Education」にてオンライン公開されています。
本研究のポイント
- 鳥取大学で開発された教育支援システム Step Ladder System(SLS) を活用した外科臨床実習において、医学生の自己効力感が実習前後で有意に向上しました。
- SLSへの取り組みが多い学生では、自己効力感は低下例よりも上昇例が有意に多く認められました。
- また、実習開始時点で自己効力感が低い学生では、実習を通じて前向きな変化が有意に多く認められました。
- SLSは、学修目標や進捗、評価、フィードバックを可視化し、準備学修と振り返りを支える教育DX基盤として有用である可能性が示されました。
背景
医学生教育において、自己効力感は「自分は課題に取り組み、やり遂げられる」と思える感覚であり、学修意欲、粘り強さ、主体的な参加に関わる重要な心理的要素です。一方、従来の外科臨床実習では、学生が見学中心になりやすく、実技経験や一貫したフィードバックが限られるため、自分の成長や到達度を実感しにくいという課題がありました。
こうした課題に対し、鳥取大学では、女性診療科の小松宏彰講師らが開発した Step Ladder System(SLS) を複数の診療科で導入しています。SLSは、臨床実習で学ぶべき知識・技能・診療参加の内容を段階的に整理し、学生が「何を学ぶべきか」「どこまで到達したか」を可視化できる教育支援システムです(図1)。さらに、課題達成状況や評価依頼、指導医からの確認・フィードバックをアプリ上で共有できる点に特徴があり、従来は見えにくかった学修過程を把握しやすくする教育DXの仕組みとして運用されています。
本研究では、このSLSを活用した外科実習において、学びの可視化を伴う教育環境のもとで、医学生の自己効力感にどのような変化がみられるかを検証しました。なお、本研究は鳥取大学医学部倫理審査委員会の承認のもとに実施しました(倫理審査承認番号:25A053)。
研究成果の内容

2025年に鳥取大学医学部の消化器・小児外科で4週間の臨床実習を行った医学科6年生、24名を対象に、実習開始時と終了時に General Self-Efficacy Scale(GSES) を用いて自己効力感を評価しました。あわせて、SLSアプリでの課題達成数を学修への取り組み度の指標として解析しました。
その結果、GSES標準化スコアは、実習前 49.8 ± 11.0 から実習後 53.8 ± 12.2 へと有意に上昇しました(p = 0.009、図2)。
さらに、SLS課題達成数が多い群では、自己効力感が負方向に変化するよりも正方向に変化する割合が有意に高く(p = 0.021)、SLSに積極的に取り組んだ学生ほど前向きな変化を示しやすいことが示されました(図3)。
また、実習開始時の自己効力感が低かった群では、正方向の変化が有意に多く認められました(p = 0.031、図4)。これは、学修目標や進捗が可視化される教育環境が、とくに自信を持ちにくい学生の学修参加を後押しする可能性を示しています。
一方で、SLS課題達成数が多いほど自己効力感の変化量も大きくなる傾向、すなわち正の傾きは認められましたが、単純な線形相関としては統計学的に有意ではありませんでした(r = 0.20, p = 0.34, Pearson's correlation、図5)。このことから、自己効力感の変化は取り組み量の多寡だけで一義的に決まるものではなく、実習内容や指導の質、学生の初期状態など複数の要因の影響を受けると考えています。
今後の展開
本研究は、SLSを活用した教育において、医学生の自己効力感への影響を直接検討した最初の報告です。先行研究では、SLSの実装状況や課題達成率、あるいは指導医の教育自己効力感が検討されてきましたが、学生の自己効力感そのものに着目した報告はありませんでした。
本研究により、鳥取大学発の教育支援システムSLSが、これまで見えにくかった臨床実習における学びの過程を可視化し、そのような教育環境のもとで学生の主体的学修や自己効力感の向上を支えうる可能性が示されました。これは、鳥取大学発の教育支援システムが、臨床実習における教育DXの実践例として発展しうることを示す成果でもあります。
今後は、他診療科や他施設への展開可能性を検討するとともに、OSCE(Objective Structured Clinical Examination)などの客観的指標を組み合わせ、自己効力感の向上が実際の臨床能力や研修準備性にどのようにつながるかを検討する必要があります。また、SLS課題体系の心理測定学的検証も現在進めています。
用語説明
自己効力感(self-efficacy)
ある課題や行動を自分は達成できる、やり遂げられる、という自己認識や自信のこと。学修意欲や主体性に深く関わる心理学的概念です。
教育DX(Digital Transformation)
デジタル技術を活用し、これまで見えにくかった学びや指導の過程を可視化するなどして、教育の質を高める取り組みです。SLSは、臨床実習の学修目標や進捗をアプリ上で共有できる仕組みであり、学生の主体的学修と指導のしやすさを高める教育DXの実践例です。
OSCE(Objective Structured Clinical Examination)
医学生や研修医の診療技能を客観的かつ構造化して評価する実技試験です。問診、診察、説明、手技などを課題ごとに設定し、評価者があらかじめ定められた基準に沿って到達度を判定します。知識だけでなく、実際の臨床場面で必要となる技能や態度を評価するために広く用いられています。日本の医学教育では、臨床実習開始前の到達確認としての共用試験や、臨床能力評価の指標として用いられています。
General Self-Efficacy Scale(GSES)
自己効力感、すなわち「自分は必要な行動をとり、課題を達成できる」とする認識の程度を評価する尺度です。本研究では、16項目からなるGSESを用いて実習開始時と終了時の自己効力感を測定し、得られた得点を日本人学生集団の標準値に基づいて標準化したうえで、実習前後の変化を解析しました。
Step Ladder System(SLS)
鳥取大学で開発された教育支援システムで、臨床実習で学ぶべき知識・技能・診療参加の内容を段階的に整理し、学修者が「何を学ぶべきか」「どこまで到達したか」を可視化できる仕組みです。SLSでは、課題が難易度や到達度に応じてステップごとに整理されており、学生は実習前から学修目標を確認し、準備学修に活用できます。実習中は、達成した課題をスマートフォンアプリ上で記録し、評価依頼を行います。指導医はその内容を確認し、評価とフィードバックを返すことができるため、学修の進捗把握と、段階に応じた指導がしやすくなります。こうした仕組みにより、従来は見えにくかった実習中の学びを可視化し、主体的な学修と継続的な振り返りを支援します。
論文情報
- 題目: Climbing the ladder of confidence: effects of the step ladder system on medical students’ self-efficacy during a surgical clerkship
- 著者:Takehiko Hanaki, Rumiko Omatsu, Kozo Miyatani, Kyoichi Kihara, Hiroaki Komatsu, Yoshiyuki Fujiwara, Masaru Ueki
- 掲載誌: BMC Medical Education (2026年4月6日公開)
- DOI: 10.1186/s12909-026-09110-0
ステップラダーシステム リンク
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本件に関するお問い合わせ先
<研究に関すること>
鳥取大学 医学部 医学教育学分野講師 花木 武彦(はなき たけひこ)
TEL: 0859-38-6438
E-mail:t.hanaki@tottori-u.ac.jp
<ステップラダーシステム・学生教育に関すること>
鳥取大学 医学部 医学教育総合センター
TEL: 0859-38-6438
E-mail:torip-ladder@ml.med.tottori-u.ac.jp
<取材担当>
鳥取大学米子地区事務部総務課広報係
TEL:0859-38-7037
FAX:0859-38-6992
E-mail: me-kouhou@ml.adm.tottori-u.ac.jp


