AI が診断した血液検査の“判断根拠”を見える化!~検査技師が“納得して使える”AI診断支援を実現へ~
概要
このたび、鳥取大学医学部生体制御学講座の岩田浩明教授らの研究グループは、血液の顕微鏡画像をAIが自動で分類し、その“見ている部分”を可視化できる技術を開発しましたのでお知らせいたします。
白血球や感染症、貧血などの診断に欠かせない血液検査方法の一つでもある「血液塗抹標本」。観察する際は、専門的な知識や経験が必要で、検査技師の熟練度や判断基準に左右されることがあり、昨今、検査の客観性や効率を高める技術が求められています。
近年は、AIを用いた自動画像解析の研究が進み、血液中の細胞を高精度に分類できる可能性が示唆されています。ですが、医療現場でAIを使うためには、高精度に分類できるだけでは不十分で、AIが「どこを見て」「どのように判断したのか」、結果の根拠や理由について人間の理解が必要不可欠です。
そこで本研究では、AIが血液細胞を識別する際に注目している領域を可視化し、判断過程を「見える化」する技術的枠組みを構築しました。
まずは、「血液塗抹標本」中の白血球を自動分類するモデルを構築しました。このモデルは、約95%と高い精度で自動分類を可能にし、熟練した検査技師の判断レベルに近い結果を示しました。
さらに、AIの判断根拠を可視化するため、「Grad-CAM」という手法を用いて、人間と同様に血液細胞を認識できているかを評価しました。その結果、AIは、細胞の中心部や特徴を的確に注目しており、誤分類した場合でも、AIの注目領域がずれていることを確認し、人間と同じ視点で説明が可能であることを示しました。これにより、AIの判断傾向を検査技師が確認できるようになり、将来AIと人間が協働して検査精度を高めるための新たなアプローチとなる可能性を見出しました。
今後は、さらなるモデル検証を進め、臨床現場で信頼されるAI診断支援ツールの実現を目指します。将来的には、感染症や白血病などのさらなる早期発見・迅速診断の実現が期待されます。
なお、本研究成果は2025年10月31日に学術誌「Machine Learning with Applications」でオンライン公開されています。
本研究のポイント
- 血液塗抹標本1)画像をAIが自動分類するモデルを構築し、AIが「どこを見て」判断しているかを可視化
- 医療応用で課題となる「AIのブラックボックス化」を解消し、臨床で信頼できるAI診断支援に一歩前進
- 白血球の成熟段階(骨髄球・後骨髄球・桿状核球など)も精度良く分類し、誤分類の原因を人間と同じ視点で説明可能に
- 臨床検査技師2)教育・育成において、AIと人の見方の違いを学ぶ教材としても活用が期待される
背景
血液は、体の状態を映す「鏡」ともいわれます。なかでも、血液塗抹標本検査は白血病や感染症、貧血などの診断に欠かせない基本的な検査で、白血球や赤血球、血小板の形や数を観察することで、病気の兆候を読み取ります。特に白血球の形態は重要ですが、細胞の種類を正確に見分けるには専門的な知識と豊富な経験が必要で、観察結果が検査技師の熟練度や判断基準に左右されることがあります。このため、検査の客観性や効率を高める技術が求められています。
近年、AI(人工知能)を用いた自動画像解析の研究が進み、血液中の細胞を高速かつ高精度に分類できる可能性が示されています。しかし、医療現場でAIを使うためには、単に「正答率が高い」だけでは不十分です。AIが「どこを見て」「どのように判断したのか」を人間が理解できること、すなわち説明可能性3)(Explainability)が欠かせません(Figure 1)。
本研究は、AIが血液細胞を識別する際に注目している領域を可視化し、その判断過程を「見える化」することで、臨床検査技師が安心して活用できるAI技術の確立を目指しました。

Figure1. 研究の背景
研究成果の内容
本研究では、AI(深層学習)4)を用いて血液塗抹標本中の白血球を自動分類するモデルを構築し、白血球の分類において高い精度を示しました。全体として約95%の正答率を達成しました。これにより、熟練した検査技師の判断に近いレベルで自動分類が可能であることが示され、AIが日常検査を補助する現実的な可能性が明らかになりました(Figure 2)。

Figure2. 画像分類AIの精度評価結果
さらにAIがどの部分を根拠に判断しているのかを可視化する解析を行いました。具体的には、AIが画像中で注目している領域を示す「Grad-CAM」5)という手法を用いて、AIが人間と同様に細胞の核や細胞質など、生物学的に意味のある部分を正しく認識しているかを評価しました。
その結果、AIが正しく分類できた細胞では、細胞の中心部や形態的特徴を的確に注目しており、一方で誤分類した場合には、注目領域が細胞外や関係のない部分にずれていることが分かりました。
さらに、異なる種類の白血球間でAIの注目パターンを比較することで、AIの判断傾向を客観的に評価できる指標を提示しました。これにより、AIの判定根拠を検査技師が確認できるようになり、AIと人間が協働して検査精度を高めるための新たなアプローチが示されました(Figure 3)。

Figure3. 可視化結果の考察
今後の展開
本研究では、血液細胞を高精度に見分けるAIを開発し、その「判断の理由」を明らかにすることで、説明できるAI診断の実現に向けた新たな可能性を示しました。今後は、白血病など病的細胞を含むデータを用いたモデル検証を進め、臨床現場で信頼されるAI診断支援ツールの実現を目指します。
この技術によって描ける未来のイメージは以下の通りです:
- AIと臨床検査技師が協働し、より正確で迅速な血液検査を実現
- 若手検査技師や医学生が、AIの判断過程を学習しながら効率的にスキルを向上
- 遠隔地や小規模医療機関でも、高精度の血液検査が手軽に提供可能
- AIが血液検査の標準化を支援し、医療現場での判断のばらつきを低減
- 将来的には、感染症や白血病などの早期発見・迅速診断をサポート
用語説明
1)血液塗抹標本
採取した血液をガラス板の上に薄く広げて乾燥・染色し、白血球や赤血球の形や大きさ、数を顕微鏡で観察する検査方法です。白血病や感染症、貧血などの診断に欠かせない、もっとも基本的な血液検査の一つです。
2)臨床検査技師
医療機関の検査室などで、血液・尿・組織などを分析し、病気の診断や治療方針の決定に必要なデータを提供する国家資格をもつ医療専門職です。医師と連携し、検査の正確性を確保する重要な役割を担います。
3)説明可能性(Explainability)
AIが出した結果の理由や根拠を人間が理解できるようにする考え方です。特に医療分野では、「なぜその診断をしたのか」を説明できることが、AIを安全かつ信頼して使うために重要とされています。
4)深層学習(ディープラーニング)
人工知能(AI)の一種で、人間の脳の働きを模した「ニューラルネットワーク」を多層的に組み合わせ、大量のデータから特徴を自動的に学習する技術です。画像認識や音声認識など、医療を含む多くの分野で応用が進んでいます。
5)Grad-CAM
深層学習モデルが画像のどの部分を重視して判断したのかを、色の強弱で「ヒートマップ」として示す解析手法です。AIの判断根拠を可視化できるため、医療画像解析などで「AIがどこを見ているのか」を確認するのに役立ちます。
論文情報
- 題目: Toward clinical reliability: Visualizing and interpreting AI-based classification in peripheral blood smear analysis
- 著者: Hiroaki Iwata, Tsukie Shibayama, Miku Watanabe, Hisashi Shimohiro
- 掲載誌: Machine Learning with Applications
- DOI: 10.1016/j.mlwa.2025.100780
本件に関するお問い合わせ先
<研究に関すること>
鳥取大学 医学部 生体制御学講座 教授 岩田 浩明(いわた ひろあき)
TEL: 0859-38-7615
E-mail:iwata.hiroaki@tottori-u.ac.jp
<取材担当>
鳥取大学米子地区事務部総務課広報係
TEL:0859-38-7037
FAX:0859-38-6992
E-mail: me-kouhou@ml.adm.tottori-u.ac.jp


