AI が粉末の混ざり具合を一目で分析!~試料を壊さず、短時間で成分比を推定する新技術を開発~

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概要

 このたび、鳥取大学医学部生体制御学講座の岩田浩明教授は、国内で初めて、光 学顕微鏡で撮影した粉末の画像から、AI(人工知能)が成分の比率を推定する技術を開発しましたのでお知らせいたします。 

 これまで粉末状の医薬品や材料の成分比を調べるには、時間とコストのかかる破壊検査や試薬分析が必要でした。特に、製薬産業などでは、「どのくらい混ぜたか」の管理が製品の安全性に直結するため、迅速かつ低コストに成分比を把握できる技術が求められてきました。

 そこで本研究では光学顕微鏡で撮影した粉末画像から、AI(人工知能)が成分比を推定する新しい技術を開発しました。AI が粒子の形や色、模様などの特徴を自動で学習し、それをもとに成分の比率を予測する仕組みです。

 この方法では、試料を壊さずに短時間で比率を推定でき、従来の分析法に比べて分析時間と試料損 失を大幅に削減できる可能性があります。また、画像データをもとに解析することが可能なため、化学薬品を使わず、環境への負担も軽減できます。これまでにない、「見て推定する」AI 解析となるため、製造現場でのリアルタイム監視にも応用可能となり、安定した品質の製品を効率よく作ることが可能となります。

 今後、本技術は製薬・食品・化学材料といった分野での現場導入・自動化が期待されます。また、スマートファクトリーにおける位置づけとして、AI と顕微鏡を組み合わせた省スペース・省エネルギーな現場機器への実現にも貢献が見込まれます。

 なお、本研究成果は 2025 年10月23日に学術誌「Journal of Drug Delivery Science and Technology」でオンライン公開されています。

本研究のポイント

  • 国内初の光学顕微鏡画像1)と深層学習2)を組み合わせた粉末成分比推定技術を開発 
  • 従来、化学分析や破壊試験が必要だった混合物の成分比を、非破壊検査3)かつ迅速に推定可能 
  • 製薬・材料・食品など多様な分野の粉末処理工程における工程監視・品質管理の効率化・コスト削減に貢献可能 
  • 実験データ上で高精度な予測を達成し、従来比で分析時間と試料損失を大幅に削減できる可能性を確認 
  • これまでにない画像解析型の AI アプローチとして、現場でのリアルタイム監視4)にも応用可能

 

背景

 粉末状の材料(医薬品成分や材料の混合物など)は、その成分比率を正確に把握することが品質管理上、極めて重要です。しかし、従来の方法では、化学分析装置での破壊検査や試薬を使った測定が必要で、時間やコストがかかるうえに、試料も失われてしまいます。特に製薬や材料産業では、「どのくらい混ぜたか」の管理が製品の安全性や歩留まりに直結するため、迅速かつ低コストに比率を把握できる技術が強く求められていました。

 

研究成果の内容

 本研究では、光学顕微鏡で撮影した粉末混合物5)の画像を使い、含まれる成分の比率を推定する新しい方法を開発しました(Figure 1)。具体的には、顕微鏡で撮った画像から粒子の形や色、表面の模様などの特徴を人工知能(AI)が読み取り、それをもとに「成分 A と成分 B の比率」を推測する仕組みです。

 AI には、畳み込みニューラルネットワーク(CNN) 6)という深層学習技術を用いています。この技術は、画像の微細なパターンや構造を自動で学習し、どの粒子がどの成分に対応するかを判別する能力に優れています。我々は、異なる比率で混合された粉末を多数用意し、AI に学習させました。その結果、AI は新しい混合比の粉末でも正確に成分比を推定できるようになりました。

 従来の分析法との大きな違いは、試料を壊さず、測定にかかる時間を大幅に短縮できる点です。従来なら数時間以上かかっていた成分比の測定が、顕微鏡での観察と AI による解析だけで数分程度で完了する可能性があります。さらに、この方法は画像データさえあれば実施できるため、化学物質の使用も減らすことができ、環境負荷の低減にもつながります。

 この技術は、製造現場でのリアルタイム監視にも応用可能です。例えば、医薬品の粉末を混ぜる工程で AI が常に成分比を監視し、均一性を自動でチェックすることができれば、人的なミスを減らし、安定した品質の製品を効率よく作ることができます。また、食品や化学材料など、粉末を使うあらゆる工程での品質管理にも応用可能です。

岩田先生プレスリリース

Figure1. 本研究の概要

 

今後の展開

 本技術は、製薬・食品・化学材料といった分野での現場導入・自動化が期待されます。今後は、さらに多様な粉末材料や実際の工場工程における画像を用いてモデルの適用範囲を広げ、リアルタイム監視や自動フィードバック制御を視野に入れたシステム構築を進めます。また、スマートファクトリーにおける位置づけとして、画像取得装置やAIエッジ処理を組み込んだ省スペース・省エネルギーな現場機器への展開も検討しています。

用語説明

1)光学顕微鏡(画像)

 光学顕微鏡は、レンズを使って肉眼では見えない微細な構造を観察できる装置。本研究では、粉末を拡大して観察した顕微鏡画像を用いている。

2)深層学習

 多層のニューラルネットワークを用いて複雑なデータパターンを学習する人工知能技術。画像認識や自然言語処理など幅広い分野で応用されている。

3)非破壊検査

 試料を壊すことなく、性質や構成を評価する分析手法。粉末の成分比を測定する際、従来の化学分析のように試料を消費せずに評価できる。

4)リアルタイム監視

 製造工程や観察対象を、時間遅延なく継続的に観測・解析する仕組み。異常検知や品質管理の自動化に利用される。

5)粉末混合物

 複数の粉末成分が混ざった材料。医薬品、化学材料、食品など幅広い分野で使用され、均一な混合が品質に直結する。

6)畳み込みニューラルネットワーク(Convolutional Neural Network, CNN

 画像や映像データの特徴を自動で抽出し、分類・認識・予測に利用するディープラーニング手法。顕微鏡画像解析などで微細なパターンや構造を学習するのに適している。

論文情報

  • 題目:Image-based estimation of component ratios in pharmaceutical powders using optical microscopy and deep learning

  • 著者: Hiroaki Iwata, Shungo Kumada, Yoshihiro Hayashi
  • 掲載誌: Journal of Drug Delivery Science and Technology
  • DOI10.1016/j.jddst.2025.107682

研究支援

 本研究は、ホソカワ粉体工学振興財団のHPTF23102の助成を受けたものです。

本件に関するお問い合わせ先

<研究に関すること>

鳥取大学 医学部 生体制御学講座 教授 岩田 浩明(いわた ひろあき)

 TEL: 0859-38-7615

 E-mail:iwata.hiroaki@tottori-u.ac.jp

<取材担当>

鳥取大学米子地区事務部総務課広報係

  TEL0859-38-7037

  FAX0859-38-6992

  E-mail: me-kouhou@ml.adm.tottori-u.ac.jp