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【プレスリリース情報】機械学習に基づく薬物体内濃度の予測モデル開発~安全かつ最適な個別化医療実現への寄与に期待~

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概要

 鳥取大学医学部生体制御学講座の岩田浩明教授らの研究グループは、最新の機械学習技術を活用し、従来用いられてきたコンパートメントモデルシミュレーションを経ることなく、患者の基本情報及び少数の薬剤血中濃度を用いて、血中濃度の時間的変化を詳細に予測できる新手法を国内で初めて開発しました。

 臨床試験の後期フェーズ(Ph3)における薬剤の血中濃度は、薬物動態と薬効の関係(PK/PD)を踏まえると、薬剤開発の成否を左右する重要な要因となります。そのため通常、早期フェーズ(Ph1/2)で得られた患者データ(生理学的データや血中濃度データなど)の分布をもとに、母集団薬物動態(コンパートメント)モデルが構築されます。このモデルを用いることで、後期臨床試験における薬剤の血中濃度を予測することが可能ですが、モデリングに際しては複数のモデル選択や共変量の選定が必要であり、解析は人の技術や経験に大きく依存しています。

 そこで本研究では、患者個人の情報と少数の薬剤血中濃度データから、各患者における血中濃度の時間的推移を詳細に予測可能な機械学習モデルを開発しました。本モデルは、麻酔薬の一つである「レミフェンタニル」のデータを用い、体内における血漿濃度の変化を予測することに挑戦し、その結果、バーチャルデータに加え、実際の患者データを用いた検証に成功し、血中濃度の推移予測において良好な精度が得られました。

 この技術は、従来のように人の経験に依存することなく、科学的根拠に基づいて薬物動態予測の精度を高めることができ、患者のベネフィット最大化や健康リスクの最小化に貢献すると考えられ、薬剤開発の成功に繋がる技術になると思われます。さらに今後の研究の進展により、病院やクリニックなどの実臨床への応用が期待され、個別化医療の実現にも寄与することが見込まれます。

 なお、本研究成果は2025年5月9日に学術誌「Molecular Pharmaceutics」で公開されています。

本研究のポイント

  • 最新の機械学習技術を活用し、患者ごとの生理的特徴及び薬剤血中濃度に基づいて詳細な薬剤血中濃度時間推移を予測する新たな手法を国内で初めて開発しました。
  • モデル構築には、麻酔薬「レミフェンタニル」の臨床試験データを用いました。
  • 臨床現場での活用には、今後さらなる検証と安全性評価が必要ですが、将来的には個別化医療の実現に貢献する技術となる可能性があります。

 

背景

 臨床試験の後期フェーズ(Ph3)における薬剤の血中濃度は、薬物動態と薬効の関係(PK/PD)を踏まえると、薬剤開発の成否を左右する重要な要因となります。そのため通常、早期フェーズ(Ph1/2)で得られた患者データ(生理学的データや血中濃度データなど)の分布をもとに、母集団薬物動態(コンパートメント)モデルが構築されます。このモデルを用いることで、後期臨床試験における薬剤の血中濃度を予測することが可能ですが、モデリングに際しては複数のモデル選択や共変量の選定が必要であり、解析は人の技術や経験に大きく依存しています。

 

研究成果の内容

 本研究では、麻酔薬のひとつである「レミフェンタニル」を対象に、患者の基本情報(年齢、体重、性別など)に加え、少数の血中濃度を用いた機械学習モデルを構築しました。このモデルにより、個々の患者におけるレミフェンタニルの詳細な血中濃度の時間推移を予測することが可能となります。

 実際の患者データを用いた検証では、高い精度で濃度の推移を再現できることが示され、個別の薬物動態を捉える手法としての有効性が確認されました(図1)。本手法は、機械学習手法というこれまでの推定手法とは異なる手法を適用し、患者ごとの情報に基づいてモデルが動的に適応する点が大きな特徴であり、今後の薬剤開発の成功に繋がる基盤技術として期待されます。

岩田先生プレスリリース

1. レミフェンタニルの体内での血漿濃度の遷移を予測する機械学習手法

 薬が体内でどのように変化するか(吸収、分布、代謝、排泄)を、機械学習により推定。左の図の青や緑の時点の測定値をもとに、各時間点における血中濃度を予測した(論文Figure 2を改変)。

 

今後の展開

 本研究は、機械学習による薬物濃度予測という新しいアプローチを通じて、薬剤開発の成功、個別化医療の実現に向けた可能性を提示するものです。今後の発展を通じて、医療の質の向上や医師の負担軽減に加え、患者一人ひとりに最適な医療を届ける未来の実現に貢献することが期待されます。

 

用語説明

1)機械学習

機械学習とは、コンピュータが人間のように学習し、データを元に予測や判断を行う技術のことです。特に、大量のデータを解析してパターンを見つけることに優れています。例えば、スマートフォンの顔認証や自動運転車などにも使われています。

2)麻酔薬

麻酔薬は、手術や治療の際に使用される薬で、患者が痛みを感じないようにしたり、意識を失わせたりするために使われます。麻酔薬は、使いすぎると危険があり、適切な量を決めることがとても重要です。

3)レミフェンタニル

レミフェンタニルは、強い鎮痛作用を持つ麻酔薬で、特に手術中に痛みを管理するために使われます。非常に効果的ですが、適切な量を投与することが重要です。

4)個別化医療

個別化医療は、患者一人ひとりの遺伝情報や生活習慣、病歴に基づいて、最適な治療法を選ぶアプローチです。これにより、治療効果が高まり、副作用を減らすことができます。

5)血中濃度

血中濃度は、薬物が血液中にどれだけの量存在しているかを示す指標です。薬物が体内でどのように働くかを理解するためには、この濃度を正確に知ることが必要です。

6)リアルタイム

リアルタイムとは、出来事やデータが発生したときにそのまま処理されることを意味します。例えば、手術中に患者の状態が変化した際、すぐに対応できることを指します。

論文情報

  • 題目:Machine Learning Prediction and Validation of Plasma Concentration Time Profiles
  • 著者: Hiroaki Iwata, Michiharu Kageyama, Koichi Handa
  • 掲載誌:Molecular Pharmaceutics
  • DOI10.1021/acs.molpharmaceut.4c01431

研究支援

 本研究は、JSPS科研費JP24H01771および日本臨床薬理学研究財団の助成を受けたものです。

本件に関するお問い合わせ先

<研究に関すること>

鳥取大学 医学部 生体制御学講座 教授 岩田 浩明(いわた ひろあき)

 TEL: 0859-38-7615

 E-mail:iwata.hiroaki@tottori-u.ac.jp

<取材担当>

鳥取大学米子地区事務部総務課広報係

  TEL0859-38-7037

  FAX0859-38-6992

  E-mail: me-kouhou@adm.tottori-u.ac.jp