【消化管グループ】
臨床研究 (1)胃・食道癌発生メカニズムに関する研究 内視鏡的切除または外科的切除した胃癌標本を用いて、癌関連蛋白発現などを解析して悪性度・進行度予測因子を検討してきました。最近ではFhit蛋白発現異常と飲酒、喫煙との関係を報告しています。さらに食道癌に併存する早期咽頭癌の飲酒・喫煙によるfield cancerizationによる発癌機構の一序を明らかにしました。また、鳥取県内基幹病院と協力して表在食道がんの臨床疫学調査を行っています。内視鏡治療に患者を対象に予後調査を行い、他癌死、他病死のリスクファクターも検出する事が目的です。 (2) 上部消化管出血に関する臨床疫学的研究 上部消化管出血の発生頻度、原因疾患、NSAIDsや抗血栓薬の使用状況、H. pyloriとの関係、PPI等の使用状況を調査しています。また、上部消化管出血の発症や治療成績にどの程度関与しているかも検討しています。島根大学との連携で多施設前向き研究を行い(鳥取、島根の14施設)、出血患者の死亡リスク因子を明らかにしました。 (3) ピロリ菌検査事業の実態調査および胃癌予防効果の検証 鳥取県伯耆町にてH. pylori抗体検査結果より内視鏡検査勧奨、除菌療法誘導の取り組みが2014年度~2018年度まで行われました。さらに、鳥取県・協会けんぽの共同事業として、30-50歳代の働き盛り世代の大規模ABC検診を実施し、H. pylori感染状況と胃粘膜萎縮程度の全県的把握、特にH.pylori陽性者に内視鏡検査勧奨、除菌介入による胃発癌予防と胃癌死亡率減少効果の検証を行う予定です. (4) 炎症性腸疾患のパイエル板微細構造解析と応用 クローン病は回腸末端に好発する原因不明の炎症性腸疾患です。回腸末端にある最大の腸管関連リンパ組織であるパイエル板に注目し、拡大内視鏡による微細構造を解析しています。クローン病ではパイエル板の表面構造異常が明らかで、走査電顕でM細胞や吸収上皮に不整がみられました。潰瘍性大腸炎で超拡大内視鏡観察を行い、長期予後との関連性を報告しています。拡大内視鏡観察による粘膜治癒像と便マーカー、組織学的治癒、再燃、手術などに関して前向き多施設共同研究も行っています。 (5) PDT(光線力学的療法)の実用と展開 2015年化学放射線治療後の再発・遺残食道癌にレザフィリンPDTが保険収載されました。当科では中国地区初となるレザフィリンPDTを導入し県内外の症例を集積しています。また、新たな光感受性物質を用いた温熱光線力学的療法、さらには胆膵癌への応用など独自の取り組みを行います。 (6) 光技術がもたらす消化器癌高精細診断法の開発 レーザー内視鏡スコープによる胃癌の光線力学的診断(PDD)を開発しました。より診断能の高い内視鏡スコープの試作を目指します。胆膵領域への応用も視野に入れ、5-アミノレブリン酸→ポリフィリンの中間代謝産物の光生化学的分析を行い、新規の癌バイオマーカーを探索しています。分子イメージングにより癌の高精細な蛍光診断法を開発します。
基礎研究 (1)ゲノム情報を基盤とした食道アカラシアの病態解明 アカラシアに対する経口内視鏡的筋層切開術を山陰地区で初めて導入し、筋層生検試料を用いた網羅的遺伝子発現解析を実施しています。 (2)PDD/PDT(Theragnostics)の基礎的研究 診断と同時に治療が行えるTheragnosticsが注目を集めています。癌組織内のポルフィリンの集積性を局在化できれば発癌、癌進展のメカニズムの解明にもつながります。1細胞解析やオミックスの統合解析を行うことでトランスレーショナルリサーチが具現化できるものと期待しています。さらに、筑波大と量子科学的ユニットを形成し、医学物理と臨床の異分野融合を目指しています。
【胆膵グループ】
臨床研究 (1)膵腫瘤およびリンパ節腫脹に対する超音波内視鏡下生検におけるサンプル中の標的検体検索を容易にする標的検体確認照明器の有用性の検討 超音波内視鏡下生検の際に病理医の人手不足により迅速細胞診が導入できない施設が大半を占めています。我々はこの問題を解決するデバイスを企業と開発して上市し、国内のhigh volume centerと多施設共同臨床試験を行っています。 (2)合成セクレチン製剤を用いた膵液細胞診による膵癌診断に関する検証試験 膵癌に対する膵液細胞診の正診率は50%前後と未だ十分ではありません。我々は膵液細胞診時に合成セクレチンを用いることでその診断能が向上するかを検証しています。 (3)体外式腹部超音波検査による膵描出の客観性に関する検討 CT・MRI・超音波内視鏡検査で指摘された膵腫瘍や膵嚢胞性病変を、体外式腹部超音波検査で描出することができるのかを解析し、膵癌の早期発見できるかを検証しています。また、Realtime Virtual Sonographyを実施することで膵描出改善を目指しています。 (4)山陰地方における膵胆道癌診療実態調査 鳥取大学消化器内科関連病院の胆膵癌診療の実態を調査し、診療形態の均霑化に繋げたいと考えています。 (5)経口胆道鏡、膵管鏡による胆膵疾患の診療成績に関する検討 経口胆道鏡を用いた胆道癌に対する直視下生検の診断能について、従来の透視下生検との比較や超音波内視鏡下穿刺吸引法との比較を行っています。診断精度の向上を目的に基礎的な研究も検討しています。
これら臨床研究に連動し、胆膵癌の新規治療法の基礎実験やKL-6など新規バイオマーカーの探索も行っています。
【肝臓グループ】
臨床研究 (1)肝炎ウイルス陽性者受診勧奨システムおよびHBV再活性化対策の実態 鳥取大学医学部附属病院の電子カルテアラートシステムを活用した、肝炎ウイルス陽性者受診勧奨およびHBV再活性化対策の実態を明らかにし、肝炎ウイルス陽性者を適切な肝疾患診療につなげ、HBV再活性化による肝炎を防ぐための効果的な多職種院内連携体制を構築すべく取り組んでいます。 (2)鳥取県の初発肝細胞癌(HCC)の成因・背景因子・サーベイランス遵守状況の調査 鳥取県における肝細胞がん死亡率・肝炎ウイルス陽性率は全国平均よりも高く、肝細胞癌の早期診断と肝炎ウイルス陽性者の掘り起こしが重要な課題です。鳥取県内の主な医療機関、鳥取県健康対策協議会、鳥取県肝疾患相談センターと協力して、肝発癌高危険群に対するサーベイランス対策を行っています。B型・C型肝炎ウイルス陽性患者さんの掘り起こしや市民向け講演会による啓発活動を行っています。非B非C型の肝細胞癌患者さんに共通の特徴を調べ、高危険群を選別する方法を検討しています。 (3)体表画像を用いた食道静脈瘤の検出法の研究 食道静脈瘤破裂は、現在も肝硬変患者さんの致死的な合併症の一つです。これまで、食道静脈瘤を予測する方法として、血小板数、脾臓のサイズ、肝硬度など様々な低侵襲検査法が提案されてきました。我々のグループは、スマートフォンの血管強調アプリを用いて、体表に浮かび上がる拡張した腹壁静脈瘤(AWV)の検出が可能になる事を発見し、新たなAWVのグレード分類を開発しました。この分類により、非接触で体表から食道静脈瘤の存在を検出できる可能性が明らかになり全国学会で発表しました(第107回日本消化器病学会総会ワークショップ)。今後更に、体表画像解析の研究を進めていく予定です。 (4)非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH)に対する高脂血症治療薬ぺマフィブラートの肝機能改善効果の研究肝細胞癌治療法についての臨床研究 肝臓病における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH)の占める割合は増加傾向ですが、標準治療は未だ確立されておらず、有効な治療法の確立が課題となっています。我々は、実臨床で高脂血症治療薬ペマフィブラートがNAFLD/NASH患者さんの肝機能を劇的に改善する事を経験したことを基にして、内分泌代謝内科のグループと共同で、後ろ向きにその肝機能改善効果を検証しました。その結果、ぺマフィブラートが6か月間でALT値とγGTP値を約50%低下させることを世界で初めて報告しました(Ikeda S, et al. Yonago Acta Medica 63:188–197.2020).今後も更にその有効性を継続的に検証していきます。 (5)エコー指導におけるgamificationを用いた効果的な教育法の開発 近年のエコー機器の進歩により、携帯性が増し、ベッドサイドで検査を実施する事が可能となりました。このことにより、医師や検査技師のみならず、多くの医療者がエコーに触れる機会が増加する事が予想されます。しかしながら、教育訓練に関しての手法の開発は遅れており、より簡便に、楽しみながら、効果的に学習する方法の開発が望まれます。そこで我々は、gamificationによる学習に注目し、小中学生にも楽しみながら、エコーが学べる学習キットを企業と共同で開発しています。すでに附属中学校の生徒さんたちに、開発した学習キットを使い、遊びながらエコーについて学ぶ授業を実践しています。今後更にキットの改良を行い、ハンズオンセミナーを開催していく予定です。
基礎研究 (1)ラットの肝細胞癌モデルを用いた肝細胞癌予防や治療薬物の探求 Diethylnitrosamine (DEN)という薬物をラットに腹腔内投与すると、ヒトに類似した肝細胞癌ができます。このラット肝細胞癌モデルに対して、カフェイン、ウコン、クルクミン、シリマリン、ゲラニオール等のフィトケミカルを投与して、ラットの肝細胞癌の予防効果を検討してきました。 (2)非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH)に対する高脂血症治療薬ペマフィブラートの肝機能改善効果の研究 肝臓病における非アルコール性脂肪肝疾患(NAFLD)/脂肪肝炎(NASH)の占める割合は増加傾向ですが、標準治療は未だ確立されておらず、有効な治療法の確立が課題となっています。我々は、実臨床で高脂血症治療薬ペマフィブラートがNAFLD/NASH患者さんの肝機能を劇的に改善する事を経験したことを基にして、内分泌代謝内科のグループと共同で、後ろ向きにその肝機能改善効果を検証しました。その結果、ぺマフィブラートが6か月間でALT値とγGTP値を約50%低下させることを世界で初めて報告しました(Ikeda S, et al. Yonago Acta Medica 63:188–197.2020).今後も更にその有効性を継続的に検証していきます。 (3)肝内胆管がんに対する新規分子標的治療薬の開発 肝がんの中でも肝内胆管がん(ICC)は難治がんに分類され、近年全世界的に増加傾向と報告されています(タイでは1985年から4-5倍、豪州では1990年代の5-7倍)。早期発見が難しく,比較的早期では外科切除の適応になりますが、切除不可能例の治療法は限定的で、胆管がん(ICCを含む)の5年生存率は7-20%と予後が不良です。標準治療は殺細胞性の化学療法が主で、分子標的治療薬を含む新たな治療法は遅れており、新規の分子標的治療法の開発は喫緊の課題といえます。我々のグループは、転写調節因子YAP(Yes-associated protein)をターゲットにした新規分子標的治療薬の開発に取り組んでいます。
【腎臓グループ】
臨床研究 (1)慢性腎臓病(CKD)における腎超音波所見の検討 CKD患者を対象に超音波検査による新しい組織硬度測定や腎実質の萎縮度評価により腎機能、腎予後との関係を検討しています。CKD患者を対象に超音波検査で腎皮質/髄質比を測定し、その経時的変化と腎不全の進行について検討しています。Virtual touch quantificationという技術を用いて、腹部超音波下に腎高度測定を行い、非侵襲的な線維化の評価により早朝の腎障害を予測できる可能性が示唆されました。 (2)腎臓病のイメージング診断 当科では、腎臓領域でのあたらしいイメージング法開発に取り組んでいます。腎生検組織に蛍光プローブを用いて緑色やオレンジ色に発光させ迅速評価を可能とする手法を見いだしました。 (3)腎不全と関連する合併症 透析患者における感染症や心血管疾患などの合併症について、診断や治療にいて様々な視点から検討しています。また急性腎障害に伴う透析の離脱についての予後予測や、透析患者の高齢化により問題となっているサルコペニアの診断などについても検討を行っています。
基礎研究 (1) 長寿遺伝子SIRT1は腎メサンギウム細胞における酸化ストレスならびにTGFβによるアポトーシスを制御しうることが報告され、腎不全の進展にも関与しています。アンジオテンシンⅡはSIRTの発現を減弱することが報告されており、慢性腎不全モデルラットを用いて、ARBのSIRT1を介した腎保護効果が明らかをしました。 (2) ヘンレ係蹄上行脚と遠位尿細管のネフロンで産生されるuromodulinに着目しています。細胞接着やシグナル伝達を調節や尿路結石の予防効果が知られていますが、新たな分子生理学的作用を解析します。 (3) 腎臓病と脂質代謝 肝臓への脂肪沈着はNASHという病態として広く知られています。腎臓においても、尿細管への脂肪沈着は腎障害を起こしますが、その詳細については不明です。動物モデルを用いて、尿細管への脂肪沈着に随伴する腎障害のメカニズムについて小胞体ストレスに着目して研究を進めています。
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