解剖学講座

Department of Anatomy

分野の特色

  解剖学講座は、教育研究の充実を図るために形態系の2分野(形態医学分野と形態解析学分野)が統合されたものである。
  教育では広く人体(臓器・組織・細胞)の正常構造と機能について講義・実習を担当している。系統解剖実習では、基礎的な肉眼解剖を詳細に理解させるとともに、臨床解剖の要点を取り入れて、基礎医学と臨床医学の関連性を意識した教育を行っている。組織学実習では、バーチャルスライドシステムを活用して効率的で理解しやすい教育を行っている。また、コミュニケーション教育としてろう者の講師とともに基礎手話および医療手話教育を担当しており、聴こえない方々が望んでいる“手話のできる医師の養成”を目標としている。
  研究では生命の構造と機能についてマクロ(肉眼解剖、古人骨等)からミクロ、ナノレベル(電子顕微鏡、分子発現、脳と生理機能等)まで広く対象としている。詳細は下記の説明を参照していただきたい。 

分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明

*解剖所見の検討・報告
  解剖学実習で発見される肉眼解剖学的・病理学的・臨床医学的に注目すべき所見について症例報告を行っている。特に、画像診断や治療に有用な所見に注目して検討・報告している。

*感覚神経終末の分子発現
  免疫電顕法などを使って感覚神経終末の分子発現を解析して、感覚受容とその異常のメカニズムを探究している。また、感覚神経終末の形態形成に関わる分子発現についても詳細な検討を進めている。

*走査型電子顕微鏡のための試料作製法の開発とその病理組織診断への応用
  細胞・組織を3次元的に観察するための試料作製法の開発・検討を行っており、細胞小器官や組織の3次元的構築の解析のみならず、新しい技法を用いて、腎生検標本をはじめとして病理組織パラフィン切片の迅速3次元解析法の開発・実用化を行っている。
   参考 http://www.microscopy.or.jp/magazine/49_2/49_2j14si.html

*神経新生
  2000年代初頭までは、ヒトの脳では、生後、ニューロン(神経細胞)が新たに生み出されることはないと信じられていた。しかし現在では、生後であっても(しかも老齢を迎えても)、脳の海馬と嗅球でニューロンが恒常的に生み出されていること(神経新生 neurogenesis)が見いだされている。海馬は、学習・記憶を担う重要な脳領域であり、また、情動をコントロールする場のひとつでもある。神経新生の促進・抑制は、こうした海馬機能に直接影響を与えることが容易に想像できる。私たちは、海馬の神経新生を促進・抑制する刺激の探索とその作用機序の解明に取り組んでいる。加えて、血中因子が海馬に作用する可能性が見出されたことから、その仕組みの検討も行っている。こうした知見は、加齢や外傷による海馬機能の低下を改善し、維持・向上させるための予防医療につながるものと考えている。
   参考 Brain Behav 10: e01544 (2020); Neurosci 385:121-132 (2018); Brain Res 1588:92-103 (2014);
      Neurosci Res 58:140-144 (2007)

*再建皮膚内における知覚神経再生機序の解明と促進刺激の探索
 皮弁は外傷や腫瘍切除等によって失われた組織を補うことを目的として用いられる再建材料であり、十分な血流が維持されることで新たに被覆した部位で生着する。さらに、回復までの時間を要するものの、生着した皮弁では知覚が回復することも良く知られている。しかしながら、こうした知覚の回復は経験的に広く受け入れられているが、基盤となる神経再生の機序や促進する刺激などは不明なままである。そこで私たちは、ラットを用いてこれらの解明に取り組んでいる。知覚の回復は患者のQOL向上に直接つながることから、モデル動物による解析結果を臨床に応用していきたいと考えている。

*自律神経調節回路の形態学的・生理学的解析
 生体恒常性を維持するために、末梢からの感覚が脳や脊髄に入力し、脳内神経回路を経て出力されることによって臓器制御が行われている。この複雑な自律機能の神経回路の形態的あるいは機能的な詳細はまだ全て明らかとなっていない。我々は自律機能調節のうち呼吸調節回路に焦点を当て、血中の化学情報(低酸素や高二酸化炭素)によって惹起される呼吸促進と睡眠からの覚醒の関係について解析を行っている。呼吸と覚醒の密な連携を明らかにすることにより、睡眠時無呼吸の発症機序の解明に貢献できると考えている。
   参考 J Comp Neurol 523:907-920 (2015); Brain Res 1404:10-20 (2016)

 *渇感と飲水のメカニズム
 「のどが渇いた!」という感覚(渇感 thirst)は、飲水による水分補給を促し体液の恒常性維持に重要である。ヒトや大部分の脊椎動物では、渇感は前脳の終板器官(渇中枢 thirst center)で生じる。近年、高齢者が夏季に脱水症で死亡する例が増えており、その原因として渇感認知能の低下が挙げられているが、その病態の機序はほとんど分かっていない。一方、飲水の際の嚥下は後脳の嚥下中枢を構築する神経回路によって精密に制御されているので、脳の神経変性や外傷による脳機能の低下は嚥下障害を引き起こす。これは水や食物の摂取を妨げてQOLの低下を引き起こすだけでなく致死的となることも多い。しかし、嚥下反射の神経化学的・神経生理学的調節機序の全貌解明には至っていない。私たちは、シンプルな脳の構造をもち、関与する筋の種類の少ない魚類を用いて、渇感から嚥下に至る神経機序の解明を目指している。こうした基盤モデルから得られる知見を立脚点とし、水電解質代謝と嚥下に関わる神経疾患を克服するための糸口を探っている。
   参考 J Comp Physiol B 186: 891-905 (2016); Cell Tissue Res 388: 225-238 (2022)

*古人骨の形態解析
 モンゴルの匈奴期人骨、中国の新石器時代人骨、バハレーンのディルムン期人骨、サウジアラビアのPPNB期人骨など海外での発掘および資料整理を進めている。また、国内では、石垣島の白保竿根田原洞穴遺跡から出土した後期旧石器時代の化石人骨に関する形態分析に携わっている。これらの古人骨資料から、人類の拡散・移動の中でも、アジアにおける地域集団の起源と変異の解明を目指している。また、社会および自然環境の変化が生物としてのヒトの体に与えた影響に関心をもち、農耕や遊牧の普及による人類の健康状態や行動様式の変異を探っている。
   参考 Anthropol Sci 132:65-77 (2024); Int J Paleopathol 24:236-244 (2019)

スタッフ

教授   海藤 俊行      E-Mail:kaidoh(at)tottori-u.ac.jp
准教授  椋田 崇生      E-Mail:mtakao(at)tottori-u.ac.jp
准教授  横田 茂文      E-Mail:yokotas(at)tottori-u.ac.jp
講師   濱崎 佐和子     E-Mail:hamasawa(at)tottori-u.ac.jp 
助教   岡崎 健治(学部内講師)     E-Mail:ken_okz(at)tottori-u.ac.jp
助教   小山 友香(学部内講師)     E-Mail:ykoyama(at)tottori-u.ac.jp
プロジェクト研究員   稲賀 すみれ     E-Mail:sumire(at)tottori-u.ac.jp
事務補佐員   澤口 久乃 
※(at)を@に変えてください。

 電話番号

TEL 0859-38-6011
       0859-38-6023

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