萩野浩先生
基礎看護学講座 教授
鳥取大学 医学部 保健学科
基礎看護学講座 教授
研究内容
- 足腰をいつまでも若々しくするための取り組み
健康寿命を引き延ばそう
日本は世界に誇る長寿社会です。全人口に対して65歳以上の人口が7%を超えると高齢化社会、14%を超えると高齢社会、そして21%を超えると超高齢社会と呼ばれます。わが国は、1970年に高齢化社会、1995年に高齢社会に、そして2007年に超高齢社会となりました。日本人は世界に先駆けて、古来、人類が渇望してきた「長寿」を手に入れたのです。
私たちの研究室では、長寿を目指すためには何をすれば良いかをテーマにしてきました。単に長生きするという長寿でなく、健康長寿、すなわち介護予防が研究の目標です。骨折・転倒と関節疾患が介護に至る主な原因の1/4を占めます。これは骨・関節・神経・筋肉といった、運動のための臓器、「運動器」の障害です。そこで私たちは地域高齢者の皆さんの運動器検診を続けてきました。
歩く速度、握力、骨密度、筋肉量などの運動器の状態をチェックし、その障害が起こっていないかを調べたのです(図1)。そしてロコモティブシンドローム(ロコモ)になっていないか判定しました。ロコモとは「運動器」の障害のために介護が必要になる可能性が高い状態です。
調査の結果、ロコモになっている方はそうでない方に比べて、3倍近く転倒・骨折しやすいことがわかりました。そこでロコモの方ひとりひとりに合わせた運動を指導して、介護にならないようにする取り組みをした結果、運動を長続きすることができるとわかりました。さらにフレイル(虚弱)対策では、スクリーニングした人に運動や生活の指導を実施したところ、3カ月後にはフレイルが改善していました(図2)(橘田勇紀, 米子医誌 73: 1-10, 2022)。ロコモやフレイルの人は、何も対策をしないと介護が必要になってしまうので、このような人々を早く見つけ出して、科学的に適切な運動や生活指導によって介護を予防することが大切です。
鳥取県で私たちが行ってきた骨折疫学調査では、股の付け根の骨折(大腿骨近位部骨折)は80歳を超えてから発生が急に多くなることがわかりました(図3)(Hagino H, Arch Osteoporos, 2020; 15: 152)。この骨折発生率は2010年までは年々上昇していたのですが、2010年以降は上昇が見られないことも明らかになりました。これは、高齢者の皆さんの健康に対する意識が高まったことや、骨折予防対策が進んだためと考えています。
できるだけ多くの人が、年をとっても自分で自由に動いて、やりたいことが思うように続けられるための研究を、今後も続けていきます。
今後の展望
ご高齢の方々が元気で、社会のパワーとなって、若者をサポートし続けてもらえるような日本になってほしいと思っています。私たちの研究から明らかになった運動器の健康維持の方法は、骨や関節、神経や筋肉を若々しく保つことにつながります。また、アジアの他の国々では、今後、わが国以上に高齢者が増えてくると予想されています。研究結果から得られた健康寿命延伸のノウハウを、それらの国々に広めることで、新しいビジネスチャンスが生まれると期待しています。
受験生へのメッセージ
皆さんはどのような自分の将来を想像していますか?地域に密着した鳥取大学は、これから必要な予防医学や介護予防のための研究を進めやすい環境にあります。元気な日本の将来のための研究を一緒にして、豊かな科学的知識を有する医療人を目指しましょう。