鳥取大学医学部 脳神経医科学講座 脳神経内科学分野

診療案内

対象疾患

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脳血管障害

脳卒中は、脳の血管が急に詰まったり、破れたりして脳に障害をきたし、様々な症状を起こす病気です。
脳卒中には、血管が詰まるタイプの脳梗塞、血管が破れるタイプの脳出血とくも膜下出血があります。
脳梗塞や脳出血では突発する神経症状が特徴で、半身(顔、上肢、下肢)の脱力感、半身のしびれ感、言語障害(呂律が回らない、言葉がスムーズにでてこない等)、視野障害が見られます。
くも膜下出血は突発する激しい頭痛が特徴です。
脳卒中の発症には高血圧、脂質異常症、糖尿病、大量飲酒、喫煙、心房細動等、様々な危険因子が関連しており、それぞれの疾患を引き起こす生活習慣を是正する必要があります。

当科では脳卒中の中でも脳梗塞を中心に診療を行っております。
特に超急性期脳梗塞に対する治療(発症4.5時間以内の脳梗塞を対象としたrt-PAによる血栓溶解療法、脳神経外科と協力し発症6時間以内の脳主幹動脈閉塞例を対象とした血栓回収療法)に積極的に取り組んでおります。
また、併せて脳梗塞の原因検索を行い適切な再発予防・指導を行っております。
脳梗塞発症後は鳥取県西部地区脳卒中地域連携計画書に基づき、急性期医療とそれに続く回復期リハビリテーション、再発予防と再発時の速やかな対応を含めたかかりつけ医、維持期施設、それぞれの医療機関との連携を充実させる取り組みを行っており、早期の在宅復帰や在宅療養継続を目指しております。

脳炎・髄膜炎

脳炎・髄膜炎は、「脳」自体や、脳を包み込んで保護している膜「髄膜」の炎症性疾患の総称で、様々な病態が含まれます。
髄膜のみに炎症がとどまる「髄膜炎」の場合よりも脳実質にも炎症が波及する「脳炎(髄膜脳炎)」の方がより重篤な症状になることは想像に難くありません。

原因は大まかに、

  1. ヘルペス等のウイルス、細菌、真菌(カビ)等が中枢神経に感染
  2. 感染症回復後やワクチン等接種後に一定期間をあけて二次的(免疫反応等)に生じるもの
  3. 膠原病等の自己免疫疾患に伴うもの
  4. 腫瘍(癌)などの直接的な中枢神経侵襲(原発性や転移性)によるもの
  5. 腫瘍(癌)が作る物質(抗体など)が間接的に引き起こすもの
  6. その他
と多岐にわたります。
症状は中枢の炎症に伴い、頭痛、発熱、異常行動、痙攣発作、意識障害といった症状が生じます。
風邪や胃腸炎のような症状が先行することもあります。
経過も、原因によって数日で進行する急性経過から、月単位の慢性の場合もあり様々です。
どの原因に関しても極力早くに診断し、適切な治療を行うことが後遺症や致命率(死亡率)といった予後の改善につながります。

診断は、経過、髄膜刺激兆候(首が硬くなる)の確認、頭部画像検査(MRIやCT)、血液検査や腰椎穿刺(髄液検査)、脳波検査等を行い総合的に判断します。

治療方法については、原因にもよりますが、病原体の直接的な侵入であれば病原体に応じた抗ウイルス薬、抗菌薬、抗真菌薬を投与します。
自己免疫反応が関連する病態では免疫抑制剤(ステロイド薬等)、血液浄化療法(血液内の抗体等の原因物質を除く目的で血液を洗う治療)、免疫グロブリン点滴といった免疫療法が検討されます。
腫瘍関連の病態では腫瘍そのものの治療を行うことも重要です。さらに、リハビリテーションも並行して行います。
早期診断が大事であることは前述しましたが、救急対応で検査を行った時点で明確な診断に至らない場合が多く、特に血液や髄液の特殊検査は検査結果判明までに数日から数週かかることも珍しくありません。
早期治療が大事ですので、治療可能な疑わしき原因候補については、まだ見込みの状態でも治療を開始します。
治療による副作用の危険性もあるので、治療を進める中で判明した検査結果に応じて、真の原因に応じた治療に絞り込んで行きます。

未だ原因不明・治療法不明で研究途上の脳炎・髄膜炎もありますが、研究の進歩によりこの20年程度の間に診断、治療できるようになった(疾患概念が確立された)ものも多くあります。
当科では全国の大学などの研究機関、検査機関とも連携し、より正確な診断が早期にできるような体制を整えています。
また、患者さんのより良い回復のために治療に力を尽くしています。

認知症

認知症とは、認知機能(記憶、遂行機能、言語、注意、視空間認知)の低下により日常生活に支障がでた状態の総称です。
認知症を来す原因は、脳血管障害、甲状腺機能低下、ビタミン低下などによるものや、アルツハイマー型認知症、レビー小体型認知症、前頭側頭葉変性症など神経変性疾患と呼ばれる進行性の脳疾患まで非常に多岐にわたります。
原因により対応が大きく異なるため、鑑別診断はとても重要です。

わたしたちは、まず本人および家族の方から詳細な病歴と生活状況の聴取を行ったのち、神経学的診察、神経心理検査を行っています。
その後、内分泌疾患や正常圧水頭症、慢性硬膜下血腫など治療可能な認知症を見逃さないために、血液検査、脳形態画像検査(CT、MRI)を行います。
さらに、必要に応じて核医学検査(脳血流SPECT、MIBG心筋シンチグラフィー、ドパミントランスポータSPECT)や脳脊髄液バイオマーカー(アミロイドβ、リン酸化タウ)を組み合わせて、総合的に診断を行っています。
治療に関しては、抗認知症薬や状況に応じて行動心理症状に対する薬物療法、社会資源の利用を中心とした非薬物的対応の指導を行っております。
また、積極的に抗認知症薬の治験に参加するようにしています。

当科は日本認知症学会教育施設であり、日本認知症学会専門医・指導医および認知症サポート医といった認知症に精通した専門医が診断と治療にあたり、専任の看護師、公認心理師、ソーシャルワーカーがチームとなって受診から診断後支援まで、切れ目のない認知症診療を行っております。
また、鳥取県基幹型認知症疾患医療センターにも指定されており、認知症の啓発、診療レベルの向上、診断後支援の充実を目指し、地域の認知症に関わるすべての機関と連携をとっています。

詳細はこちらのHP「 鳥取県基幹型認知症疾患医療センター」もご参照ください。

パーキンソン病

パーキンソン病は動きが遅くなる、筋肉がこわばる、ふるえるなどの症状が出現する神経変性疾患です。
中脳の黒質ドパミン細胞の減少により発症します。
診断は神経診察と症状、症状の経過に加えて、脳MRIや核医学検査や採血などで他の原因になるような疾患がないことを確認して行います。
パーキンソン病の場合には効果的なレボドパ内服薬がありますので、副作用に注意しながら内服を始めます。
長期の多量内服により、効果の持続が短くなる現象(ウェアリングオフ)や勝手に体が動く(ジスキネジア)などの症状がでてきてしまうことがあるため、それを防ぐためにも種々の抗パーキンソン病薬を組み合わせて使用します。
また、内服薬のみでは一日の中で効果がみられる時間(オン)が一定して得られなくなった場合には、深部脳刺激療法(DBS)やレボドパカルビドパ経腸療法(LCIG)(デュオドーパ®)など内服以外の治療手段も考え行きます。
パーキンソン症候群とは、症状はパーキンソン病に似ているものの、パーキンソン病ではないもののことです。
他の病気や薬の副作用のもの、他の神経の症状が加わっている別の神経変性疾患など多くを含みます。
別の神経変性疾患とは、多系統萎縮症、進行性核上性麻痺、大脳基底核変性症などです。
これらの診断確定は長く経過をみないとわからず、亡くなられてから病理学的に診断しないとわからないこともあります。
これらのパーキンソン症候群では、内服薬が効果が出にくいため、合併症の発現に気を付けてケアを行いリハビリや生活環境を整えていきます。

当科ではパーキンソン病の治療に経験のある医師が多くおります。
日本パーキンソン病・運動障害疾患学会(MDSJ)の会員および役員も多くそろっております。
最新の知見をもとに、新しい治療の導入を積極的に行っており、内服以外の治療法も可能です。
また、パーキンソン症候群においても、鑑別診断を行い、長く経過を追って診断の確定および一人一人に応じた種々の合併症の対応を行っています。
またリハビリとの連携も行っています。
また、治験にも積極的に取り組んでいます。

脊髄小脳変性症

脊髄小脳変性症とは

脊髄小脳変性症は、主に小脳の異常により、歩行時のふらつきや、手の震え、ろれつが回らない等の症状が出現する病気です。
動かすことは出来るのに、動きを上手にコントロール出来ない、という症状で、”運動失調”と呼びます。
この様な運動失調をきたす病気の中で、腫瘍(癌)、血管障害(脳梗塞 、脳出血)、 炎症 (小脳炎、多発性硬化症)、栄養障害といったものが原因ではない病気を総称して、脊髄小脳変性症と呼んでいます。

日本全国で3万人を超える数の脊髄小脳変性症の患者さんがいるといわれています。
脊髄小脳変性症の中で、遺伝しない脊髄小脳変性症(孤発性脊髄小脳変性症)が最も多く、全体の3分の2を占めます。
孤発性脊髄小脳変性症の中でもっとも多い病気は多系統萎縮症という病気です。
残る3分の1は遺伝性の脊髄小脳変性症です。

多系統萎縮症

多系統萎縮症は、小脳、大脳基底核、自律神経の3つの系統が様々な程度に障害される疾患です。
小脳失調が目立つタイプ(MSA-C)、大脳基底核が主に障害されパーキンソン病と同じような動作の緩慢さを呈するタイプ(MSA-P)、自律神経が主に障害され、ひどい立ちくらみや排尿の問題、重度の便秘、発汗の障害、性機能障害などがみられる自律神経型の3つのタイプにわけられます。

以前は、これらのタイプは別の疾患と考えられていましたが、どのタイプも脳内にαシヌクレインという物質がたまりGCIとよばれる構造物が出現することが判明し、現在では多系統萎縮症と総称されています。
症状が進んでくると3つのどのタイプも他のタイプの症状を合併するようになります。
遺伝性はなく、原因については現在研究が進められています。

診断は、診察で運動失調、パーキンソン症状、自律神経障害があれば多系統萎縮症を疑い、各種検査をおこないます。
自律神経症状は、患者さんご自身では自覚していないこともあり、起立テストや泌尿器科での残尿測定などの排尿機能検査を行う場合があります。
頭部MRIで特徴的な所見が見られることが知られており、小脳型(MSA-C)では小脳や脳幹の萎縮、脳幹に十字型の模様がみられます。
大脳基底核型(MSA-P)では、進行すると、大脳基底核の被殻とよばれる部位に萎縮を反映した所見がみられます。
MSA-Pでは初期にはパーキンソン病との区別が難しい場合がありますが、パーキンソン病で心臓の交感神経の働きが低下しMIBG心筋シンチという検査で異常が出るのに対して、多系統萎縮症では異常がでないという点で区別できることがあります。

多系統萎縮症の根治的な治療法はまだなく、主に内服薬により運動失調、パーキンソン症状、自律神経症状を和らげる対症療法が主体となります。
パーキンソン症状には、レボドパが一定期間有効なことがあります。
小脳症状を軽減するために、甲状腺刺激ホルモン分泌ホルモン(TRH)作用のある経口薬タルチレンが使用されます。
起立性低血圧に対しては、弾性ストッキングの着用や内服薬で改善を図ります。
排尿障害に対して薬物加療のほか、必要に応じて間欠的導尿などを行って尿路感染を予防します。
リハビリテーションを行い、運動機能の維持や転倒予防を図ります。
病気が進行すると発声障害や嚥下障害を合併するため、コミュニケーション手段の工夫や誤嚥予防策も講じる必要があります。

当科では、多系統萎縮症の自然史と病態にかかわる遺伝因子を解明することを目的に構築された多施設共同研究体制に参加しており、日本国内の他施設と協力して、多系統萎縮症の病態解明や治療法の開発を目指しています。

遺伝性脊髄小脳変性症

遺伝性の脊髄小脳変性症では、常染色体顕性(優性)遺伝(AD)、常染色体潜性(劣性)遺伝、X連鎖遺伝、ミトコンドリア遺伝に分けられますが、90%以上が常染色体優性遺伝形式をとります。
病気の原因となる遺伝子別に番号がついており、日本で多いのはSCA3、 6、 31型、歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)です。
このうちSCA3型はマチャド・ジョセフ病という呼び名でも呼ばれます。
歯状核赤核淡蒼球ルイ体萎縮症(DRPLA)はお子さんから、大人の方まで、本邦で比較的、高頻度に認められます。
病型の頻度には地域差があることが知られており、当科が中心となって2019年におこなった鳥取県での調査では、SCA6が約半数を占め、SCA31が1/4でした。

遺伝性脊髄小脳変性症に共通する症状は運動失調。進行スピードは病型によって異なりますが、一般的には非常にゆっくりです。
病気が進んでもコミュニケーションは十分に可能ですし、極端な認知症は伴いません。
治療としては、内服薬などにより運動失調や他の合併した症状を和らげる対症療法が中心となります。
またリハビリテーションを積極的に取り入れ、運動機能の維持、転倒予防を図ります。

遺伝性の脊髄小脳変性症の多くは原因となる遺伝子異常が判明しており、現在は、その遺伝子の働きや、病気になるメカニズムに応じて病気の治療方法が研究されているなど、全く原因がわからなかった時代とは状況は変わってきています。

治療法の効果を確かめるためには、自然史(その病気がどのような経過をとっていくのか)の正確な把握、客観的で精密な評価法の確立が必要になります。当科では、全国的な客観的な小脳の評価法の研究や疾患自然史研究のための患者レジストリ研究に参加しています。
遺伝性脊髄小脳変性症は比較的稀な疾患であるため、患者さんの数が少ないことが障壁になっています。
脊髄小脳変性症の病態解明や治療法の開発のために、多くの患者さんのご協力をお待ちしています。

筋萎縮性側索硬化症

筋萎縮性側索硬化症(ALS)は、筋肉を動かす上位・下位運動ニューロンが変性する病気です。
手足の麻痺、発声や飲み込みの障害、呼吸の障害などをきたします。
原因はいまだ不明ですが、10%程度の患者さんでは遺伝子の異常が原因となっています。
この検査をすればALSの診断ができる、という検査はありません。
基本的に入院で、多くの検査を組み合わせることで、他の疾患を除外してALSの診断に至ります。
検査としては、血液検査、頭部・脊髄MRI検査、脳脊髄液検査、末梢神経伝導速度検査、針筋電図検査などが挙げられます。
内服薬と注射剤で治療を行いますが、両者の併用も状況によって可能です。
当科では臨床治験も行います。
ALS以外の、脊髄性筋萎縮症や球脊髄性筋萎縮症の診断や治療も行っています。

多発性硬化症・視神経脊髄炎

多発性硬化症
(multiple sclerosis : MS)

脳や脊髄といった中枢神経系に炎症を生じ,神経の障害をきたす疾患です。
患者の多くは炎症の再発と寛解を繰り返しますが、一部の患者では障害が徐々に進行していく経過をとる事があります。
症状は炎症が生じる場所や範囲により様々です。視神経の障害では視力の低下や視野欠損を生じますが、脳や脊髄の病変では手足の運動障害や感覚障害をきたす事があります。
歩行のバランスが不安定になったり、認知機能の低下や、排尿や排便の障害を生じる事もあります。障害は徐々に回復しにくくなり、少しずつ後遺症が蓄積していきます。

多発性硬化症では適切な治療と再発予防を行うために確実な診断が必要です。
わたしたちは詳細な病歴聴取と神経学的診察を重視し、血液検査や髄液検査、電気生理学的検査、MRI検査などと組み合わせて、他の疾患との鑑別を行いながら総合的に判断をしています。

治療に関しては、炎症が生じたばかりの急性期ではステロイドパルス療法を行います。
症状の改善がみられない場合には、ステロイドパルス療法を繰り返したり、時には血液浄化療法を行う事があります。
再発予防は多発性硬化症の治療で特に重要で、適切な選択により障害の進行を大きく抑制できる可能性をもっています。
近年では再発予防の選択肢が増えてきつつありますが、当科では最新の情報を積極的に取り入れつつ、様々な薬剤からその人に合った治療法を選択するようにしています。

視神経脊髄炎
(Neuromyelitis Optica : NMO)

視神経炎と脊髄炎を特徴とする炎症性中枢神経疾患です。
以前は多発性硬化症の亜型として認識されていましたが、病態に抗アクアポリン4抗体が関与する事が判明し、現在では多発性硬化症とは異なる独立した疾患として知られるようになっています。

視神経脊髄炎における視神経炎と脊髄炎はいずれも重症の事が多いとされています。
失明に至る事も稀ではありません。
脊髄炎も一度に広範囲に生じる事が多く、重篤な感覚障害や麻痺をきたし、排尿や排便の障害も生じる事が多くあります。
脊髄炎の高さに一致した疼痛もしばしばみられます。
脳にも障害が及ぶ事があり、難治性の嘔吐や吃逆(しゃっくり)を繰り返すようになる事もあります。
これらの症状が数日から数週間かけて急性に出現します。
視神経脊髄炎では殆どが再発型の経過をとり、重篤な症状で再発しやすいとされます。

重篤な症状を可能な限り軽減するため、早期発見と早期治療開始が重要になり、再発予防も重要となります。
適切な治療を行うため、的確な診断も重要となります。
当科では視神経脊髄炎が疑われる際には、患者さんへの病歴聴取や神経学的診察に加えて血液検査や髄液検査、頭部画像検査や電計生理学的検査を組み合わせて診断を行います。
急性期治療ではステロイドパルスや血液浄化療法を行いますが、発症したばかりで未診断の場合、安全性の評価をした上で治療と診断を並行して行っていく事もあります。

再発予防はステロイドや免疫抑制薬が用いられますが、多発性硬化症と同様に近年再発予防薬の選択肢が増えてきつつあります。
当科では新旧の治療法の中から患者に合った治療法を検討し、科内でも検討しながら治療法を選択しています。

末梢神経障害

末梢神経は手足の感覚や動きを伝えるものです。
末梢神経が障害されると、“手足がぴりぴりする”、“感覚が分からない”などの感覚障害、“手指が動きにくい”、“足をひきずる”などの運動障害が出現します。
原因は栄養障害によるもの、薬の副作用、血管炎によるもの、自己免疫によるもの、遺伝性によるものなどさまざまです。
治療も原因に応じて行います。
慢性炎症性脱髄性多発神経炎、Charcot-Marie-Tooth病、顕微鏡的多発血管炎、好酸球性多発血管炎性肉芽腫症、アミロイドーシス、サルコイドーシスなど指定難病による疾患も多く含まれます。
難病の場合でも新しい治療が開発されている疾患も多くあります。
いずれの場合も、まず正しく診断を行うことが大切です。
治療が可能な疾患であれば診断に応じた適切な治療を早めに行う必要があります。
当科では、臨床神経生理学会専門医がおり、末梢神経伝導検査や針筋電図などによる末梢神経障害の診断および治療効果の判定を行っております。
また、神経生検を行い病理学的にも正しく診断を行います。

重症筋無力症

末梢神経と筋肉とが接合する神経筋接合部において、神経からの伝達物質を受け取る筋肉の受容体が自己抗体で障害される疾患です。
自己抗体としては8割程度の方で抗アセチルコリン受容体抗体(抗AChR抗体)がみられ、2割程度の方で抗筋特異的チロシンキナーゼ抗体(抗MuSK抗体)がみられますが、どちらの抗体も陽性にならない患者も一定数みられます。
自己抗体が産生されるようになる原因は不明ですが、胸腺と呼ばれる臓器の異常が関与する可能性が指摘されています。

主な症状は筋力低下と疲れやすさですが、個人によって起こる症状やその程度が大きく異なります。
眼瞼下垂や複視(ものが二重に見える)などの眼症状は多くの患者さんでみられますが、眼症状だけの方も居れば、四肢の筋力低下を生じたり、呼吸障害や嚥下障害を生じたりする方も居ます。
ときには人工呼吸器を必要とする事もあります。当科では、疑わしい患者さんに対して詳細な問診と神経学的診察を行い、抗体検査を含めた検査により素早く診断をつけるようにしています。
必要に応じて、迅速な診断から治療に繋げるために入院での診療を行う事があります。

治療については、以前までは長期に高用量の経口ステロイドを用いる事が多かったですが、多くの研究、調査を受けて治療方法が見直されてきました。
近年では、初期の段階や症状悪化時には非経口の速効性治療を積極的に行い、その後はなるべく低用量の経口ステロイドなどでQOLを良好に保つ事を目標とするようになっています。
当科でも必要な方には積極的に非経口速効性治療を行い、経口ステロイド量の抑制に努めています。
近年、分子標的薬など新しい治療薬が増えてきており、QOL維持のための選択肢が多様になってきました。
当科では個々の患者での必要性や希望に応じて、科内で検討しながら治療を進めています。

筋疾患

筋肉自体が障害されることが原因で筋力低下をきたす疾患群があります。
病気によっては、手足の筋力だけでなく、嚥下や呼吸など生命の維持に重要な役割を担っている部分の筋肉が障害される場合もあります。
主な筋疾患としては、炎症性ミオパチー、筋ジストロフィー、先天性ミオパチー、代謝性ミオパチー、ミトコンドリアミオパチーなどがあります。
当科で扱う頻度が高いものは炎症性ミオパチーです。
この病気は、主に自己免疫が原因で筋肉に炎症を生じ、膠原病や悪性腫瘍、感染症などに合併することがあります。
また、筋疾患の中には難病に指定されている疾患も多く含まれます。

一方、筋疾患の中には確定診断に時間がかかるケースも見られます。
正確な診断のためには、まずは身体診察で筋疾患を疑い、正しく検査を選択することが大切です。
検査としては、血液検査、筋肉の画像検査(CT、MRI)、針筋電図検査などを行いますが、これらの検査で診断がつかない場合には筋生検を積極的に行っております。
当科では国立精神・神経医療研究センターと連携し、病理学的あるいは遺伝学的に、より詳細な検討を行っています。
また、診断後は、原因に応じて治療やリハビリ、環境の調整を行っていきます。

頭痛

「頭痛」は最も一般的な自覚症状のひとつです。
疫学的な調査では、本邦においては約3000万人の頭痛患者さんがおられると推測されており、診療科を問わず日常診療において少なからず遭遇する症候のひとつであります。
頭痛診療は、国際頭痛分類第3版と慢性頭痛の診療ガイドラインを活用して行われ、国際頭痛分類では、明らかな器質的疾患を認めない緊張型頭痛、片頭痛、群発頭痛などの一次性頭痛、ならびに、脳血管障害、感染症、血管炎、脳腫瘍といった器質的疾患に伴う二次性頭痛とに大きく分類され、二次性頭痛を見逃さないことが大切です。

頭痛にて当科外来を受診された患者さんには、頭痛の様子や随伴する症状、前兆などの頭痛発作の経過、治療中、あるいは、これまでに罹患された病気、喫煙や飲酒といった生活習慣、ご家族内での同様な症状の方がおられないかなどを含め詳細にお話を伺います。
更に神経学的診察、血液検査、CTやMRIといった画像検査などを行いながら総合的に診断を行います。

治療については、一次性頭痛の中でも日常生活への支障が大きい片頭痛では、頭痛発作を改善する急性期治療と頭痛発作の回数や痛みの程度の軽減などを目指した予防療法に大別されます。
急性期治療においては消炎鎮痛薬、片頭痛特異的治療薬であるセロトニン1B/1D受容体作動薬(トリプタン)、新規治療薬であるセロトニン1F受容体作動薬(ジタン)などによる治療が行われます。
予防療法としてはロメリジン、バルプロ酸ナトリウム、新規片頭痛予防薬として抗カルシトニン遺伝子関連ペプチド(CGRP)抗体製剤を病状に合わせながら選択させていただきます。
また、片頭痛では循環器疾患、精神疾患、てんかんなどの共存症を伴う場合があり、各専門診療科と連携を計りながら診療を行います。
二次性頭痛においては、クモ膜下出血、細菌性髄膜炎や副鼻腔炎など原因疾患への対応が必要になり、適切なタイミングでの専門医へ紹介させていただいております。

一方、片頭痛をはじめとした頭痛においては、頭痛発作の誘因、あるいは、頭痛を増強する因子として睡眠、天候、ストレス、食事、月経周期などが報告されております。
頭痛日誌(ダイアリ)などを活用しながら生活習慣の改善を含めた診療を心がけております。


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