精巣は男性ホルモンを分泌すると同時に、精子をつくり生殖を可能にする臓器です。
精巣腫瘍は睾丸に発生する悪性腫瘍で20~30歳代の男性に多い特徴があります。精巣腫瘍は精巣内の胚細胞から発生し、大きく分けてセミノーマと非セミノーマ(胎児性がん、卵黄嚢腫、絨毛がん、奇形腫)の2種類があります。精巣腫瘍(胚細胞腫瘍)のうち、約セミノーマが約70%、胎児性がんが約10%、複合組織型が約10%、卵黄嚢腫、絨毛がん、奇形腫がそれぞれ数%となっています。無痛性の急速な陰嚢腫大で病院へ受診されるケースが多いです。
精巣の発育異常、停留精巣や精巣腫瘍の既往や家族歴がある方ではその発生リスクが高まること言われています。進行が早く早期の治療が必要であり、陰嚢腫大を数カ月間放置していたケースでは、肺やリンパ節など多臓器への転移が受診時すでに認められることもよくありますので、疑いがございましたら早期の受診をお勧め致します。
触診、超音波検査、血液検査(腫瘍マーカー:AFP、hCG、LDHなど)、CT検査、MRI検査など
精巣腫瘍が疑われる場合には、患側の精巣摘除術を実施して病理組織学的診断を行います。さらに、骨シンチやPETCTなどを行い下記の病期分類に従って病期を診断します。
ステージⅠ | 転移を認めず。 |
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ステージⅡ | 横隔膜以下のリンパ節にのみ転移を認める。 |
ステージⅡA | 後腹膜転移巣が長径5cm未満のもの。 |
ステージⅡB | 後腹膜転移巣が長径5cm以上のもの。 |
ステージⅢ | 遠隔転移 |
ステージⅢ0 | 腫瘍マーカーが陽性であるが、転移部位を確認し得ない。 |
ステージⅢA | 縦隔または鎖骨上リンパ節(横隔膜以上)に転移を認めるが、その他の遠隔転移を認めない。 |
ステージⅢB | 肺に遠隔転移を認める。 |
ステージⅢB1 | いずれかの肺野で転移巣が4個以下でかつ長径が2cm未満のもの。 |
ステージⅢB2 | いずれかの肺野で転移巣が5個以上、または長径が2cm以上のもの。 |
ステージⅢC | 肺以外の臓器にも転移を認める。 |
セミノーマ | 非セミノーマ | ||
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予後良好群 | 原発巣は問わないが、肺以外の臓器転移なし。 AFPは正常値で、hCGとLDHに関しては問わない。(90%) 5年生存率:86% |
右記のすべてを満たす(56%) 5年生存率:92% |
AFP < 1,000ng/mL |
hCG < 5,000IU/L | |||
(hCG < 1,000ng/ml) | |||
LDH < 正常上限値×1.5 | |||
肺以外の臓器転移無し | |||
精巣または後腹膜原発 | |||
中等度予後群 | 原発巣は問わないが、肺以外の臓器転移あり。 AFPは正常値で、hCGとLDHに関しては問わない。(10%) 5年生存率:72% |
右記のすべてを満たす(28%) 5年生存率:80% |
1,000≦ AFP ≦10,000ng/mL |
5,000≦ hCG ≦50,000IU/L | |||
正常上限値×1.5≦ LDH ≦ 正常上限値×10 | |||
肺以外の臓器転移無し | |||
精巣または後腹膜原発 | |||
予後不良群 | 0% | 右記の原発または転移を認めるかマーカーの条件を満たす(16%) 5年生存率:48% |
AFP > 10,000ng/mL |
hCG > 50,000IU/L(hCG > 10,000ng/ml) | |||
LDH > 正常上限値×10 | |||
肺以外の臓器転移あり | |||
縦隔原発 |
手術療法、放射線療法、抗癌剤治療などを組み合わせた治療が必要となります。早期であれば経過観察という選択肢もあります。セミノーマ、非セミノーマで治療の流れが大きく違いますので、それぞれについて下記に示します。
ステージⅠ | 経過観察、放射線照射、抗がん剤治療など |
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ステージⅡA | 放射線照射、抗がん剤治療など |
ステージⅡB以上 | 抗がん剤治療 |
ステージⅠ~ⅡA | 経過観察、抗がん剤治療、後腹膜リンパ節郭清など |
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ステージⅡB以上 | 抗がん剤治療 |
パラプラチン®(カルボプラチン)単剤治療:早期の場合のみ
BEP療法
ランダ®(シスプラチン)、ブレオ®(ブレオマイシン)、ラステット®(エトポシド)
VIP療法
ラステット®(エトポシド)、イホマイド®(イホスファミド)、ランダ®(シスプラチン)
TIN療法
タキソール®(パクリタキセル)、イホマイド®(イホスファミド)、アクプラ®(ネダプラチン)
TIP療法
タキソール®(パクリタキセル)、イホマイド®(イホスファミド)、ランダ®(シスプラチン)
IrN療法
トポテシン®(イリノテカン)、アクプラ®(ネダプラチン)など
1コースが約3週間(場合によっては4週間)で、腫瘍の縮小や消失、腫瘍マーカーが陰性化するまで継続しますので、3か月~6か月、難治性の場合は1年以上抗がん剤治療が必要となる場合があります。
高位精巣摘除術、後腹膜リンパ節郭清など
精巣腫瘍は進行が早く怖い腫瘍ですが、抗がん剤治療にて完治を望むことができる数少ない腫瘍のひとつですので、積極的に抗がん剤治療や手術療法を行っていく事をお勧めします。
抗がん剤治療にて完治した場合でも、セミノーマで15~20%前後、非セミノーマで20~30%前後再発するといわれていますので、退院後も定期的な外来通院が必要です。