左右の腎臓でつくられた尿は、腎杯から腎盂、尿管を流れ膀胱に貯留されます。尿はさらに排尿時には尿道を流れて行きますが、このうち、腎盂、腎杯、尿管を上部尿路と呼びます。尿に接するこれらの尿路は尿路上皮(または移行上皮)と呼ばれる粘膜で構成されており、上部尿路や膀胱から発生する癌の最も多くは尿路上皮癌です。尿路癌(腎盂癌、尿管癌、膀胱癌)の中では膀胱癌が最も多く、7割以上を占めます。腎盂尿管癌は50歳代から70歳代に多く、男性は女性より2倍以上罹患率が高いとされています
尿検査、尿細胞診検査、超音波検査、血液検査(腎機能検査など)、排泄性腎盂造影検査、逆行性腎盂造影検査、CT検査、MRI検査など
病理組織学的診断、骨シンチなどを行い下記の病期分類に従って病期を診断します。病理学的診断のため、逆行性腎盂造影による分離尿細胞診で評価が得られない場合は、入院の上、尿管鏡検査が必要となる場合があります。
TX | 原発腫瘍の評価が不可能 |
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T0 | 原発腫瘍を認めない |
Ta | 乳頭状非浸潤癌 |
Tis | 上皮内癌 |
T1 | 上皮下結合組織に浸潤する腫瘍 |
T2 | 筋層に浸潤する腫瘍 |
T3 | 腎盂、筋層をこえて腎盂周囲脂肪組織または腎実質に浸潤する腫瘍、または尿管、筋層をこえて尿管周囲脂肪組織に浸潤する腫瘍 |
T4 | 隣接臓器または腎臓をこえて腎周囲脂肪組織に浸潤する腫瘍 |
NX | 所属リンパ節転移の評価が不可能 |
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N0 | 所属リンパ節転移なし |
N1 | 最大径が2.0cm以下の1個のリンパ節転移 |
N2 | 最大径が2.0cmをこえ、5.0cm以下の1個のリンパ節転移、または最大径が5.0cm以下の多発性リンパ節転移 |
N3 | 最大径が5.0cmをこえるリンパ節転移 |
MX | 遠隔転移の評価が不可能 |
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M0 | 遠隔転移なし |
M1 | 遠隔転移あり |
T分類 | N分類 | M分類 | |
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ステージ 0a |
Ta | N0 | M0 |
ステージ 0is |
Tis | N0 | M0 |
ステージ Ⅰ |
T1 | N0 | M0 |
ステージ Ⅱ |
T2 | N0 | M0 |
ステージ Ⅲ |
T3 | N0 | M0 |
ステージ Ⅳ |
Ta~T4 | N0~N3 | M1 |
手術療法、放射線療法、抗癌剤治療などを組み合わせた治療があります。ステージによって治療の流れが大きく違いますので、それぞれについて下記に示します。
反対側の腎機能が問題なければ、患側の腎尿管全摘除術(+リンパ節郭清)を行います。下部尿管癌で腫瘍は非常に小さい場合など、尿管部分切除という選択肢もありますが、尿路上皮癌は約40%と再発が多いため一般的には患側の腎臓を含めた摘除を行います。手術方法には開腹手術と腹腔鏡下手術がありますが、腫瘍の状態に応じてどちらになるかは変わってきます。摘出病理検査の結果によっては、術後の抗癌剤治療が必要となることがあります。また、腎尿管全摘除術後の30~50%程度で膀胱内に癌が発生するとされています。
リンパ節や他臓器に転移を有する場合、手術は行わず、まず薬物療法を行います。薬物療法により腫瘍の明らかな縮小や消失を認めた場合は、腎尿管全摘+リンパ節郭清の手術療法を行う場合があります。
GC療法
ジェムザール(ゲムシタビン)、ランダ®(シスプラチン)
GC療法変法
ジェムザール®(ゲムシタビン)、パラプラチン®(カルボプラチン)
TC療法
タキソール®(パクリタキセル)、パラプラチン®(カルボプラチン)
MVAC療法
メソトレキセート®(メトトレキサート)、エクザール®(ビンブラスチン)、アドリアシン®(アドリアマイシン)、ランダ®(シスプラチン)
GDC療法
ジェムザール®(ゲムシタビン)、タキソテール®(ドセタキセル)、ランダ®(シスプラチン)
1コースは約4週間で実施します。最低2~3コースの治療を行い、CTやMRIなどの画像診断によって治療効果の判定をしてその後の治療を検討していきます。
<免疫チェックポイント阻害薬>
キイトルーダ®(ペンブロリズマブ)
バベンチオ®(アベルマブ)
免疫担当細胞の表面には「免疫チェックポイント分子」と呼ばれる、免疫機構にブレーキをかけるスイッチのような分子が発現しています。本来は、免疫が過剰になり過ぎて自分自身を攻撃しないように備わっているスイッチです。癌細胞は増殖する過程でこのスイッチを獲得して、免疫機構から逃れるようになります(免疫逃避)。免疫チェックポイント阻害薬は、このスイッチに蓋をして免疫機構にブレーキをかけさせないようにする薬剤で、尿路上皮癌に対しては、キイトルーダが2017年に、アベルマブが2021年に認可されました。もともと生体に備わった免疫機構を利用するため、一般的な抗癌剤と比較して副作用の頻度が少ないのが利点ですが、免疫が過剰となって自分自身を攻撃してしまう副作用(免疫関連有害事象)が一定の頻度で見られるという欠点もあります。免疫関連有害事象は時に重篤となり、ステロイド治療が必要となることもあります。効果に関しては、約30%の人で長期間の腫瘍縮小が見られる一方で、約40%の人では効果が得られないといった一面があります。しかし、どのような人で効果が得られやすいかということは、今のところはっきりわかっていません。
一方の腎臓を摘出したことによる生活上の制限はあまりなく、副作用もほとんどありません。片側の腎臓を摘出したことにより、人工透析が必要となることは非常にまれです。ただし、糖尿病がある場合など将来的に腎機能が悪化しやすい可能性はあります。
治療中の主な副作用は、白血球減少、血小板減少、腎機能障害、吐き気、嘔吐、食欲不振、脱毛、末梢神経障害などがあります。抗癌剤の副作用を軽減するために数日間の点滴治療が必要となります。特に、白血球が下がる時期は感染症に注意が必要で、血小板が低下すると出血傾向となる場合があり、主に入院での治療となります。
脳炎、下垂体機能低下、甲状腺機能低下、肝機能障害 、Ⅰ型糖尿病、腎障害、大腸炎、静脈血栓、間質性肺炎、重症筋無力症、皮膚障害 etc
腎尿管全摘除術後2年目までは3ヶ月毎に血液検査、尿細胞診検査、膀胱鏡検査が必要です。また、3~6ヶ月毎にCT検査なども適宜実施します。上部尿路癌は同じ移行上皮である膀胱に再発することがあるため、膀胱鏡検査は欠かせません。
3~5年目は6ヶ月に一度上記の検査を行います。
5年目以降は1年に一度と検査の頻度は減っていきます。