喫煙、飲酒等生活習慣の実態把握及び
生活習慣の改善に向けた研究

研究代表者 尾﨑 米厚(鳥取大学医学部 環境予防医学分野)

目標と求められる成果

【目標】

  • 未成年者の喫煙状況(喫煙率)を明らかにする。[たばこ規制枠組条約にもとづく報告、健康日本 21(第二次)数値目標]
  • 未成年者の飲酒状況(飲酒率)を明らかにする。[健康日本21(第二次)の数値目標]
  • インターネットやゲームの過剰な利用、ヘッドフォンの長時間使用、睡眠障害、視力や聴力等、新たな健康課題の実態把握。
  • これらの、継続的なモニタリングによる実態把握や実態に基づいた予防・改善策の検討。
  • 成人の過剰飲酒者の割合の提言に向け、相対的に重要になった女性の飲酒実態と背景を明らかにする。
  • 喫煙及び飲酒の状況、インターネットやゲームの利用状況などの生活習慣について、未成年者の実態把握のための調査研究を行い、調査結果に基づいて、不適切な生活習慣を効果的かつ効率的に改善するための施策に対する提言を行うこと。
  • 不適切量飲酒の実態を把握し、不適切量の飲酒を防止するために効果的な施策の検討を行うこと。

【求められる成果】

  • 未成年者の喫煙、飲酒状況についてのモニタリング結果。
    また、中高生が喫煙や飲酒を始めることになったきっかけに関する情報の収集・整理。
    未成年者の飲酒率と喫煙率の集計と解析による評価。
    睡眠等、未成年者の生活習慣に関する実態調査の結果。
  • 不適切量の飲酒の具体的な状況に関する実態調査の結果。
    特に、女性の不適切飲酒については、飲酒の場所、飲酒されるアルコール飲料の種類、飲酒の時間など、詳細な飲酒の実態を明らかにすること。
  • 健康づくりや疾病予防の推進における課題の抽出、不適切量の飲酒を防止するために講ずることができる施策の立案
    課題に対する生活習慣改善の取り組みの検討。
    施策によって期待される効果等の推計結果と、効率的かつ効果的な施策を講ずるための留意点の取りまとめ。


研究の柱と3年間の研究計画

3年間の研究計画


調査のまとめと対策への提言

まとめ対策
柱1
  • コロナ禍の中、工夫して中高生調査を実施した。
  • 中高生の喫煙率と飲酒率の減少を確認した。
  • 新たな健康課題(新型タバコ、エナジードリンク、睡眠障害との関連、広告の影響等)も明らかになった。
  • 一部の中高生に不健康な生活習慣が集積している。
    コロナ禍で、中高生の喫煙・飲酒者がより影響を受けた。
  • 新しい課題に関する注意喚起[対中高生、対家族](新型タバコ、ノンアル飲料、エナジードリンク等)
  • 対面販売における年齢確認の形骸化の改善
  • 生きづらさを感じ、喫煙や飲酒を始める子どもへの支援(厳しい家庭環境等にある子ども達への支援)
柱2
  • 女性のお酒を飲む場面・飲みたくなる場面として、環境や雰囲気ストレスからの逃避が男性より多い。
  • AUDIT得点が高いほど、習慣的な飲酒ストレスからの逃避で飲酒する者の割合が高い。
  • 飲酒に対するイメージが女性の飲酒には影響している可能性がある。
    お酒のテイストやパッケージも重要と考えられる。
  • 女性に特化した、不適切な飲酒をする者への介入方法の開発と効果検証が必要
  • 女性の飲酒行動に着目したモニタリング調査の継続が必要
  • 女性を飲酒に強く惹きつけるマーケティングに対して注意喚起が必要
柱3
  • 問題飲酒者への保健師による減酒支援は、半年後の有意な飲酒量等の減少が確認できた。
  • 1年後の減少も確認できたがコロナ禍の影響を受け判定が難しかった。
    研究対象者はほとんど男性であった。
  • スクリーング後の減酒支援AUDIT得点が8点以上の対象者に実施できれば、飲酒関連疾患の数%の低減につながる可能性がある。
  • 減酒支援を必要とする対象者に介入サービスを届ける仕組みの確立が望まれる。
  • AUDIT(オーディット):Alcohol Use Disorders Identification Testの略で、WHOによって開発された問題飲酒のスクリーニングテスト。日本語で、「アルコール使用障害同定テスト」。


中学生の飲酒と喫煙

柱1: 中高生の喫煙及び飲酒行動に関する全国調査2021年

2021年に全国の中学校、高等学校を無作為に抽出し、中学18校(協力率20%)高校17校(同27%)の協力を得て、学校にて紙またはウェブベースの調査を実施した。
回答者数15,832人(中学8,266人、高校7,566人)であった。

【送付数と回収率】(ウェブで不適当とされた学校は除く)
送付時期
5月中旬
実施
方式
送付
校数
生徒
回答校数
学校
協力率
配布対象
生徒数
生徒
回答数
生徒
回答率
中学校27933%14951462631%
ウェブ64914%30274364812%
中学計911820%45225827418%
高校20945%15055493533%
ウェブ42819%3526826437%
高校計621727%50323757815%
合計471838%30006956232%
ウェブ1061716%65542629110%
合計1533523%955481585217%
回答者の学年 と 性別
合計
中学1年人数149812992797
割合53.6%46.4%100.0%
中学2年人数146813262794
割合52.5%47.5%100.0%
中学3年人数146411752639
割合55.5%44.5%100.0%
中学
学年不明
人数171936
割合47.2%52.8%100.0%
高校1年人数130016562956
割合44.0%56.0%100.0%
高校2年人数102212772299
割合44.5%55.5%100.0%
高校3年人数103812622300
割合45.1%54.9%100.0%
高校
学年不明
人数7411
割合63.6%36.4%100.0%
合計人数7814801815832
割合49.4%50.6%100.0%

学年不明であるものは、合計47人(回答者の0.3%)、以下の集計表からは除外した。

健康日本21(第二次)
未成年の飲酒と喫煙に関する目標項目
月飲酒月喫煙
(紙巻タバコのみ)
月喫煙
(加熱式タバコ含む)
中学1年1.9%0.1%0.1%
中学2年2.0%0.1%0.3%
中学3年1.7%0.4%1.0%
高校1年1.2%0.3%0.7%
高校2年3.6%0.5%0.6%
高校3年4.3%1.0%1.3%
中学1年0.8%0.1%0.2%
中学2年0.7%0.2%0.2%
中学3年2.7%0.1%0.5%
高校1年1.8%0.5%0.6%
高校2年3.8%1.0%1.1%
高校3年2.9%0.6%0.8%

日本の中高生の飲酒頻度の推移

2021年度
回答数15,832人参加校数
(協力率%)
中学生
(%)
8,266人
(52.2%)
中学校
18校 (19.8%)
高校生
(%)
7,566人
(47.8%)
高校
17校 (27.4%)
2021年度の中高生別の飲酒頻度
飲酒経験月飲酒週飲酒
中学生8.5%1.6%0.1%
高校生15.4%2.8%0.6%

中学生の飲酒頻度の推移グラフ

高校生の飲酒頻度の推移グラフ



日本の中高生の紙巻タバコ喫煙頻度の推移

2021年度
2021年度の中高生別の喫煙頻度
喫煙経験月喫煙毎日喫煙
中学生1.9%0.2%0.0%
高校生2.6%0.6%0.1%
紙巻き・加熱式・電子タバコを
合わせた月喫煙の推移
2017年度2021年度
中学生1.1%0.5%
高校生2.2%1.0%

中学生の喫煙頻度の推移グラフ

高校生の喫煙頻度の推移グラフ

紙巻きたばこの喫煙率は着実に減少しているが、新型タバコを含めると減少が鈍化している。



未成年飲酒や喫煙のハイリスク者

  • 正しい情報が届きにくい
  • 家庭/学校で課題を抱えている
  • 社会経済的脆弱性がある
  • 飲酒や喫煙を害と意識しにくい
  • 親・本人が飲酒に寛容、朝食を食べない
  • 学校生活を楽しめない、進学希望なし
  • 中学生以前での飲酒開始
  • 飲酒者の多量飲酒が減少していない
  • 喫煙者と非喫煙者の飲酒率の差が拡大
COVID-19流行で以下の影響があった
  • 「学校に行かなくてもよいので気が楽になった」
  • 「睡眠時間がおかしくなった」
  • 「ストレスがたまり、いらいらするようになった」
  • 「喫煙・飲酒が増えた」
  • 「家族の人間関係が悪くなった」
  • 「家が経済的に苦しくなった」

飲酒や喫煙行動をみると、

  • 小学生の間に飲酒や喫煙を開始する者が一定数いる。
  • 甘い味のお酒は、未成年にとって最も飲まれている。
    →未成年が好むテイストに対する対応が必要である。
  • 飲酒場面は、親や家族が一緒の場面が多い。
    父母からお酒を勧められたことがある。
    →今後も未成年の飲酒に関する啓発が必要である。
  • 自宅にある酒・加熱式タバコの使用する者の割合が高い。
    →家庭への啓発が重要である。
  • 高校生は酒や紙巻タバコをコンビニ・スーパーなど店で購入する者が一定数いる。
    →コンビニ・スーパー等販売者の啓発も必要である。
  • 未成年の飲酒禁止に同意していない、飲酒や喫煙が健康に害があると認識している割合が低い。
    →未成年が飲酒や喫煙について正確な情報を入手でき、禁酒や禁煙を納得する説明や支援が必要である。
    →害を理解していても、困難への対処法として飲酒や喫煙をしている可能性もありえる。
    困難への対処法を身につけることが必要。

今後、これまでの未成年飲酒・喫煙対策(ポピュレーション・アプローチ)に加え、
未成年飲酒や喫煙に対するハイリスク・アプローチ(スクリーニング、早期介入、課題への支援)も重要と考える。


喫煙者と非喫煙者における飲酒率の推移


喫煙者と非喫煙者における飲酒率の推移


(Fujii M,et al. Trends in the co-use of alcohol and tobacco among Japanese adolescents: periodical nationwide cross-sectional surveys 1996-2017. BMJ Open. 2021)



中高生の全国調査から生まれた学術発表と解析


学術発表

BMJ Open中高生NO
喫煙者の飲酒率は、非喫煙者の飲酒率より極めて高く、後者は着実に減少傾向にあるが、前者は減少率が悪い=中高生の健康課題の格差拡大の恐れがある。
Fujii M, et al. BMJ Open 2021;11(8):e045063.

BMC Public Healt
中高生が新型タバコを使用している。
新型タバコ使用者の半数以上は紙巻タバコ製品を併用していた。
新型タバコ使用者は従来の喫煙者と特徴が異なり、将来的な喫煙者増加が危惧される。
Kuwabara Y, et al. BMC Public Health. 2020;20(1):741.
Kuwabara Y, et al. Int J Environ Res Public Health. 2020;17(9):3128.

The Lancet Regional Health-Western Pacific
不眠症状を有する中高生の割合は2004年調査以降、徐々に減少傾向であるが、7時間未満の短時間睡眠者の割合は増加傾向で、2017年調査では約8割弱であり、睡眠時間の確保が重要である。
Otsuka Y, et al. The Lancet Regional Health-Western Pacific 2021;9: 100107.

Sleep
インターネット使用時間が1日5時間を超えると、顕著に不眠症状、睡眠の質、短時間睡眠のオッズ比が上昇する。
特に、SNSやオンラインゲームが就寝時刻の遅延と関連を認めた。
Otsuka Y, et al. Sleep 2021;44.12 : zsab175.





解析

中高生全国調査における紙調査とWeb調査の比較

紙調査とWeb調査の比較グラフ

  • Web調査は学校の参加率だけではなく、生徒の参加率も紙調査より低かった。特に高校2年、3年生。
    喫煙率、飲酒率いずれもWeb調査での頻度が低かった。
  • 調整オッズ比で検討すると、Web調査の回答者は紙調査よりもより望ましい生活習慣を回答する傾向があった。
    また、運動習慣者が少なく、大学進学希望者が多かった。
  • 調査方法による回答結果の違いではなく、回答集団の違いが示唆される。
  • 今後の全国調査の在り方の検討が必要である。
詳しくはこちら


エナジードリンク使用と飲酒の合併状況と睡眠障害との関連

エナジードリンク使用と飲酒の合併状況と睡眠障害との関連グラフ

  • 入眠障害、中途覚醒、早朝覚醒などの睡眠障害の出現頻度が月飲酒ありで高くなるが、エナジードリンク使用と飲酒が両方ある人はさらに頻度が高くなる。

未成年者の飲酒と酒類広告曝露との関連

飲酒行動と広告媒体数

  • 酒類のメディア広告曝露(30日以内にTV, Web,店頭,交通機関での曝露)と月飲酒(過去30日以内の飲酒)との関連を分析した。
  • 中高生は酒類広告へ高率に曝露されている。
  • 月飲酒者でWeb,店頭,交通機関の広告曝露が高頻度である。
  • 曝露広告媒体数が増えるほど、月飲酒者率が増加する、量反応関係を確認した。
    <図: 月飲酒に対する媒体数のオッズ比>
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柱1: 2021年調査の結果
中高生全国調査における紙調査とWeb調査の比較

学校方法対象
学校数
参加
学校数
学校
参加率
対象
生徒数
参加
生徒数
生徒
参加率
参加学校
生徒数
左記での
生徒参加率
中学 Paper27933.314,9514,62630.95,01192.3
Web64914.130,2743,64812.04,15887.7
Total911819.845,2258,27418.39,16990.2
高校 Paper20945.015,0554,93532.87,04270.1
Web42819.035,2682,6437.54,55458.0
Total621727.450,3237,57815.111,59665.4
全体 Paper471838.330,0069,56131.912,05379.3
Web1061716.065,5426,2919.68,71272.2
Total1533522.995,54815,85216.620,76576.3

2021年に全国の中学校、高等学校を無作為に抽出し、中学18校、高校17校の協力を得て、学校にて紙あるいはウェブを使った調査を実施した。

ウェブ調査(Web)は学校の参加率だけではなく、生徒の参加率も紙調査(Paper)より低かった。
特に高校2年生、3年生の参加率は低かった。


Webp-valueOR95%CIp-value
n=9,539(%)n=6,287(%)
生涯飲酒経験9,44111.86,2879.8<0.0010.860.780.960.005
現在飲酒9,5082.56,2871.70.0020.770.610.980.032
生涯紙巻きたばこ経験9,4582.16,2872.40.2181.261.011.560.039
現在紙巻きたばこ9,4650.56,2870.30.0230.610.341.090.092
生涯加熱式タバコ経験9,5001.26,2871.10.6141.010.741.370.972
現在加熱式タバコ使用9,4600.56,2870.30.1840.770.451.320.344
生涯電子タバコ経験9,4871.26,2871.10.3370.930.691.270.652
現在電子タバコ使用9,4700.46,2870.30.1440.770.431.370.374
運動習慣9,45559.76,28757.80.0140.890.830.950.001
朝食欠食9,4074.76,2874.30.210.980.841.150.784
野菜摄取不足9,4402.36,2871.60.0030.890.830.950.001
不眠症状9,47921.46,287200.0340.920.850.990.04
6時間未満の睡眠時間9,47425.96,28732.6<0.0011.561.451.68<0.001
メンタルヘルス不良9,44956.96,28749.5<0.0010.740.690.79<0.001
大学への進学希望9,48041.66,28741.40.8231.261.171.35<0.001

オッズ比は紙調査を1とした場合の、Web調査の状況を示し、性、年齢、学校、中高で調整したロジスティック回帰分析を行った。

紙調査とWeb調査の比較グラフ

紙調査では調査漏れがでるが、ウェブ調査ではそれはない。
調整オッズ比で検討すると、ウェブ調査の回答者は紙調査よりもより望ましい生活習慣を回答する傾向があった。
また、運動習慣のある者が少なく、大学への進学希望者が多かったことより、調査方法による回答結果の違いではなく、回答集団の違いが示唆される。

日本の学校においてはウェブ調査を行う問題点として情報通信環境が未だ不十分であること、全体的な参加率を上げるためには学校長の協力を得るための事前の活動が必要であり、横断的な連携を強化する必要がある。


未成年者の飲酒と酒類広告曝露

【背景】

青少年への酒類広告の曝露は非飲酒者の飲酒開始と、飲酒者の酒類消費の増加に関連するという先行研究がみられる。
Anderson PS. , et al. Alcohol Alcohol. 2009;44(3):229-43

【目的】

日本の未成年者の飲酒状況と酒類広告曝露の実態を明らかにする。

【方法】

2021年全国中学・高校生調査
月飲酒者:過去30日以内に飲酒した者
広告曝露:30日以内にTV, Web,店頭,交通機関それぞれの酒類広告曝露有りを選択
月飲酒に対する広告の累積曝露数をロジスティック回帰分析を用いて解析

【結果1】

中高生は酒類広告へ高率に曝露されている。
月飲酒者でWeb,店頭,交通機関の広告曝露が高頻度である。

表. 酒類広告への曝露状況
対象
人(%)
月飲酒なし
n=15343
月飲酒あり
n=340
p-value
テレビ13709(89.4)294(86.5)0.089
ウェブ5504(34.9)151(44.4)0.001
店頭4199(35.9)133(39.1)<0.001
交通機関1894(12.3)55(16.2)0.034
上記の内
1つ以上
14464(94.3)320(94.1)0.904

※中高生の全学年、男女合わせて集計


【結果2】

複数の酒類広告媒体に曝露されるほど、月飲酒のオッズ比が増加する(図)

図. 飲酒行動と広告媒体数

飲酒行動と広告媒体数

図中の広告媒体はWeb、店頭、交通機関の累積数とした。
月飲酒の有無に交絡すると思われた因子(喫煙等)を調整して多変量解析を行った。
(テレビは曝露率が非常に高率で、解析に適さないため、含めていない。)


【考察と提言】

  1. 未成年者の多くは、飲酒広告に曝露していた。
  2. 月飲酒者ではその影響を強く受けている可能性が示唆された。

➡青少年健全育成の観点から適切でない社会環境と考えられる。

未成年者の飲酒防止のため、飲酒防止教育の啓発と酒類広告の規制を含めた総合的な対策が必要であることが示唆された。
不適切な飲酒を防ぐ社会環境の整備が求められる。




成人の飲酒

柱2: 女性の多量飲酒につながる要因についての質的分析
:成人女性に対するインタビュー調査から

【背景・目的】

男性の飲酒問題が減少傾向にあるのに対して女性は横ばいが現状であり相対的に女性の飲酒が重要視される。
本研究では、女性の飲酒行動に着目した実態調査を行う。

【方法】

調査期間2021年9月~2022年1月
対象者女性で、 1日当たりの純アルコール摂取量が20g以上にあたる30名を本研究の対象者とした。
平均年齢47.2歳(SD=11.1)。
質問項目自記式調査票でアルコール摂取の実態を回答してもらい、インタビューにて多量飲酒になるパターン、多量飲酒になる要因、飲酒に持つ本人のイメージ、多量飲酒となったきっかけ・要因などを尋ねた。
分析得られた語りに対してオープンコーディングによってラベリングし、内容を要約した。

【結果・考察】

飲酒/多量飲酒する理由・要因についてのコーディング
要因ラベル
飲酒・酩酊が
目的
お酒の味が好き、飲酒が趣味、酔った感覚を求めて、自分へのご褒美
手段的飲酒 仕事とプライベートの区切り、1日の締め、睡眠の導入、趣味のお供食事の向上イベントの添え物、コミュニケーションツール
ライフイベント・
生活の変化
授乳期間の終了子育ての完了、就職、近親者の喪失・離婚、車を運転しない生活、一人暮らし、自由、空き時間の増加
ストレスからの
逃避
現実逃避の手段として、仕事のストレス、育児のストレス、家族関係のトラブル、多忙な生活、コロナ禍でのストレス
環境要因 夫が飲む(夫と飲む)、家族・友人・同僚と飲む、外食時、家族が飲酒に肯定的、安価・大量に入手可能、飲み放題
習慣的 飲酒が習慣になっている、キッチンドリンカー、意識するまでもない生活の一部、晩酌、帰宅したらまず飲むもの、のどが渇いたとき・水の代わりに

本研究では特に“家族が飲酒に肯定的“、 “安価・大量に入手可能“などが、アルコールへのアクセスを容易にする項目として本研究では見られた。
実施可能性が高い対策として提唱する“Best buys”を日本でも導入することが女性の多量飲酒防止にも有効であろう。

女性の多量飲酒者の飲酒行動の特性が明らかになり、これをもとに女性の飲酒行動に関する全国調査(Web調査)の調査票を開発した。

  • Best Buys(ベストバイズ):世界保健機関(World Health Organization、WHO)が2017年に提唱した、心血管疾患や糖尿病などの4つの疾患の予防やコントロールをする上で、最も費用対効果が良く、実施可能性が高い対策。アルコールの有害な使用を減らすためのBest Buysは、「アルコール飲料の入手制限の強化」、「アルコールの広告、スポンサーシップ、宣伝の禁止または包括的な制限」、「アルコール飲料の価格政策」の3つが示されている。


柱2: 女性の飲酒行動に関するWeb調査

【目的】

飲酒量や飲酒頻度、AUDIT(アルコール使用障害同定テスト)を元に、不適切量飲酒者を特定し、女性の不適切量飲酒者の特性や問題飲酒につながる要因を検討する。
なお、インターネットパネル調査であるため、有病率の推計はできない。

【実施時期と実施方法】

2022年10月、インターネットパネル調査実施

【対象とサンプル数】

対象者 18~79歳の方、
合計15,000人(女性12,000人、男性3,000人)

合計女性 12,000人男性 3,000 人
20代2,500人500人
30代2,500人500人
40代2,500人500人
50代2,500人500人
60代1,000人500人
70代1,000人500人

【結果】
週に1日以上飲酒する者、
不適切な飲酒をする者(AUDIT8~14点、15点以上)の飲酒実態

  • 主な飲酒の場所:性、年代、AUDIT点数によらず、自宅での飲酒の割合が高い(30代以上は8~9割)。
    20代は、男女とも店での飲酒割合が3~4割と高く、特にAUDIT8~14点で店での飲酒割合が高い
  • 飲み放題メニューの利用:20代で利用頻度が多い割合が高い。
    AUDIT点数が高いと利用頻度が多い割合が高い
  • 主な飲酒の相手:AUDITが8~14点、15点以上となるにつれ、配偶者と飲酒する割合は低くなり、「ひとりで」飲酒する割合が高くなる
    20代女性はパートナーや友人、仕事関係者との飲酒割合が高い。
  • 飲酒されるアルコール飲料の種類:ビール発泡酒が最も多いが、20代女性のみ酎ハイが最も多い
    AUDIT7点以下の女性に比べ、AUDIT点数が高い女性では、焼酎、ハイボール、ウィスキーの割合が高い
  • お酒を飲む場面、飲みたくなる場面:男女とも「自宅に帰ったとき」「仕事が終わったとき」「ふだんの食事のとき」の割合が高い。
    女性のお酒を飲む場面・飲みたくなる場面として、「特別な食事の時」「配偶者/パートナーといるとき」「友人といるとき」のといった環境、「気分が晴れないとき」「嫌なことがあったとき」「つかれたとき」といったストレスからの逃避が男性より多い
    AUDIT得点が高いほど、帰宅時・仕事後や料理の時といった習慣的な飲酒、ストレスからの逃避で飲酒する者の割合が高い
  • 新型コロナ感染拡大の飲酒への影響:新型コロナ感染拡大後、AUDIT得点が高いほど、飲酒頻度や量が増えた者の割合が高い

性別、AUDIT得点別、お酒を飲む場面
性別、AUDIT得点別、お酒を飲む場面グラフ

性、年代、AUDIT得点別、
新型コロナ感染拡大後、
飲酒頻度が増えた者の割合

飲酒頻度が増えた者の割合グラフ




減酒支援

柱3: 保健師による
減酒支援の効果検証のための無作為化比較試験

背景

アルコールによる健康障害を予防するための効果的な戦略の一つとして、不適切な飲酒のスクリーニングと簡易介入(Screening and Brief Intervention, SBI)が推奨されるが、日本での有効性を示した報告は乏しい。

目的

この研究は研究班で開発した介入ツールを用いて職場で保健師が簡易介入を実施することで飲酒習慣が改善するかどうかを検証するために実施した。

方法

研究デザイン無作為化比較試験
対象、セッティング2019年1月から12月の期間に鳥取県・島根県で協力の得られた5か所の事業所の従業員のうち、AUDITにて8点以上かつ、研究参加の同意が得られたもの
介入群と対照群 ワークシートを用いた通常版の節酒支援:15分の面接
ワークシートを用いた短縮版の節酒支援: 5分の面接
リーフレットを渡し、目を通すように勧める:対照群
主要評価項目 介入から半年後の1週間当たりの純アルコール摂取量(g)、週あたりの飲酒頻度(日)、過去30日の大量飲酒経験(機会大量飲酒)

減酒支援の効果検証


結果

5つの事業所の従業員351名が、ランダムに3群に割り付られた。
1年後まで追跡可能であった333名の分析を行なったところ、
15分介入群では半年後に有意な週飲酒量の減少(-38.1g(13%)/週)がみられた。
3群とも機会大量飲酒の割合が有意に低下し、全体での飲酒量は減少していた。

初回面接時および介入より
6か月・12か月後のアルコール摂取量

アルコール摂取量グラフ

考察

1回15分の保健師による介入が飲酒量低下に有効であり、5分では有効性は見られなかった。
15分程度の介入が理想的だと考えられる。
1年後は有意でなかったが飲酒量は減少しており、新型コロナ流行等対照群の予期せぬ飲酒量低下の影響が考えられた。
今回の対象は男性が大半であり、女性での介入の有効性も検証が必要である。

結論

15分の保健師による簡易介入(減酒支援)は少なくとも6か月時点で飲酒量減少に効果があった。
職場での積極的な減酒支援の活用はアルコール関連健康障害を低減に貢献しうる。

研究成果

プロトコール論文;Kuwabara Y, et al. Yonago Acta Med. 2021;64(4):330-338.
介入の効果:Kuwabara, Y., et al. Alcohol Clin Exp Res 022.;46(9):1720-1731.

「適度な飲酒」についてや「減酒カウンセリング」に関する資料


柱3: 施策によって期待される効果等の推計結果
減酒支援(SBI)の普及によって期待される
アルコール関連健康障害低減効果の推計

分析対象の23の健康リスク

  • 結核
  • 呼吸器感染症
  • 食道癌
  • 肝臓癌
  • 喉頭癌
  • 乳癌
  • 大腸癌
  • 口腔癌
  • 咽頭癌
  • 虚血性心疾患
  • 虚血性脳血管障害
  • 出血性脳血管障害
  • 高血圧性心疾患
  • 心房細動、心房粗動
  • 肝硬変、慢性肝疾患
  • 膵炎
  • てんかん
  • アルコール使用障害
  • 糖尿病
  • 交通外傷
  • 不慮の事故
  • 自傷
  • 対人暴力

WHOの報告によると、飲酒消費量の増加にともなってアルコール関連健康障害が直線的に増加することが示される。
(30g/日の増加で相対リスクが1.00より1.25に上昇する。)

この研究で明らかになった38g/週(5.4g/日)の差で、相対リスクは0.25/30×5.4=0.045の差となる。
つまり、集団における5.4g/日の飲酒量低下は、集団のリスクを4.5%程度低下させると見込める

寄与危険割合を用いてみると、 5.4g/日の飲酒量低下で寄与危険割合は0.045/相対リスクの変化となり、
  • 50~60g /日飲酒する集団の減酒により0.045/1.25*100=3.6%のイベント発生低下に繋がる
  • 70~80g /日飲酒する集団の減酒により0.045/1.50*100=3.0%のイベント発生低下に繋がる

以上を積算すると飲酒量の多い集団の減酒で多くのアルコール関連健康障害の低減効果が見込める。

2012年20歳以上人口1億356万人であり、

AUDIT8点以上となるものの見込みは、一般成人におけるアルコール使用障害の有病率(2013年厚生労働省成人全国調査)より、 男性:1221万人(24.5%)、女性:198万人(3.7%)である。

過去の厚生労働省の調査では、約1400万人がAUDIT8点以上であり、減酒支援の対象になる。
減酒支援の普及により、我々の研究結果が示す飲酒量低下が達成されることで、期待されるアルコール関連健康障害低減効果のインパクトは大きいと推測できる
今後どのようにして定量的に示すのか検討が必要である。