Tottori University Faculuty Of Medicine Division Of Urology
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強度変調放射線治療 (IMRT)

強度変調放射線治療(IMRT)とは

局所に限局した前立腺癌に対する根治を目的とした放射線治療法は、前立腺全摘除術とほぼ同等の非常に良好な治療成績が得られています[1]。近年では技術的進歩によって、前立腺局所への線量増加(治療効果の改善)と周囲組織への線量低減(有害事象の軽減)が可能となりました。
強度変調放射線治療(IMRT : Intensity Modulated Radiation Therapy、以下 IMRT)とは、体の外から放射線を照射する外部照射の1手法です。一般的に癌に対する放射線治療は、照射する放射線量を増やせばがんの制御率が上がると考えられます。しかしながら前立腺がんについては前立腺の周囲に直腸や膀胱が位置しているため、それらの組織を避けて前立腺に十分量の照射をすることは事実上不可能でした。従来の方法では同じ方向からの放射線量が均一であるため、前立腺の周囲に存在する直腸や膀胱にも同じ強さの放射線が照射されてしまうからです。IMRTではコンピューター制御により、照射する放射線を対象の形に合わせて細かいビームに分割し、線量もビームによって増減させることが可能となりました。すなわち、前立腺に照射を集中し、膀胱や直腸といった周囲の正常組織への照射は抑えることで、副作用を増加させることなくより高い放射線を前立腺に照射することが可能になります。

実際の治療について

IMRT治療の適応があると判断された場合は、放射線治療科に受診していただき、そこで治療計画が立てられます。IMRT治療の準備にはある程度の時間を必要とします。それは、CTの画像を用いて緻密な治療計画を立てる必要があるからです。治療がスタートしてからも約1ヶ月半の間、月曜日から金曜日の週5回、毎日の通院期間が必要となります。

合併症について

放射線治療の合併症は、発症時期により早期(治療中あるいは治療後早期に生じる合併症)と晩期(治療後数ヶ月以降に生じる合併症)に分類されます。
早期合併症として頻尿、排尿時痛、膀胱刺激症状、排尿困難(尿閉)、血尿などの排尿症状と下痢(まれに出血)などが挙げられます。頻尿、排尿困難などの症状は比較的高頻度にみられますが、ほとんどが一過性であり治療後1ヶ月程度で改善します。
外照射療法では晩期の出血直腸障害生じやすい傾向にあります。発生頻度は数%~10%と報告されており、そのほとんどは自然に軽快しますが、まれに内視鏡的な止血術の適応となることがあります[2]。その他にも血尿、尿意切迫、排尿困難などの排尿障害や、直腸出血、肛門痛などがみられることがあります。
報告によりますが、一般的には外科的治療(ロボット支援腹腔鏡下前立腺全摘除術など)よりも性機能は維持され、外照射療法後の機能温存率は40~50%程度と報告されています。
IMRTでは周囲の正常組織への線量を下げられるという利点があるため、通常よりも副作用を減らすことができると期待されています[3]。

ホルモン療法を併用する場合(高リスク前立腺癌)

高リスク前立腺癌に対するIMRT治療においては禁忌の場合を除くホルモン療法を併用します。当院でのスケジュールはIMRT前に6ヶ月間のホルモン療法を施行し、IMRT終了後もホルモン療法を約2年間継続します。ホルモン治療の副作用としてほてり、頭痛、発汗、肝機能障害、性欲減退、勃起障害、女性化乳房、乳房痛、精巣萎縮、貧血、骨粗鬆症、肥満、糖尿病、心血管疾患、筋肉減少、認知機能の低下、うつ傾向、などが生じることがあり、女性の更年期症状と一部似ています。

基本的に外来1ヶ月毎 基本的に外来3ヶ月毎
ホルモン療法(約6ヶ月)
適応があれば
Space OAR留置(2泊3日)
IMRT(約1ヶ月半) ホルモン療法(約2年)
ホルモン療法

ハイドロゲルスペーサー(SpaceOARシステム®)とは

当院では、放射線の直腸への影響を低減する目的でSpace OAR® ハイドロゲルスペーサというゲル物質をIMRT症は前に挿入しています。Space OAR® は前立腺癌の放射線治療に使用するために2018年5月から保険収載され、当院では2019年5月から導入しています。前立腺と直腸との距離を1㎝程度離すことで、直腸被ばくを低減することが出来ます。IMRT予定の全ての患者さんにSpace OAR®の適応があるわけではありません。直腸側で被膜外浸潤が疑われる場合には適応外となります。

参考文献

[1] 日本泌尿器科学会編.前立腺癌診療ガイドライン 2012 年版.東京,金原出版,2012,240.

[2] 溝脇尚志.前立腺癌:強度変調放射線治療(IMRT)と Conventional 外照射の比較.Urology View.7(6),2009,32-5.

[3] 田中宣道ほか.前立腺癌に対する放射線治療後の QOL.Urology View.7(6),2009.46-50.