病態生化学 准教授  尾崎 充彦先生

がんの転移を予防せよ!

 尾崎充彦

尾崎 充彦

鳥取大学医学部生命科学科
病態生化学 准教授

研究内容

  • がん転移メカニズムを基盤とした革新的治療法の開発

がん転移予防は、究極のがん治療につながる!

 日本人の死因第1位である「がん」。いまや3人に1人が、がんで亡くなるとされています。がんは、早期に発見して治療すれば治る病気になりつつありますが、進行するとその治療は困難となっていきます。がん細胞は、遺伝子変異を蓄積することで種々の「悪さ」をするようになり、周囲の正常な組織を壊しながら、やがて別の場所に転移するようになります。転移したがん細胞は、極めて悪性度の高い細胞であり、いわば「がん」の超エリート。転移先でもさらに正常な組織を壊しながら増殖し、最終的に命を脅かします。これまで、多くの抗がん剤が開発され効果を上げてきましたが、がんの転移をくい止める薬はまだ実現していません。転移を防ぐことは、つまり「がん」との戦いに勝利することを意味します。

タンパクにならないRNAはガラクタ?

 RNAは遺伝子の情報を写し取って身体の構成要素であるタンパク質をつくります。2003年にヒトゲノム(ヒトの全遺伝情報)の解読が完了した際、タンパク質になる情報を持っているRNAは僅か2%のみ、なんと全体の98%にあたるRNAの多くは当初、役に立たないガラクタと考えられていました。ところが近年の研究で、そういったRNAが細胞内や体内の環境を維持するために重要な役割を担うことが明らかになってきたのです。そのうちの一つがマイクロRNAと呼ばれる小さな分子です。
 マイクロRNAには、タンパク質をつくる量を調節する機能があります。まるで素敵な音色を奏でるオーケストラの指揮者のように、状況に応じて適切で調和のとれた細胞内環境を調える役割を担っていると考えられています。実際、「がん」との関係を調べると、多くの「がん」に共通して、あるいは「がん」の種類特異的に特定のマイクロRNAが正常な状態より増えたり減ったりしていることが明らかになりました。

小さなマイクロRNAに秘められた大きな力

 骨肉腫という骨のがんは、小児期に多く発症するがんの1つであり、そのまま放っておくと肺に転移する特徴を持っています。骨肉腫細胞を調べたところ、miR-143とよばれるマイクロRNAの減少が転移と関連することがわかりました。マウスで実験を行ったところ、miR-143を投与したマウスの8割は骨肉腫の肺転移を予防することに成功しました。この結果は、マイクロRNAの量を調節することで、がん細胞の増殖や転移を防ぐ可能性を示しています。

 

今後の展望

 マイクロRNAなど核酸を医薬品として利用していこうという動きがあります。これを「核酸医薬」と呼び、次世代バイオ薬品として大いに期待されています。生体内に存在するRNAは非常に不安定な物質であり、そのまま投与しても効果を示す前に容易に分解されてしまいます。したがって、核酸医薬の開発には、化学、工学、薬学分野と連携し、安定でがん細胞特異的に送達できる薬剤化が必要です。さらには前臨床試験として「がん」を自然発症したイヌ等の動物を対象とした「miR-143製剤」による治療効果の検討が必要となり、獣医学分野との連携も必須です。
 本研究室では、基礎研究を通してがんの転移メカニズムを解明し、それらを基盤とした「miR-143」などの新規治療標的分子を一つでも多く同定していきたいと思っています。同時に多分野との連携を進めながら、鳥取大学発の「がん転移治療薬・予防薬」の開発を目指していきます。

 

受験生へのメッセージ

 高校生の頃から「漠然とした目標だけど、将来はがんを治す薬をつくってみたい」と思っていました。大学へ進学後、顕微鏡で実際にがんの組織を目にした時にすさまじい衝撃を受けたことを覚えています。正常な組織は細胞がきれいに並んでいるのですが、ひとたびがんになると細胞の形も並び方も無秩序で滅茶苦茶になっているのです。それ以来、「がんという“生き物”がどんなものなのかもっと知りたい」と、研究にのめり込みました。是非高校生の皆さんも将来の夢を自身の目的を達成するために大学進学という進路を選んでほしいと思います。「これをやりたい!」という情熱が後の人生を大きく左右するのです。大学では専門分野のみならず、幅広い知識を吸収してください。既知か未知かを知ること、今のテクノロジーでできることと、まだできないことを知ることが、あなた自身の独創的な目標設定に役立つからです。大学進学が人生のゴールではありません。若い時期、臆することなく貪欲にチャレンジして、夢に向かってがんばってください。

「株式会社フロムページ 夢ナビ」掲載のインタビュー記事より一部改変