実験病理学分野

Division of Experimental Pathology

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分野の特色

 発がん・悪性化の機序解明と,予防・治療法の開発を目指しています.ヒトにみられる病態を実験動物や細胞培養系等を用いて再現・解析し,病態の原因となる要因や責任分子(遺伝子・タンパク質)を同定します.これらの成果をもとに最終目標である発がん・悪性化の予防に挑みます。

分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明

がんの転移予防に向けた取り組み
 がんは、早期に発見して治療すれば治る病気になりつつあります。しかし、多くの遺伝子変異を蓄積したがん細胞が増え続けると、やがて別の場所に転移してしまうのが難題です。転移したがん細胞は、極めて悪性度の高い細胞であり、いわば「がん」の超エリートといえます。がん転移は、命を脅かします。これまで、多くの抗がん剤が開発され効果を上げてきましたが、がんの転移をくい止める薬はまだ実在していません。転移を防ぐことは、「がん」との戦いに勝利することを意味します。病態生化学分野では、マイクロRNAという視点から「がん転移」メカニズムを明らかにするため、培養細胞やモデル動物そしてヒトの組織標本を用い研究を進めており、これまでの成果として、骨肉腫の肺転移を抑制するマイクロRNAの同定を世界に先駆けて報告しました。骨肉腫という骨のがんは、肺に転移する特徴を持っています。この細胞を調べたところ、miR-143とよばれるマイクロRNAの減少が転移と関連することが分かりました。そこでヒト骨肉腫細胞をマウス膝関節に接種して原発巣を作らせ、その後自然に肺転移を生じるマウスへmiR-143を投与したところ、8割のマウスで骨肉腫の肺転移が予防されました。この結果は、マイクロRNAを「核酸医薬」として投与することにより、がん細胞の増殖や転移を防ぐ可能性を示しています。同時に、このmiR-143の機能を明らかにする事で、より効果的な転移予防法の開発が期待できます。マイクロRNAという小さな分子がもっている、大きな可能性を「がんの転移予防」へ1日も早く応用するため、基礎研究のみならず、獣医学および臨床医学の研究者と共同して前臨床試験及び臨床試験に向けた取り組みを進めています。

炎症発がんの機構解析と予防法の開発
 世界におけるがん死の原因の約20%を炎症・感染症が占めています.原因と結果がこれほど明確に示されている発がん要因は無く,換言しますと,炎症はがん予防を達成する際の最初の標的要因といえます。この観点から,独自に確立した“炎症発がん”の動物モデルを用いて,発がん機構の解析とともに,予防へ向けた探索を行います。

新たな発がん因子の同定
 今から30年ほど前にがん疫学者は,喫煙,食事内容と炎症が,ヒト発がん要因の75%を占めることを示しました。現在ではそれぞれの比率が僅かに下がっているようですが,今もって主要な発がん要因と考えられています。では,具体的な発がん因子にはどのようなものがあるのでしょうか。そこが知りたいところですが,発がん因子であることの証明には,2〜3年間の長期にわたる発がん動物実験を経なければなりません。このことが,発がん因子決定の際に大きな障害となってきました。そこで,観察期間を大幅に短縮して発がん性の有無を推測することのできる新規の発がんスクリーニング系を確立しました。これまでに発がん性が疑われる物質や,発がん性を持ちながら既存の発がん評価系では検出することのできなかった物質などの同定を行っております。

がんの生物学
 細胞がなぜがん化するのか,なぜがん細胞は転移を起こすのかに関する研究は,この100年間続けられてきました。多くの発がん責任分子や,シグナル異常の関わりは示されました。これらの情報をもとに数々の臨床応用が行われてきましたが,残念ながら未だに人類はがん化や転移を阻止する術を持ちません.従って,現在も当初の疑問に対する答えを得たとはいえないようです。それは細胞がん化や転移は,生物に共通する発生や老化・進化等の過程にみられる最も根本的な正常機能を借用し,あるいは一部を改変しているためなのかもしれません。がん研究の原点に立ち戻り,解決されぬ疑問に正面から挑む研究を続けたいと思います。

がん研究に興味がある,意欲溢れる学生さんの参加を望みます.

スタッフ

教授    岡田 太
准教授   尾﨑 充彦
助教    井筒瑠奈

 電話番号

TEL 0859-38-6242

関連リンク

研究室ホームページ https://byoutaiseikagaku.jimdo.com/