遺伝子機能工学部門

Division of Molecular Genetics and Biofunction

分野名
遺伝子機能工学部門 Department of Biomedical Science
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電話番号
TEL:0859-38-6208
スタッフの職名と氏名
教授 久郷裕之  kugoh@med.tottori-u.ac.jp
准教授 香月康宏  kazuki@med.tottori-u.ac.jp
助教 宇野愛海  
助教 大平崇人  
分野の特色
ヒト全塩基配列の解読をゴールに推進されていたヒトゲノムプロジェクトは、2001年にゲノム全体の90%に相当するドラフト配列版が発表され、このプロジェクトの目的はほぼ達成されたと考えられる。今後は、断片化されている配列データを情報処理により構築する大変な作業が残っているが、これらの塩基配列の情報から蓄積されてきた一次元レベルの転写制御機構の解明を越え、ペプチドや染色体(クロマチン)のドメインレベル(二次、三次元)での高次構造における解析が中心になり、より生理的条件下での制御機構の解明が進むものと推測される。事実、ヒストンおよびその他の非ヒストンタンパク質で形成されているクロマチンの修飾と動的変動が転写、染色体の形成・分配等に重要な役割をもつことが明らかになってきた。
一方、膨大なゲノム情報からがんの発生機構も分子レベルでの解明が進み予防・治療に大きく生かされているが、その成果を向上させるためにもさらに多くの知見の集積が必要な分野である。
当研究室においては、これらの大きな問題を解く鍵を探す2つの柱からなるプロジェクトを進めている。
分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明
クロマチンの動的変動による転写制御機構の解析
刷り込み遺伝子の機能解析を中心に遺伝子の転写制御機構がクロマチンあるいは染色体レベルでどのように制御されているか明らかにする。ゲノム刷り込み(genomic imprinting)とは、父親と母親由来の対立遺伝子(アレル)が識別され、異なる発現レベルを示す現象である。個体発生や細胞の増殖と分化にきわめて重要な役割を果たすと考えられ、哺乳類においては単為発生を阻害する機構として、その生物学的意義が注目されてきた。ゲノム刷り込みは、いわゆる突然変異とは異なり、遺伝情報の恒久的変化を伴わずに世代ごとにその活性を可逆的に変化させる後生的(epigenetic)な現象であり、DNAのメチル化、クロマチン構造の変化あるいはDNA複製のタイミングなどが関与することが知られている。

1) 当教室で新規に単離された刷り込み遺伝子LIT1の機能異常は、その周辺遺伝子の発現制御動態の混乱を誘導する。またこの遺伝子はBeckwith-Wiedemann症候群の染色体異常を示す領域に存在していることから、原因遺伝子の可能性が示唆されている。LIT1は、RNAとして機能しており(1)X染色体の不活化に関与しているXistのようにRNA分子が直接隣接する遺伝子を制御している。(2)LIT1遺伝子あるいは相互作用している分子がクロマチンの構造に変化を与え隣接する遺伝子発現を制御している等が考えられる。現在、LIT1遺伝子の機能の解明に取り組んでいる。

2) 活性クロマチンは細胞核内に存在する足場(核マトリックス)に結合してループ構造を形成している。核マトリックスに結合する領域は、Matrix Attachment Region(MAR)または Scaffoled Attachment Region (SAR)と呼ばれ、転写制御領域の近傍にあたる非コード領域に存在して、コードされている遺伝子をクロマチンループ内に配置させていると考えられている。核マトリックスとゲノム DNAの特異的結合機構によるクロマチン構造の変化は、転写制御機構の大きな役割をもっていることが示唆されている。
刷り込み遺伝子は、ゲノムの特定領域に集積してクラスターを形成しドメインレベルで数百kbから数Mb単位に制御を受けていると考えられている。このことから、刷り込み遺伝子等に認められる広範囲における遺伝子発現制御は、MAR/SARの制御下で安定に調節されている可能性が考えられる。本プロジェクトでは、この仮説を証明するために刷り込み遺伝子のMAR/SAR領域を人為的に破壊し、周辺遺伝子の発現動態を検索する。さらに、がん症例で観察された刷り込み異常から核マトリックスとゲノムDNAの特異的結合が転写制御におよぼす影響を明らかにする。


がん発生機構の解析および診断・治療分野への応用
これまで、微小核細胞融合法を用いた染色体導入研究より、がん抑制遺伝子、劣性遺伝病の原因遺伝子のマッピングを行ってきた。その中で、細胞のがん化に関与するテロメレース活性抑制遺伝子の存在領域を明らかにした。
また、この染色体導入技術を用いてヒト型抗体産生マウスの作製にも成功した。

1) 染色体末端に存在するテロメアの伸長に働くテロメレースは、85%以上のがん細胞で活性化が認められることにより、テロメレースの発現ががん細胞の成立あるいは維持に不可欠であることが示唆された。テロメレース活性化の制御機構の解明ががんの予防および治療に大きく貢献すると考えられる。本プロジェクトにおいて、染色体導入研究の知見・材料を基に、テロメレース活性が抑制された細胞クローン中のタンパク質発現レベルの変化をプロテオーム解析から検索し、テロメレース活性抑制遺伝子の単離を試みる。

2) ヒト抗体産生マウスへ特定染色体の導入によりがん形質の抑制効果を示した細胞を免疫源として得られた抗体から診断・治療に応用できる抗体の同定を試みる。
HP作成担当者名
富松望 Nozomi@grape.med.tottori-u.ac.jp