機能病態内科学分野

Division of Medicine and Clinical Science

分野名
機能病態内科学分野 Division of Medicine and Clinical Science
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第二内科診療科群(消化器内科・腎臓内科)(医学部附属病院HP内)
電話番号
TEL:0859-38-6527
FAX:0859-38-6529
スタッフの職名と氏名
(消化器内科科長)
教 授 磯本  一 isomoto@med.tottori-u.ac.jp (主任科長、消化器内科科長)
准教授 八島 一夫 yashima@med.tottori-u.ac.jp(統括医長)
講 師 宗村 千潮 chishiom@med.tottori-u.ac.jp(腎臓内科科長)
講 師 岡野 淳一  
講 師 原田 賢一  
学部内講師 法正 恵子  
学部内講師 河口 剛一郎 (病棟医長)
助 教 大山 賢治 (がんセンター)
助 教(学内講師) 武田 洋平  
助 教 福田 佐登子  
助 教 的野 智光 (鳥取県肝疾患相談センター)
助 教 池淵 雄一郎 (高次集中治療部)
助 教 三好 謙一 (外来医長)
医 員 福井 毅顕  
医 員 岡本 敏明  
医 員 細田 康平 (大学院生)
医 員 菓  裕貴 (大学院生)
医 員 井山 拓治 (大学院生)
医 員 森尾 慶子 (大学院生)
医 員 岩本 拓 (大学院生)
医 員 松木 由佳子 (大学院生)
医 員 永原 蘭 (大学院生)
医 員 木下 英人 (大学院生)
医 員 孝田 博輝 (大学院生)
医 員 藤井 政至 (大学院生)
医 員 寳意 翔太朗 (大学院生)
医 員 山根 昌史 (大学院生)
医 員 山下 太郎 (大学院生)
分野の特色
 消化器・腎臓専門医の育成と共に、内科医としての技量と資質の向上を目指し、バランスのとれた内科医の育成を行うことを教室のモットーとしております。その上に立ち、リサーチマインドを持つ医療人、患者様の健康を願う医学研究者として、最先端の病態解析に取り組むことで消化器病学、腎臓病学の理解を深め、臨床・研究・教育に取り組んでいます。

分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明

【消化管グループ】  
 
癌は遺伝的要因と環境要因により遺伝子異常が蓄積し発生します。故に癌克服には、リスク群に対しての効率の良いスクリーニングによる早期発見・早期治療および環境要因を可能な限り排除する予防が重要です。消化管グループでは消化器癌における発癌過程の解明をメインテーマとして、主に内視鏡切除標本及び外科切除標本を用い、癌関連遺伝子異常などを免疫組織化学的手法等を利用して研究をしています。

(1)胃癌発生メカニズムに関する研究
 
胃癌において、多くはH. pylori感染が原因で発生するので、内視鏡検査などでH. pylori感染を確認し、除菌とともに内視鏡で定期的にフォローアップすることが重要です。その中でどのような患者背景・内視鏡所見がリスクかを知っておくことは、早期発見に繋がると考えられます。
 また、近年内視鏡診療は、EMR、ESDの開発、画像強調・拡大機能を持った高解像度内視鏡の登場などにより、目覚ましく進歩し、多くの早期消化管癌が診断され、内視鏡切除されるようになってきています。
 このような状況で、早期胃癌の内視鏡治療において、術前の深達度診断、脈管侵襲の有無などの悪性度予測が可能になれば、追加手術、oversurgeryなどを最小限にでき、過不足のない治療ができると考えられます。
 現在、我々は内視鏡的切除または外科的切除した胃癌標本を用いて、癌関連蛋白発現などを解析して悪性度・進行度予測ができないか検討しています。最近の結果として、H. pylori感染により胃上皮に発現する遺伝子編集酵素であるAID発現がP53遺伝子異常を誘導し、胃癌を進行させてゆく可能性を報告しています。

(2)食道癌発生メカニズムと生活習慣
 内視鏡的切除した食道intraepithelial neoplasia、食道癌を用いて、飲酒・喫煙などの生活習慣と癌関連蛋白発現との関連を検討しています。P53発現は発癌早期に、Fhit、E-cadherin蛋白発現異常は食道癌進展に関わっていること、さらにFhit蛋白発現異常と飲酒、喫煙との関係を報告しています。また内視鏡診療の進歩により内視鏡治療できる食道癌が増えてきており、さらにこれら食道癌に合併する早期咽頭癌も発見され内視鏡的切除も可能になってきています。
 現在、飲酒・喫煙によるfield cancerizationによる発癌機序を明らかにするために、内視鏡的に切除した咽頭癌・食道癌のみでなく、同一患者の胃癌、大腸腺腫・癌においても各種癌関連蛋白発現状況の検討を行っています。


(3)大腸鋸歯状病変発生メカニズムに関する研究
 大腸癌の多くはadenoma-carcinoma sequence (ACS)の経路で発生します。
 近年大腸鋸歯状病変を介した発癌経路(serrated pathway)の存在が明らかになり、CIMP (CpG island methylator phenotype)陽性or/and MSI(microsatellite instability)陽性大腸癌へ進展すると考えられるようになっています。
 我々は大腸鋸歯状病変の特徴を明らかにするために、内視鏡的切除した鋸歯状病変、腺腫、早期癌を臨床および分子病理学的に比較検討しています。

(4)上部消化管出血に関する臨床研究
 本邦では、近年の急激な高齢化により、抗血栓療法やNSAID使用が増加しているが、H. pyloriの感染率は低下しており、上部消化管出血の背景は変化しています。
 このような状況下で、上部消化管出血の発生頻度と、原因疾患、NSAIDや抗血栓薬の使用状況と、防御系薬剤、特にPPIの使用状況を調査しています。また、これら要因が上部消化管出血の原因や治療成績にどの程度関与しているかも検討しています。


(5)伯耆町におけるピロリ菌抗体検査事業の実態調査および有効性の検討

 鳥取県伯耆町にてH. pylori抗体検査結果より検診を含む内視鏡検査、除菌療法に誘導する試みが2014年度より開始され、2018年度まで行われる予定となっています。
 本研究では、集団におけるH. pylori感染率、除菌療法受診率、除菌成功率を把握することと、集団健診にてH.pylori感染確認後に除菌を行うことによる胃癌発症予防および胃癌死亡率減少効果、H.pylori感染確認後に胃がん内視鏡検診に導入することによる有効性(受診率向上、胃癌発見率上昇、逐年受診率向上など)を検討しています。

(6)米子市大腸がん検診(便潜血検査)により発見された大腸癌の臨床病理学的検討
 大腸がん検診は、便潜血検査について、ランダム化比較試験をはじめ、がん検診の中でも最もエビデンスが確立しています。
 しかし、海外の組織型検診と比べると、わが国の検診では精度管理の仕組みが不十分であり、また便潜血検査による要精検率が高く、偽陽性による無駄な大腸内視鏡検査が多いとされています。
 本研究では、米子市における大腸がん検診にて発見された大腸癌の特徴を調査し、癌の発生部位、進行度などを明らかにし、現在の大腸がん検診の有効性・問題点を検証することを目的にしています。

(7)炎症性腸疾患のパイエル板微細構造解析と応用
 クローン病は回腸末端に好発する原因不明の炎症性腸疾患です。回腸末端にある最大の腸管関連リンパ組織であるパイエル板に注目し、拡大内視鏡による微細構造を解析しています。クローン病ではパイエル板の表面構造異常が明らかで、走査電顕でM細胞や吸収上皮に不整がみられました。
 さらに、分子生物学的手法により腸内細菌フローラの網羅的解析を行っており、新たな視点からクローン病の原因究明を目指しています。
 また、潰瘍性大腸炎の大腸粘膜では、超拡大内視鏡観察を行い、長期予後(再発、手術)との関連性を報告しています。
 現在これらの拡大内視鏡観察を用いて、粘膜治癒や再発、手術などに関して前向き多施設共同研究(鳥取、九州)を行っています。

(8)PDT(光線力学的療法)の実用と展開
 2015年化学放射線治療後の再発・遺残食道癌にレザフィリンPDTが保険収載されました。患者に優しい低侵襲治療であるPDTの症例を集積しています。企業と新たな光感受性物質を用いた温熱光線力学的療法、さらには胆膵癌への応用など独自の取り組みを行います。

(9)光技術がもたらす消化器癌高精細診断法の開発
 富士フイルムと共同でレーザー内視鏡スコープによる胃癌の光線力学的診断(PDD)を行って来ました。さらにより診断能の高い内視鏡スコープの製造を目指します。内視鏡の細径化を図り、癌性狭窄、胆膵領域への応用も視野に入れ、5-アミノレブリン酸の中間代謝産物の光学的、生化学的な分析を行い、新規の癌バイオマーカーを探索しています。分子イメージングにより癌の高精細な蛍光診断法を開発することを目標にしています。


以下、消化管・胆膵グループに共通する基礎研究
(1)消化管の炎症・発癌:microRNA (miR)による制御
 microRNA(miR)は22塩基前後のsmall RNAで、蛋白質の翻訳を抑制する機能があります。発癌に関わるmiRは"onco-miR"とも呼ばれます。消化管グループでは食道扁平上皮癌に特異的なmiR、胃癌miR発現プロフィールに特性を発見しました。ピロリ菌関連疾患の病態、特に胃発癌との関与が予想され、興味深い結果が得られそうです。

(2)消化管の炎症・発癌:epigenetics機構の解明
 近年遺伝子配列の変化を伴わない遺伝子発現の異常=epigeneticsが発癌や癌の悪性度と関与することが明らかになっています。胆管癌、胃癌、食道癌、アカラシアなどで癌抑制遺伝子のプロモーター領域にDNAメチル化が頻発し発現抑止が起こっていること、miR発現の一部がDNAメチル化により発現制御されている可能性があり、そのメカニズムや機能解析にも興味を持って取り組んでいます。

(3)PDD/PDT(Theragnostics)の基礎的研究
 難治性消化器癌の早期診断につながるバイオマーカーの探索を目指すその成果はイメージングとともに生化学的分析も同時に可能になります。現在は5-ALAを用いたものですが、診断と同時に治療が行えるTheragnosticsが注目を集めています。癌組織内のポルフィリンの集積性を局在化できれば発癌、癌進展のメカニズムの解明につながります。1細胞解析やオミックスの統合解析を行うことでトランスレーショナルリサーチが臨床に極めて近い形で具現化できるものと期待しています。

【胆膵グループ】
 [臨床研究]
(1)膵腫瘤およびリンパ節腫脹に対する超音波内視鏡下生検におけるサンプル中の標的検体検索を容易にする標的検体確認照明器の有用性の検討

 超音波内視鏡下生検の際にサンプル中に検体が採取されているか否かを病理医・細胞検査士による迅速細胞診を実施せずに判断することは困難なことが多いです。しかし、同時に病理部の人手不足により迅速細胞診が導入できない施設が大半を占めています。我々はこの問題を解決するデバイスを開発し、その臨床的有用性を確認しました。2015年2月企業と業務提携し上市し、各御施設より好評をいただいています。おり、2016年7月より国内のhigh volume centerと多施設共同臨床試験を当科主導で開始予定としております。

(2)テロメレース活性マーカーを用いた膵胆道癌細胞の早期発見及び病状評価に関する研究
 膵癌は早期発見が困難であるため発見時に手術ができる患者さんは4割程度しか存在しません。これこそが、膵癌患者さんのご寿命を短くしている原因です。膵胆道癌における既存の腫瘍マーカーによる膵癌発見率は良好とは言えず、最も感度が高いとされるCA19-9でも、stageⅠ(2cm以下の大きさで膵臓内に留まる、胆管に限局する)では、5~10%未満にしか上昇しないとされています。我々は、テロメレース活性マーカーが早期の膵胆道癌でも83.3~100%と著明に上昇し、その正診率が超音波内視鏡下生検と同等であることを発見したため、現在製品化に向けて企業との交渉を進めております。

(3)合成セクレチン製剤を用いた膵液細胞診による膵癌診断に関する検証試験  
 我々は、超音波内視鏡下生検では診断できない膵癌に対して膵液細胞診を併用することでその診断能が有意に向上することを証明しました(Matsumoto K et al.JGH2014)。しかし、膵液細胞診は既報によるとその正診率は50%前後と良好ではありません。我々は従来の膵液細胞診時に合成セクレチンを用いることでその診断能が向上するかを検証しています。

(4)体外式腹部超音波検査による膵描出の客観性に関する検討  
 体外式腹部超音波検査は膵癌スクリーニング検査項目に上げられ、その簡便性が評価されているものの、有用性に関しては、CT・MRI・超音波内視鏡に比較して乏しい現状があります。私たちはCT・MRI・超音波内視鏡検査で指摘された膵腫瘍や膵嚢胞性病変を、腹部エコーでどの程度描出することができるのかを後ろ向きに解析し、腹部超音波検査でどの程度膵癌を発見できるかを検証しています。

(5)腹部超音波検査およびMRIを用いた膵臓・胆管の腹腔内位置変換に関する観察研究
 
膵エコーは、一般的に膵頭部・膵尾部の描出が困難で、描出困難となる原因として一般的に“肥満”が挙げられ、描出能を改善する方法として体位変換、飲水法などが挙げられています。しかし、それらに関して客観的に評価されている報告は過去にありません。我々はMRIを撮像した健常人に対しRealtime Virtual Sonographyを実施することでどの程度膵エコーでは見えない領域があるのか、見えない原因は何か、既報の描出改善手技は本当に有用であるのかを検証しています。

(6)KL-6関連抗体、膵胆道癌診断補助における検証試験
 
我々は、超音波内視鏡下生検では診断できない膵癌に対して膵液細胞診を併用することでその診断能が有意に向上することを証明しましたが、膵液細胞診の正診率は既報によると、50%前後と良好ではありません。我々は、膵液・胆汁細胞診時に細胞採取後廃棄されている膵液及び胆汁内に含まれている蛋白中のKL-6を解析することで、膵胆道癌細に対する細胞診の補助診断となり得るかを検証しています。

(7)山陰地方における膵胆道癌診療実態調査  
膵胆道癌診療において、治療方針決定目的に病理学的エビデンスを取得することが重要となっていますが、全国的にみてもエビデンスを取得せず治療方針を決定していることが少なからずあります。我々は、鳥取大学消化器内科関連病院の膵癌診療の実態を調査し、関連病院全体でその結果を把握することで、診療形態の均てん化に繋げたいと考えています。
 第1回膵癌診療実態調査により、山陰地方において、病理学的エビデンスを取得せず、膵腫瘍を膵癌とみなして診療に当たっている症例が40%程度もあること、化学療法実施症例で病理学的エビデンスを取得していない症例に予後良好症例の比率が高く、抗がん剤投与が不要な腫瘤形成性膵炎が含まれている可能性があることを、研究協力施設で共有しました。現在上記を共有した上での改善度を確認すべく第2回膵癌診療実態調査を実施し、第1回胆道癌診療実態調査実施に向けて準備中です。

(8)膵癌、慢性膵炎における膵組織硬度に関する研究  
膵癌と腫瘤形成性膵炎(慢性膵炎)の診断は、超音波内視鏡下生検により診断可能ですが、時に組織採取が困難で診断に難渋することがあります。我々は、Virtual touch quantificationという技術を用いて、腹部超音波検査下に膵癌の病変部や慢性膵炎の膵組織効果度を測定することで、より低侵襲に膵癌・慢性膵炎の診断ができるかを検討しています。


[基礎研究]
(1)胆道癌発症における肝炎ウイルス感染の関与に関する研究
 最近、印刷工場で使用される化学物質が胆道癌の危険因子とされていますが、古来肝炎ウイルスは肝内胆管癌の危険因子であることが判明していました。我々は肝外胆管癌においても肝炎ウイルスが関与している可能性があることを発見し(Matsumoto K et al. Internal Med 2014)、現在その機序に関する基礎的な検証を進めています。

(2)膵癌における新規バイオマーカーの検証
 先に述べた、膵胆道癌診断補助におけるKL-6関連抗体の有用性に関する検証試験と同様のコンセプトでテロメレースの制御分子であるPITX1(paried-like homeodomein1)発現を検索し、膵癌の診断および予後予測マーカーとしての意義に関して検証しています。


【肝臓グループ】
[臨床研究]
(1)C型慢性肝炎に対する抗ウイルス療法
 C型慢性肝臓病に対する抗ウイルス療法は日進月歩であり、従来難治性と言われていたセロタイプ1型C型慢性肝臓病に対しては、インターフェロン(IFN)を含んだPEGIFNα-2a/2b・リバビリン・シメプレビル3剤併用療法や、IFNを使わない飲み薬だけの24週間治療(ダクルインザ・スンベプラ併用療法)が行われ、副作用が少ない治療法で高い治癒率が得られるようになってきました。
 セロタイプ2型の患者さんに対しても、IFNを使わない飲み薬だけの12週間治療(ソフォスブビル・リバビリン併用療法)が2015年6月頃に保険認可予定であり、副作用が少なくかつ100%近い治癒率が得られる見込みです。
 但し、セロタイプ1型ではダクルインザ・スンベプラ併用療法が効きにくい遺伝子変異したC型肝炎ウイルス変異を持っている患者さんが一部におられることが分かっていますので、岡山大学消化器内科との共同研究により、治療前にC型肝炎ウイルス遺伝子変異を測定し、個々の患者さんにあった個別化治療を実践することによって、より高い治療効果を目指しています。
 また、山陰両県の基幹関連施設を含めた多施設共同研究を行い、C型慢性肝臓病治療に関する新たな知見を見出すことや治療の均霑化に取り組んでいます。

(2)肝細胞癌治療後の患者に対する抗ウイルス療法
 慢性肝臓病患者さんに対する抗ウイルス療法は、肝病変の進行を抑えるとともに肝細胞癌の発生を抑制することが分かってきました。
 当科では肝細胞癌治療後の根治患者さんに対して、C型慢性肝臓病ではPEGIFNを含む治療や飲み薬だけの治療、B型慢性肝臓病では核酸アナログ製剤(エンテカビル、テノフォビル)の投与によって、肝細胞癌の再発が有意に抑えられ肝予備能も改善するかどうかを、山陰地区の多施設関連病院を含めてその有効性を検証しています。

(3)肝硬変症患者における肝性脳症早期診断法の開発
 肝性脳症は進行した肝硬変患者さんに発症する重篤な合併症です。肝性脳症を早期に診断することによって、発症前に適切な治療が可能となります。当科では潜在性脳症と呼ばれている発症前の病態を診断するためにコンピュータを用いた神経機能評価、フリッカー試験による診断法の開発を進めています。

(4)非アルコール性脂肪性肝疾患(NAFLD)の診断と治療法の開発
 従来NAFLDは単なる脂肪肝として重篤な疾患とは考えられていませんでした。
 しかし、NAFLDの一部である非アルコール性脂肪肝炎(NASH)は肝硬変、肝癌と進展することが明らかとなり、近年増加傾向にあることもわかってきました。
 当科ではNAFLDからNASHを鑑別するための新しい血清マーカーとしてmicroRNAの検討を行い、効率的にNASHを診断する方法を検討しています。さらにNASHやNAFLDの内臓肥満との関連を調べるとともに、治療効果の推移を血清マーカー、腹部超音波検査による内臓脂肪の評価によって行っています。

(5)肝細胞癌の早期診断と肝炎ウイルス陽性者の掘り起こしの取り組み
 
従来、肝細胞癌の約90%はB型肝炎およびC型肝炎ウイルスが原因であり、これらのウイルス陽性者(キャリア)は肝細胞癌の高危険群であることから、定期的(危険度に応じて3ケ月~6ケ月毎)に腫瘍マーカー測定(AFP、PIVKA-Ⅱ)や画像検査(腹部超音波、ダイナミックCT、EOB-MRI等)で経過観察(サーベイランス)を行うことにより、肝細胞癌の早期発見が可能であり、日本肝臓学会のガイドラインでも肝発癌高危険群に対するサーベイランスが推奨されています。
 当科では、肝細胞癌の高危険群であるB型とC慢性肝臓病患者さんを、サーベイランスガイドラインに沿って厳重に経過観察を行うことにより肝細胞癌の早期診断を行い、生命予後の改善に繋げるべく日々努力しています。
 当院だけではなく鳥取県内の主な医療機関、鳥取県健康対策協議会、鳥取県肝疾患相談センターとも協力して、肝発癌高危険群に対するサーベイランスが守られるように対策を行っています。また、B型肝炎ウイルスやC型肝炎ウイルスに感染していることを知らずいきなり肝細胞癌と診断される患者さんも多いため、米子保健所や鳥取県肝疾患相談センターとも連携して肝炎陽性患者さんの掘り起こしや市民向け講演会による啓発活動を定期的に行っています。
 一方、B型とC型肝炎ウイルスがともに陰性にもかかわらず肝細胞癌が発生する非B非C型の肝細胞癌が全国に増加しており、鳥取県もその例外ではありません。非B非C型の場合、肝細胞癌の発生に留意した定期的な検査が行われていることは少ないため、しばしば進行した状態で肝細胞癌が見つかります。非B非C型の肝細胞癌の原因として、アルコール、非アルコール性脂肪肝炎(NASH)、過去のB型肝炎ウイルス感染、糖尿病等が推測されていますが、まだ明確となっていません。
 当科では、非B非C型の肝細胞癌患者さんに共通の特徴を調べ、高危険群を選別する方法を検討し、非B非C型の肝細胞癌を早期診断できることを目指しています。

(6)造影超音波(CEUS)、CT、MRIによる肝細胞癌診断・サーベイランスの研究
 
早期の肝細胞癌発見のために最も重要な検査は画像診断です。肝細胞癌高危険群の患者さんに対する早期診断に最も効果的なスクリーニング法を研究するとともに、効率的な質診断および治療後の経過観察のためのモニタリング法を研究しています。
 これらの開発により、肝細胞癌の早期発見、早期治療により生存率が向上することを目指しています。

(7)肝細胞癌治療法についての臨床研究
① 小肝細胞癌に対するラジオ波焼灼療法(RFA)
 
小肝細胞癌に対する治療はエタノール注入療法から、より根治性の高いラジオ波焼灼療法(RFA)へ移行しています。
 しかし、その治療効果、生存率の改善効果については未だ十分に検討されていません。
 当科では、RFAの短期・長期の治療効果を検討するとともに、肝予備能へ与える影響を検討しています。より効率的にRFAを行うために人工胸水下、人工腹水下あるいはCT下RFA等の工夫も行っています。
 また、CEUSやCT、MRI、超音波とのfusion画像を用いて、より精度の高い治療を行っています。さらに、RFAが高い根治性をもって行われたかどうかを調べるために、MRI造影剤(SPIO、EOB)を用いた治療評価法を開発しています。

② 進行肝細胞癌に対するリザーバーポートを用いた動注化学療法
 RFAや肝動脈塞栓術(TAE)の適応とならない高度進行肝細胞癌患者さんに対して、埋め込み式のリザーバーポートを用いて各種の抗癌剤による化学療法を行っています。これにより、従来治療効果の期待できなかった患者さんに対しても、生存率の改善が得られています。今後さらに抗癌剤の組み合わせを工夫し、患者さんごとの薬剤感受性を遺伝子多型の面から検討して、テーラーメード医療を目指しています。
 また、新しく登場した分子標的治療薬(ソラフェニブ)も積極的に用いて新しい治療体系の確立を目指しています。

(8)慢性肝炎に対する線維化診断法の開発
 慢性肝炎における線維化の診断には肝生検が推奨されていますが、肝生検は侵襲的な検査法であり繰り返し行うことは困難です。
 当科では以前より線維化の診断に、非侵襲的な血清マーカー(IV型コラーゲン、7Sコラーゲン、ヒアルロン酸、PIIIP等)測定が有用であることを報告してきました。
 また、最近では通常の肝機能検査から線維化の程度を推定するFibroIndexを作成し、これは日本消化器病学会肝硬変診療ガイドラインにも取り上げられています。FibroIndexは抗ウイルス治療や肝庇護療法の治療効果の経過観察に有用です。
 現在、さらにFibroIndexによる肝発癌予測が可能かを検討しています。
 また、低侵襲検査法として3種類の肝硬変測定装置(Fibroscan、Real time tissue elastography、VTQ)を用いて線維化診断、肝発癌予測への有用性を検討しています。

[基礎研究]
(1)ラットの肝細胞癌モデルを用いた肝細胞癌予防や治療薬物の探求
 抗癌剤とは異なり副作用が少なく体にやさしい薬物(フィトケミカル)を使って肝細胞癌を予防あるいは治療する方法を、肝癌培養細胞や動物を用いて基礎的に研究しています。Diethylnitrosamine (DEN)という薬物をラットに腹腔内投与すると、ヒトに類似した肝細胞癌ができます。このラット肝細胞癌モデルに対して、カフェイン、ウコン、クルクミン、シリマリン、ゲラニオール等のフィトケミカルを投与して、ラットの肝細胞癌の予防効果を検討しています。将来的には、ヒトへの応用可能なフィトケミカルを見出したいと考えています。

(2)microRNAによる脂肪肝、脂肪肝炎の診断法の開発
 1998年に初めて発見されたRNA干渉は、二重鎖RNAを細胞内に取り込ませることで、その相補的(配列が正反対で、お互いを補完し合うような)配列を持つメッセンジャーRNAだけを減少させ、その結果細胞の構造や機能に様々な変化を起こすことができる現象です。正常マウス、脂肪肝モデルマウスを用いて、網羅的にmicroRNAの発現を調べ、脂肪肝、脂肪肝炎を診断するのに有用なmicroRNAを検討しています。新たに見出したmicroRNAがヒトの脂肪肝、脂肪肝炎診断にも有用かをさらに検討しています。
 また、選択されたmicroRNAは脂肪肝、脂肪肝炎の発症にも深く関与していると考えられるため、その病態も研究しています。

(3)肝線維化治療薬の開発
 ラット実験的肝線維化モデルを用い、線維化治療薬の開発およびその作用機序の解明に取り組んでいます。特にレニン-アンギオテンシン-アルドステロン系阻害剤を中心に検討を行い、その有用性を報告しています。一部の薬剤は既に臨床応用も行い、有効であることを報告しています。

(4)非アルコール性脂肪肝炎(NASH)の発症機序の解明と治療薬の開発
 ヒトのNASHに近い肝線維化を伴う動物モデルは少ないのですが、我々が用いているFLS-ob/obマウスは高度の脂肪肝と肝の線維化を伴い、長期には肝細胞癌も発生することからヒトNASHの自然経過に極めて類似しています。このFLS-ob/obマウスを用いて、酸化ストレスやクッパー細胞を含めたNASHの進展機序の解明を行っています。
 また、NASHの治療法としてアンギオテンシン系阻害剤やコレステロール吸収阻害剤および各種の糖尿病治療薬の有効性を、このマウスを用いて検討しています。


【腎臓グループ】
(1)長寿遺伝子SIRT1とCKDの検討
 SIRT1は肝臓、脂肪組織、脳、腎臓において発現していますが、SIRT1は腎メサンギウム細胞における酸化ストレスならびにTGFβによるアポトーシスを制御しうることが報告され、腎不全時にはその発現が減少しており、腎不全の進展に関与していることが示唆されています。アンジオテンシンⅡ(AⅡ)は種々の腎病変において障害的に作用し、その阻害薬であるARBは腎保護的に働きますが、AⅡはSIRTの発現を減弱することが報告されており、ARBの腎保護作用にはSIRTが寄与していることが示唆されます。慢性腎不全ラットにARBを投与してSIRT1への作用、腎保護効果を検討しています。

(2)CKDにおける腎超音波所見の検討
① 組織硬度測定の検討
 CKD患者を対象に超音波検査による新しい組織硬度の測定法を用いて腎機能、腎予後との関係を検討しています。

② CKDにおける腎萎縮、形態変化の検討
 CKDの進行とともに腎萎縮が進行することはよく知られていますが、CKD患者を対象に超音波検査で腎皮質/髄質比を測定し、その経時的変化と腎不全の進行について検討しています。

(3)慢性腎臓病意おける腎超音波所見の検討
① 慢性腎臓病における腎組織硬度の検討
 これまで、腎機能の評価として血清クレアチニンやイヌリンが測定されてきましたが、腎機能低下が生じる以前の腎実質障害の評価は困難でした。また慢性腎臓病の進行に伴って糸球体硬化や腎実質の線維化が起こりますが、これらの評価のためには腎生検が必須でした。
 我々は、近年開発されたVirtual touch quantificationという技術を用いて、腹部超音波下に腎高度測定を行っています。これにより非侵襲的な線維化の評価や、より早朝の腎障害を診断できるか検討しています。

② 慢性腎臓病の進行に伴う腎萎縮の検討
 慢性腎臓病が進行するにしたがって、腎萎縮をきたすことが知られています。
 さらに、加齢に伴って腎血流や腎実質の構造変化が起こることが分かっていますが、これらの変化の多くは主に腎皮質に関して検討されたものです。
 我々は、腹部超音波を用いて腎実質の変化をされに詳細に皮質・髄質それぞれ分けて測定し、その経時的変化と腎不全の進行との関連について検討しています。

 

HP作成担当者名
原田 賢一