木下大生さん(分子生物学)の研究がMBoC掲載決定

UPDATE : 2019-12-10

このたび、医学系研究科生命科学専攻博士後期3年生の木下大生君(生命科学科分子生物学初沢清隆教授のグループ)の研究論文が、米国細胞生物学会[the American Society of Cell Biology(ASCB)]の機関誌Molecular Biology of the Cell (MBoC)に掲載が決定しました。

概要は、以下をご覧ください。


 

1.研究課題名

Syntaxin 11 regulates the stimulus-dependent transport of Toll-like receptor 4 to the plasma membrane by cooperating with SNAP-23 in macrophages
(Syntaxin11はSNAP-23と協調して、マクロファージにおける刺激依存的なToll様受容体4の細胞膜輸送を制御する)

 

2.研究成果の要点

1)細胞内の物流システムを調節するタンパク質の一つSyntaxin 11 (“シンタキシン11”と読む.以下Stx11)が、自然免疫の重要なセンサーであるToll様受容体4(TLR4)の細胞外刺激による細胞表面への輸送を制御することを発見した.

2)細胞膜のTLR4はリポ多糖(LPS:別名はエンドトキシン)と結合すると内部に回収(エンドサイトーシス)される.回収されたTLR4と新規合成されたTLR4は、リサイクリングエンドソーム区画(ERC)と呼ばれる細胞内小器官を経て細胞膜へ運ばれること、また、Stx11の量を低下させた時、ERCからのTLR4輸送は抑制され分解されることが分かった.

3)Stx11は、同じ仲間のSNAP-23(スナップ23)と協調し、ERCから離れたTLR4を含む小胞と細胞膜との膜融合に働くと考えられる.過剰なLPS応答は、急性敗血症や多臓器不全を引き起こすことから、本研究から明らかになったStx11によるTLR4の細胞膜局在化機構は、創薬の新たな標的メカニズムになり得る.

 

3.研究概要

TLR4はグラム陰性菌のLPSを認識し、自然免疫系を活性化するために必須の受容体であり、細胞内の局在する場所で異なったシグナル応答を引き起こします。したがって、その局在化を制御する機構は重要ですが、詳細はよくわかっていません。

細胞内物流システムにおいて、SNARE (soluble N-ethylmaleimide sensitive factor attachment protein receptor) タンパク質は膜融合反応を担う因子です。私たちは、免疫細胞に広く発現し細胞膜に局在するSNAREタンパク質の一つStx11に着目し、そのマクロファージにおける機能を解析しました。

マクロファージでは、その機能を活性化するインターフェロン(IFN)-γやLPSの刺激によって、TLR4の細胞内部から細胞膜への輸送が亢進します。しかし、Stx11量を低下させた場合、顕著に阻害されました。このとき、TLR4は分解を担う小器官(ライソゾーム)へと輸送されました。また、小器官内の酸性化を抑制する薬剤バフィロマイシンA1(BafA1) 存在下では、ERCに蓄積されました。同様に、Stx11との相互作用が知られているSNAP-23(細胞膜局在SNAREタンパク質)の発現量を低下させた場合にもTLR4の輸送阻害が見られました。さらに、LPS刺激によって細胞膜上のSNAP-23の立体構造が変わること、そしてこの変化はStx11依存的に起こることがわかりました。

以上から、Stx11は、SNAP-23と協調してERCから細胞膜への刺激誘導性のTLR4輸送を制御すると考えられます(図)。

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図: LPS刺激に応答してエンドサイトーシスまたは新規合成されたTLR4はERCを経由して細胞膜へと輸送される.Stx11とSNAP-23はこの刺激誘導性のTLR4輸送における膜融合反応を担うと考えられる.

LPSの結合したTLR4は、炎症を惹起するシグナルを発します。細胞膜へのTLR4輸送は、この炎症反応を持続しさらに強めるため、感染による過剰のLPS刺激は、敗血症や多臓器不全を誘導し死に至る場合もあります。本研究から明らかになったTLR4の輸送機構は、これらの疾患の予防や病態の理解につながると考えられます。

4.掲載雑誌

掲載誌:米国細胞生物学会機関誌Molecular Biology of the Cell (in press)
論文タイトル:Syntaxin 11 regulates the stimulus-dependent transport of Toll-like receptor 4 to the plasma membrane by cooperating with SNAP-23 in macrophages
著者:Daiki Kinoshita, Chiye Sakurai, Maya Morita, Masashi Tsunematsu, Naohiro Hori, andKiyotaka Hatsuzawa
DOI番号:org/10.1091/mbc.E18-10-0653

 

5.研究に関する問い合わせ先

鳥取大学医学部生命科学科分子生物学分野
教授 初沢清隆(E-mail: hatsu@tottori-u.ac.jp)