現代の精神医学は、治療・研究の対象としてかなり広い範囲の課題を扱います。
20年程前と比べてみても、コアとなる統合失調症、気分障害、不安性障害、認知症、てんかん等に加えて、成人の発達障害や緩和ケア、高次脳機能障害、嗜癖等、精神科医が役割を求められる領域は拡がる一方です。
さらに、世界保健機構WHOが生命および健康の喪失を統合した指標として用いている障害調整生命年(Disability-adjusted life year)において、複数の精神疾患が上位にランクされるなど、精神的不調の治療やリカバリーの重要性は社会的に認められつつあります。
身体医学との最大の違いとして、精神医療では一人の患者さんの全体像を考える必要があることが挙げられます。精神の不調が生まれる原因には、身体医学の場合と同様、生物学的要因が強いものがある一方、心理的な働きがより重要な役割を果たす場合もあります。患者さんの置かれた社会状況も病状に影響するでしょう。
この様に、精神医療では一人の患者さんを巡る多様な課題に対するアプローチが必要になります。
ここで大切な点は、患者さんの状態ごとに、「先ず何をなすべきか」と考えることです。
統合失調症の患者さんの場合を例に挙げれば、急性期では主として陽性症状を軽減する薬物療法が、維持期では必要なリハビリテーションの選択・導入が、それぞれ優先すべき課題になります。
鳥取大学精神科では、実際の臨床場面での活きた経験と先輩・同僚からの親身な指導を通じて、若手医師が、診断・治療に関する先進的な方法や知識を体得し、患者さんの経過に合わせて必要時に最善の診療を実践できることを目標としています。
そのために、各人の個性を尊重し、自由に議論できる雰囲気の中で、下記に示すような特徴をもった卒後教育を行っています。意欲、志、倫理性をもち、倦むことなく地道な努力を続けられる新しい仲間が加わることを教室全体で歓迎します。
精神科医の仕事はとてもやりがいがあり、興味をもてる診療や研究のフィールドに出会えることでしょう。ともに切磋琢磨し、精神医学と精神医療を深めていきましょう。
研修の早い段階で様々な病態を経験することは、精神科医としての自立を促してくれます。
また、こうした経験は、後に専門領域を深める際にもとても大切です。
例を挙げると、難しい抑うつ状態の診療において、気分障害以外の統合失調症、発達障害、パーソナリティ障害、症状精神病、認知症を含む器質性精神障害で生じる抑うつ状態の経験は、今や診断・治療に不可欠です。
鳥取大学医学部附属病院とその関連病院では多様な精神疾患や障害の臨床経験が可能です。
また、当科は鳥取県西部地区の精神科輪番に参加し、地域医療にも貢献しています。
2つの理念・方法論は、対立するものではなく互いに補完し合う性質のものです。
両者の特性をよく理解した上で、「その時最も求められること」をプランし、実践する能力の育成を重視します。
例えば、詳細な病歴聴取、現症の把握、光トポグラフィー検査を組み合わせることによって、抑うつ状態の鑑別診断や治療法の選択の精度向上を図ることができます。
脳神経内科、脳神経小児科、脳神経外科の神経系を対象とする3科と当科で協力し、頭痛、てんかん、発達障害、高次脳機能障害等、互いに重なる領域の診療・研究を協働して行っています。
鳥取大学大学院臨床心理学専攻は全国で最初に医学部内に設置された臨床心理学の修士課程です。
この特性を活かし、当科では精神療法、認知行動療法、認知リハビリテーションなどの様々な技法について、それぞれ専門の臨床心理士から指導を受けています。
また、医学的な治療と心理社会的な治療を協働しながら行うことも日々実践しています。
精神医学と精神医療は、着実に進歩を遂げている脳科学や心理学から大きな影響を受けています。
当教室では、うつ病患者さんを対象とした特定臨床研究(炎症を抑制する作用が期待される生体内因性物質であるβヒドロキシ酪酸の体外投与)、母乳中の成分と母親の精神的健康状態の関連性および児の発達との関連性に関する研究、せん妄の簡易脳波計を用いた客観的評価法の確立に関する研究、ゲーム依存症など児童思春期における嗜癖行動に関する研究、うつ病や自閉症、PTSDモデル動物を用いた病態に関する基礎研究(病態生理に対するグリア細胞の関与に関するメカニズム)が活動しています。
希望者は、興味をもった研究グループに参加し、最新の理論・方法論に触れたり、直接、研究に従事することができます。