安田貴雄さん(外資系製薬会社勤務、11期生)

2022年4月実施

とりりんインタビュー2

〇生命科学科卒業後から現在のポジションまでのご経歴をお教えください。

神戸大学大学院医学系研究科で修士・博士課程を取得し、東北大学でポスドク、神戸大学大学院で助教を経て、現在は外資系製薬企業で働いています。

 

 

〇現在、どのようなお仕事/ご研究をなさってますか(答えられる範囲で)

現在は、外資系製薬企業でメディカルサイエンスリエゾン(MSL)という仕事をしています。MSLとは、「自社医薬品の科学的価値を最適化する」ということを目的に様々なメディカル活動を実施しています。自社医薬品の科学的・臨床的な価値を薬剤特性や臨床試験の結果だけではなく、実臨床におけるエビデンス、専門医の先生方の評価なども併せて先生方ならびに社内にお伝えし、薬の価値を高める活動をしています。

臨床開発職は合成された新規薬剤を用いて臨床試験に参加して頂ける病院、患者さんに疾病に対する効果を評価していただき、新規薬剤の有効性・安全性を評価しています。MSLの仕事は臨床開発職の次のステップとして、臨床試験で得られた有効性・安全性データを基に、新規薬剤の承認前から専門医の先生方とディスカッションすることから始まります。また、承認/販売以降に実臨床における薬剤の価値や科学的な価値を学会情報や専門医からの意見、論文情報などから収集・解析し、社内へフィードバックすると共に新規薬剤を使用する医師に紹介し、自社医薬品の価値を提供し、高める活動を実施しています。臨床開発職が臨床試験を担当し、MSLは上市/承認直前から上市以降を担当します。

 

 

〇なぜ今の職業を選んだのですか?仕事のやりがいは何ですか?

大学生~大学院~ポスドク時代はアカデミアでキャリア形成を考え、基礎から臨床への応用を目指して日々研究に邁進していましたが、研究成果の価値をできるだけ多くの先生方、臨床医に伝えたい気持ちはあるものの、基礎研究者からの発信では臨床医や多くの人に伝わっていない状況にモヤモヤしていました。そこでこれまでの基礎研究や臨床研究など幅広く勉強し培ってきたものを活かし、難しく思える情報をできるだけ簡略化してお伝えできる仕事に魅力を感じ、機会があれば現在の仕事をやってみようと思っていました。その機会が思ったより早く訪れ、実際に話を聞くと面白そうでしたので、現在の仕事を選択しました。実際にMSLとして活動していく中で、研究職時代に培った能力(情報収集方法・学術情報の解釈・プレゼンテーション・研究の大変さの理解)は多いに役立っており、情報提供後に臨床医からの「非常に勉強になった」の一言が何よりもやりがいに感じています。

 

 

〇将来のために在学生に伝えたいことはありますか?

皆さんの将来の道筋を一つに絞る必要はありません。経験上、長い期間、アカデミアに進んで年齢を重ねたからと言って、製薬企業の門が狭くなるわけではありません。その時その時で自分が一生懸命やってきた中で自分の得意とすることやこういうことをやってみたいということから、次のステップについてそのタイミングで考えたら良いと思います。最終ゴールを決めなくても、色んなステップを踏んで良いと思います。

 

 

〇なぜ生命科学科に入学したのですか?

高校2年生までは医師になりたかったですが、恥ずかしながら、人の血を見るのが苦手でした。そこで、将来のことを改めて考え直し、生物や化学が好きなこと、その知識を人に活かせたらと考え、医師を目指した背景があったので、当時、医学部の中で生命科学/ライフサイエンスの基礎から応用まで学べるというアピールをしていた鳥取大学医学部生命科学科を見つけ、ここしかないと思い、門をたたいた形です。

 

 

〇在学中、生命科学科(院含む)はどのような雰囲気でしたか?

新しい学科で、先生方の「研究が好きだ」という気持ちを感じました。単なる研究で終わるのではなく、その結果をどう活かしていくのか一緒に考え、研究を楽しくしていきたいという気持ちを持ち上げてくれる形で非常に良い経験ができました。

 

 

〇大学時代にやっておいて良かったことや、やっておけば良かったことを教えてください。

時間がたくさんありますので、色んな経験を積めたことが良かったと思います。サークル、アルバイト、1か月間の語学留学など様々な人との出会い、経験がその後に繋がりました。ただ、たくさんの失敗も経験しましたが、失敗から学ぶことの方が大きいと後になって思っています。皆さんも自身の成長につながることがあれば、失敗を恐れず色んなことを経験していただきたいです。

 

 

〇それぞれの節目で異動する時は何を指標に決めましたか?

異動した場所で、今できる最大限のことをすると、足りないところやもっと学びたいと思うところ、自分が本当にしたいことが出てきて、その時に次のステップに進もうと思います。そして、今いる環境で良いのか、足りないところを満たすにはどこが良いのか吟味し、情報収集をした結果、異動することを判断しています。

 

 

〇アカデミアと企業の違いはどのようなところでしょうか?

アカデミアは朝から晩まで研究をしているのが楽しみでもあり、大変なところでもあります。普段は研究室など狭い環境で黙々と研究をしていますが、学会に行くと急に世界/視野が広がるというところも面白味だと思います。企業は広い世界で様々な人とコミュニケーションをとらないといけないので、個々に合わせて相手に伝わる(難しいことをかみ砕いて)説明をしないといけないことに戸惑いもありましたが、様々な人が多様な考え方を持っているということを知れて良かったです。