鳥取大学医学部 器官制御外科学講座 呼吸器・乳腺内分泌外科学分野

ロボット支援手術

手術支援ロボット ダビンチ 内視鏡下手術同等に体にやさしく、開腹手術のような視覚情報と執刀。ロボット支援ならではの正確さと速さを併せて持った手術です。

支援手術ロボットとは

低侵襲で安全な内視鏡手術を可能にする内視鏡手術に使用されるロボットです。
呼吸器外科領域で使用される手術支援ロボットは長い間、ダビンチのみでしたが、2023年にはサロアが2024年にはヒノトリが国内で使用できるようになりました。当院ではダビンチとヒノトリを用いロボット支援手術を実施しています。

ダビンチについて

万能の天才"レオナルド・ダビンチにちなんでつけられました。
その歴史はいまだ浅く、米国で1980年代後半、戦場で傷ついた兵士を米国本土や空母から医師が遠隔操作で手術するという発想から開発が進められました。ダビンチ(da Vinci)は1997年に登場し、米国ではFDAが2000年7月に承認しました。一方、日本では厚生労働省が薬事・食品衛生審議会で承認して臨床使用の許可が出たのは2009年11月でした。
その後、日本では2012年4月に前立腺癌に対するロボット支援手術が保険適用され、ロボット支援手術は急速に普及してきています。
呼吸器外科領域では2018年より保険適応されており肺葉切除術、肺区域切除術、縦隔腫瘍摘除術、拡大胸腺摘除術に実施可能です。

ヒノトリについて

名前の由来は、手塚治虫氏の作品『火の鳥』からです。 国産初の手術支援ロボットとして2015年より開発がスタートし、2020年に前立腺癌に対しヒノトリを用いた世界初のロボット支援手術が国内で実施されました。その後、泌尿器科、婦人科、消化器外科領域で数多くの手術術式が保険適応になりました。呼吸器外科領域では2024年4月に薬事承認され、6月に保険適応となりました。ダビンチと同様の術式:肺葉切除術、肺区域切除術、縦隔腫瘍摘除術、拡大胸腺摘除術に実施が可能です。 当院では2024年12月に中四国地方で初のhinotoriを使用したロボット支援手術を実施しました。

ダビンチ

・ダビンチ

ヒノトリ

・ヒノトリ

 

 

低侵襲手術とは

開胸手術とロボット手術の手術後の傷の大きさを比較する写真

患者様のQOL(quality of life)=生活の質を尊重した、体の負担を軽くする手術へ

手術の際、切る部分が大きくなればなるほど、痛みを伴うとともに痕が残りやすく、また普段の生活に戻るまでに時間がかかります。さらに、患部によっては、切ることで大事な機能が失われることがあります。例えば肺がんの切開手術(開胸手術)は、胸部の筋肉を切開するため呼吸動作や日常生活における筋力低下を伴う場合があります。また、肺を切除する量が大きくなれば、その分、手術後の呼吸機能が低下します。このように、手術によって患者さまの体へ負担をもたらす行為を「侵襲(しんしゅう)」といいます。
できるだけ体を傷つけずに手術をすることで、体への負担を最小限にし、また合併症のリスクを少なくし、手術後の回復を早めることが「低侵襲(ていしんしゅう)」です。
そんな患者様のQOL(quality of life=生活の質)を尊重した手術は「低侵襲(ていしんしゅう)手術」と呼ばれており、最近ではロボット手術、胸腔鏡手術、区域切除術などがこれに該当します。

 

当院での手術支援ロボットの導入

本院では、その先駆的な役割を果たす手術支援ロボット(ダビンチS)を、2010年8月に山陰で初めて導入し、2011年2月より「低侵襲外科センター」を設置し、診療科の垣根を越えて、その実現に向けて取り組んできました。
当院および当科では国内のロボット支援手術の先陣を切っており、国内で初めてダビンチSを使って胸腺腫を併発した重症筋無力症患者の胸腺摘出手術に成功いたしました。また、当科ではその後も常に最新のロボットを使用しており、2013年よりダビンチSiを使用、現在ではダビンチX, Xi(2018年より使用)とヒノトリ(2024年より使用)の3種類のロボットで呼吸器外科手術を実施しています。
手術の選択肢が増えれば、患者様にとってたいへん有益です。鳥取からこれからも将来の医療の道を切り開きたいと思っています。


 

ダビンチXiの特徴

画像(3D-HD vision)の改善
(720p → 1080i)

術野向上による確実な手術を実現

コンソールエルゴノミクス設定

操作性の向上による確実な手術を実現

デュアル・コンソール

術者2名での手術操作(複雑な手術操作が可能)
医学教育・研修医教育・医師教育に適する

安全機能の向上

左右の鉗子と連動した脚(電機メス)操作

スキルシミュレーター(optional)

術者教育の充実化

関係する写真

リストが備わった鉗子の動き

縫合の様子

 

当科のロボット手術の特徴

手術実績
800
手術施行認定資格者(院内)※1
ダビンチ5名 / ヒノトリ4
プロクター(手術指導医)資格者※2
ダビンチ3名 / ヒノトリ2

ロボット支援手術施行認定資格とは(Certificate)※1

手術支援ロボットを操作できるのは、ロボットの製造元で専門のトレーニングを積み認定資格(da Vinci Certificate)を取得し、ロボット支援手術見学およびプロクター(手術指導医)立ち合いのもとでの手術を経てから、はじめて主たる術者として手術に臨むことができます。

呼吸器外科ロボット支援手術プロクター認定資格とは※2

プロクター(手術指導医)資格は、主たる術者として40例以上執刀した経験があり、呼吸器外科ロボット支援手術に関する論文発表または発表、さらにプロクター講習会を受講したものに授与されます。

 

この治療の対象となる疾患

肺癌に対するロボット支援手術

適応は大きさが3cmくらいまでのリンパ節転移のない肺癌です。4アームによる手術を行います。自由自在に動くロボット鉗子を用いて、手振れのない正確な操作が可能です。血管剥離、リンパ節郭清、そして気管支形成に大きな威力を発揮します。

縦隔腫瘍に対するロボット支援手術

縦隔腫瘍は肺癌手術同様にロボット手術のよい適応です。炭酸ガスを胸腔内に送気しながら、片側胸壁アプローチ(3アーム、1アシスト)、もしくは剣状突起下アプローチ(4アーム、1アシスト)で手術を行います。特に胸腺腫を代表とした前縦隔腫瘍はアプローチの難しい部位に存在しているため、通常の胸腔鏡手術よりもロボット手術の方が容易に手術可能な場合もあります。後縦隔の腫瘍も容易にできます。これまで胸骨正中切開が必要であった腫瘍に対しても胸骨を切開せずにロボット手術で切除可能なケースが増えています。

重症筋無力症に対するロボット支援手術

重症筋無力症に対するロボット支援胸腔鏡下拡大胸腺摘出術です。縦隔腫瘍と同じく、炭酸ガスを胸腔内に送気しながら、片側胸壁アプローチ(3アーム、1アシストもしくは剣状突起下アプローチ(4アーム、1アシスト))で手術を行います。胸腔鏡手術と比較しても、小さな傷、少ない痛み、早い回復が期待されています。最近ではロボット支援手術をした場合は重症筋無力症の寛解率がよいというデータもあり、今後の検討が期待されています。

 

メッセージ

手術支援ロボットの本体はサージョンコンソール、ペイシャントカート、ビジョンカートの3つの部分から構成され、外科医はサージョンコンソールに座り、マスタースレーブ式(主人と奴隷方式)の遠隔操作で手術を行います。
その特徴は①10倍まで拡大視可能な3次元視野、②7つの自由度を持つ多関節鉗子、③モーションスケーリング機能による手振れ防止にあり、これらの機能により、精緻な手術操作が可能で従来の胸腔鏡手術の弱点を補い,狭い領域で複雑な手術手技を正確かつ容易にしてくれます。

呼吸器外科領域のロボット手術は現在までのところ安全に導入され有用な結果が示されてきています。

2018年度から肺がんと縦隔腫瘍に対して保険適応となり、リンパ節郭清、肺や気管支の縫合操作、胸腺手術、大きな縦隔腫瘍などで効果が発揮されてきました。
ロボット手術は胸腔鏡手術の低侵襲性と開胸手術の操作性を兼ね備えた魅力を有すると考えられ、今後の発展が期待されています。

 

 

手術支援ロボットの仕組み

術中風景 手術室レイアウト

サージョンコンソール(操作部)

手術支援ロボットの「司令塔」3D立体視のディスプレイを見ながら、手元のレバーを操作します。

サージェントコンソール(操作部)

ペイシェントカート(ロボット部)

ペイシェントカート本体は、3本の鉗子を取り付けるアームとセンターの内視鏡カメラを取り付けるアームからなります。

ペイシェントカート

ビジョンカート(モニター部)

ビジョンカートには術中に画質を最適にするための処理装置として、カメラコントロールユニット(CCU)、フォーカスコントローラ、イルミネータが収納されています。モニター画面を通して、助手などが手術の進行を確認します。

ビジョン

 

当科の実績

当科で行ったロボット支援手術による手術件数の実績です。
年度 術式 件数 合計

2010年度
(平成22年度)

胸腺摘出術 3件 8件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 5件

2011年度
(平成23年度)

胸腺摘出術 8件 18件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 10件

2012年度
(平成24年度)

胸腺摘出術 4件 10件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 5件
後縦隔腫瘍摘出術 1件

2013年度
(平成25年度)

胸腺摘出術 3件 14件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 7件
後縦隔腫瘍摘出術 4件

2014年度
(平成26年度)

胸腺摘出術 5件 17件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 10件
後縦隔腫瘍摘出術 2件

2015年度
(平成27年度)

胸腺摘出術 8件 14件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 6件
後縦隔腫瘍摘出術 0件

2016年度
(平成28年度)

胸腺摘出術 4件 7件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 2件
後縦隔腫瘍摘出術 1件

2017年
(平成29年度)

胸腺摘出術 4件 5件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 0件
後縦隔腫瘍摘出術 1件

2018年度
(平成30年度)

胸腺摘出術 16件 51件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 33件
後縦隔腫瘍摘出術 2件

2019年度
(令和元年度)

胸腺摘出術 10件 56件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 42件
後縦隔腫瘍摘出術 4件

2020年度
(令和2年度)

胸腺摘出術 14件 104件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 90件
後縦隔腫瘍摘出術 0件

2021年度
(令和3年度)

胸腺摘出術 11件 101件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 89件
後縦隔腫瘍摘出術 1件

2022年度
(令和4年度)

胸腺摘出術 13件 124件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 108件
後縦隔腫瘍摘出術 3件

2023年度
(令和5年度)

胸腺摘出術 12件 140件
肺癌に対する肺葉(区域)切除術 119件
後縦隔腫瘍摘出術 9件

2024年度
(令和6年度)

肺葉・区域切除 129件 138件
縦隔疾患 9件

合 計

肺葉・区域切除 655件 807件
縦隔疾患 152件

2024年(令和6年) 12月31日現在

 

Q & A

Q. 「手術支援ロボット」での手術を受けるにはどうしたらよいでしょうか。

A.呼吸器外科の外来を受診して下さい。その際紹介状があるほうが便利です。手術適応の判断は外来担当医が行います。

Q. 費用はどのくらいかかるでしょうか。

A.手術費用に関して保険適応となりましたので、担当医へご相談ください。また、お問い合わせの内容によっては当日お答えできない場合もございますので、何卒ご了承願います。

 

見学をご希望される方へ

手術の見学に関しましては、医療サービス課へお問い合わせ下さい。
くわしくは低侵襲外科センターのホームページ、手術見学のページをご覧になり申込書をご提出ください。 低侵襲外科センター
低侵襲外科センター da Vinci手術 症例見学のご案内