久留教授挨拶

再生医療学教室の特色と活動

1) 教室メンバー
再生医療学のスタッフは久留一郎教授、白吉安昭准教授、池田信人助教、吉田明雄特任教授、山本康孝特任准教授、三明淳一朗助教、李ペイリ特任助教、野津智美技術補佐員、井上裕美子技術補佐員、小林好美技術補佐員、川根律子事務補佐員、廣田裕プロジェクト研究員により構成されておりまます。所属学生は大学院生博士後期課程ならびに博士過程(桑原、Utami、森川、鈴木、坂田(医専)、遠藤(医専)、長谷川、松上、近藤(医専))、研究生(三島)、大学院博士前期課程(原田、一ノ瀬、小野瀬、野村)、生命科学科4年生(十川、吉村)です。

2) 目的と理念
私たちの教室の研究目的は老化や疾病により廃絶した生体の機能を再生するために、基礎研究を基盤として臨床現場に応用できる実践的な再生医療を開発し、これを医療の中で実践することであります。また、教育目的は医科学を再生医療へとトンランスレーションできる能力を持つ医学部学生ならびに大学院生を育成することにあります。これらの目的の達成には科学と医学を融合することが必要です。ヒポクラテスの時代から医学は常に自然哲学と自然科学と共にありながら、科学との大きな違いは医学がその対象を人間科学に限定している点です。再生医療は科学と医学の融合が特に重要な領域でありますので、私たちの教室の理念は幹細胞生物学を機軸として人の健康維持を目的として研究を行っています。

3)教室のあゆみ
私たちの当初の活動は、ES細胞から心筋への分化機構やイオンチャンネル蛋白や収縮蛋白の細胞内成熟機構の心臓疾患への応用に関する基礎研究的な流れと、動脈硬化性疾患の基盤病態の解明を基にした実際的な心臓血管再生医療を目差す臨床orientedな流れの2つから始まりました。その後、幹細胞の未分化性の維持機構に関する幹細胞生物学的な研究が加わることで研究に幅が出来、これに伴って教室の人数も増加してきました。ヒトES細胞を用いた研究に昨年からヒトiPS細胞特に疾患iPS細胞を用いた研究が始まりました。教室のメンバーは医療人と生命科学の研究者で構成されており、立場はそれぞれ生物学であり、医学でありますが、共通のゴールを人間科学、即ち心臓血管病の克服に置くことで科学と医学の融合が促進され、本教室の目標が達成できると考えて、日夜研鑽を積んでおります。そして本年10月から附属病院に設置される附属病院の次世代高度医療実践センターの再生医療で再生医療の臨床試験を行いますので、ここに科学と医学の融合した医療が始まることになります。再生医療学分野はまさにそれを牽引しゆくことになるのです。

4)再生医療学教室の研究各論
現在の研究はヒトならびにマウスES細胞からのペースメーカ細胞への分化に関する研究、患者由来疾患iPS細胞作製と特性解析、ES細胞の未分化性維持機能に関する研究、成体幹細胞を用いた再生研究、に加えて内分泌機能研究や生活習慣病の病態解明に関する研究を行っています。本年は疾患を持った患者さんの体細胞から疾患iPS細胞を作成する研究をスタートしました。
心臓機能再生研究の主なプロジェクトは1)機能性蛋白の品質管理機構に関する研究、2)蛋白分解プロセスの分子機構、3)蛋白を安定化する新規化合物に関する研究を通して心臓リモデリングにより障害された機能を再生できる臨床の場で使用可能な治療法の開発を目指しています。幹細胞研究の主なプロジェクトは(1)ES細胞や胚性癌細胞の未分化性維持機構の解明、(2)ES細胞の心筋分化能の分子基盤について研究を進めています。具体的には胚性癌細胞が分泌する未分化性維持因子の分離生成を行っています。また徐脈性不整脈の再生医療を目指して、ES細胞由来のペースメーカ細胞の可視化および分取方法の開発を試み、生物学的ペースメーカの開発を目指しています。さらに本年から疾患iPS細胞の樹立に成功しています。成体幹細胞研究の主なプロジェクトは、附属病院の次世代高度医療実践センター(本年10月より稼働)と連携しながら、脂肪由来幹細胞の臨床応用に関する基礎研究と臨床試験を行っています。内分泌機能研究は、ペンドリンを細胞指標とした万能細胞からの甲状腺細胞の採取を行うことで甲状腺の再生医療や抗ペンドリン抗体の発現する疾患の検索を行い新しい診断法の確立を目差しています。新たにメタボリック症候群モデル動物を作成し、生活習慣病治療薬の効果を検討しています。今年度は業績の項目にあるようにAHA系ジャーナルに情報を発信出来ました。

5)制御再建医学を始め学内との連携
協力講座である制御再建医学とは大学院生を交換して基礎・臨床研究を共同で行っています。不整脈グループとはイオンチャンネルの機能再生や生物学的ペースメーカの開発研究を共同で行っています。

6)社会人大学院生の教育
病院の医師および学外研究施設の研究者が社会人大学院生として在籍しています。病院での臨床研究特にコホート研究や研究所での研究を私たちの教室の指導の下で行い、e-learningシステムによる遠隔地用教育を使いながら、学位の取得を目指しています。

7)連携をとっている教室や施設など
私たちは国内外の施設と協力して連携大学院を作っています。ES細胞からの心筋分化に関する研究、循環器疾患と単一遺伝子多型との関連研究、AMPデアミナーゼノックアウトマウス解析をテーマにして国立循環器病センター・研究所・バイオサイエンス部(森崎隆幸部長)、アデノシンと心疾患との関連研究をテーマとして国立循環器病センター・心臓内科(北風政史部長)と共同で研究を進めております。また後述いたします「生物学的ペースメーカの作成」研究を特別教育研究経費により遂行し、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校EW. Holmes教授やノースウェスタンAndrew Wasserstrom教授、コロラド大学のRichard Johnson教授ならびにジョンポプキンス大学のGF. Tomaselie教授に外部評価を頂いております。

8)今後の展望
私たちの教室のもう一つの特徴は積極的にアジアの留学生に大学院に入っていただいていることです。アジアの精鋭と力を合わせることで新しいテーマに兆戦しています。特にインドネシアのデュポネゴロ大学との間に大学間協定が締結され、若いPhDコースの学生が今後増加すると思われます。

Update : 2014-09-26