研究室紹介

雑誌 『血圧2007』より

研究室紹介(雑誌 血圧2007年より) 

鳥取大学大学院医学系研究科 再生医療学部門

2003年4月1日より鳥取大学大学院医学系研究科機能再生医科学専攻 遺伝子再生医療学講座 再生医療学部門が本大学に新設されました。本大学院の教育課程は博士前期過程(修士課程)2年と博士後期過程(博士課程)3年で構成されています。「機能再生医科学」専攻には、「生体機能医工学」講座と「遺伝子再生医療学」講座の二つからなり、それぞれに二つの基幹部門と一つの協力部門が配置されており、「遺伝子再生医療学講座」の一部門が再生医療学部門であります。循環器内科出身の小生が初代教授に就任したため再生医療学部門は循環器疾患の再生医学・再生医療を教育・研究・診療の柱としいます。現在、心筋分化とイオンチャンネル研究を専門とする小生、幹細胞生物学の研究を専門とする白吉安昭助教授、動脈硬化の基礎と臨床を専門とする山本康孝助教と内分泌の研究を専門とする吉田明雄特任教授が学生の指導に当たっております。教員ポストとして教授1、特任教授1、助教授1、助教1、流動助教1、技術補佐員2人を有し、これに大学院生と卒業研究生が加わります。また、再生医療部門の協力講座として制御再建医学部門(循環器内科)が入り再生医療の臨床展開に協力を頂いています。

1)教室の理念

本大学院は老化や疾病により廃絶した生体の機能を再生するために基礎研究を基盤として臨床現場に応用できる実践的な遺伝子再生医療に展開してゆくことを目的として作られているプロジェクトオリエントな独立専攻型大学院であります。現在、循環器内科を専門とする小生が再生医療学部門を担当することとなったため、再生医療学部門の教育・研究・臨床の理念は循環器疾患に関する遺伝子再生医学の研究を臨床へ翻訳し再生医療を開発そして鳥取大学医学部附属病院で実践する、同時に再生医療へトンランスレーションできる能力を持つ大学院生を育成することであり、その根底には基礎と臨床のフュージョン(融合)という概念があります。これまでの小生の研究史から疾病の発症機序とその治療法の理解の為には、蛋白の機能とその生理機能の関連を遺伝子レベルで理解し、さらにモデル動物で確認することで個体全体の機能を統合的に考えてゆくフィジオーム研究(生理機能の重要性を認識し、ゲノム情報を基に蛋白分子レベルで生理機能を考えていく流れ)が重要であります。この考えに新しいテクノロジーである幹細胞生物学を融合することでヒトの機能再生を考えていきます。つまり疾病による心臓や血管の細胞の喪失には幹細胞を用いた再生医療を、他方で疾病による心臓や血管の細胞機能障害というリモデリングには機能性蛋白をレスキューする機能再生治療を用いてこの両輪で再生医療を実現してゆきます。

2)研究グループ紹介と研究内容

現在の研究グループは小生がチームリーダーを務める心臓機能再生グループ、白吉安昭助教授がチームリーダーを務めるES細胞グループ、山本康孝助手がチームリーダーを務める動脈硬化・血管再生研究グループに加えて吉田特任教授が担当する内分泌機能研究グループがあります。

心臓機能再生グループの主な研究プロジェクトは1)機能性蛋白の品質管理機構に関する研究、2)蛋白分解プロセスの分子機構、3)蛋白を安定化する新規化合物に関する研究を通して心臓リモデリングにより障害された機能を再生できる臨床の場で使用可能な治療法の開発を目指しています。現在イオンチャンネルと癌抑制遺伝子を同時にユビキチン化する分子シャペロンに関連したリガーゼを見出し、そのチャンネル蛋白に及ぼす効果とチャンネル病の機能再生への応用を検討中であり、その一部は既に特許出願中です。ES研究グループの主な研究プロジェクトはES細胞の基本的な性質、(1)未分化性維持機構と自己複製過程、(2)心筋化能の分子基盤について研究を進めています。特にES細胞の多能性維持機構の分子生物学的解析からES 細胞分化抑制遺伝子・未分化性維持因子のクローニングを行っている。さらにDNAマイクロアレーにより心筋への分化に重要な複数の候補遺伝子のクローニングを行いES細胞由来心筋細胞採取の効率化するために中胚葉から心筋への分化制御機構の解明とES細胞由来生物学的ペースメーカー細胞の作成等を用いた次世代の再生医療研究を行っています。またNotch4のES細胞の分化に対する効果を調べるために、Cre-loxP系を用いたコンディショナルなNotch4の発現系を、ES細胞を用いて樹立しました。ES細胞でNotch4を強制発現するとES細胞の未分化性が維持され、分化が抑制されることがわかりました。胚様体形成、単層培養系、PA6細胞を用いた神経分化誘導系のどの実験系でも、分化抑制が起こり、Notch4シグナルの恒常的な活性化は、ES細胞の分化を抑制することが明らかとなっています。現在、各種マーカーを用いて、分化抑制の実体を検討中です。動脈硬化・血管再生研究グループの主な研究プロジェクトは、附属病院での臨床展開として、1)自己骨髄・末梢血細胞移植による重症下肢虚血性疾患に対する血管再生治療、2)動脈硬化診療の重要性の啓蒙活動、3)動脈硬化性疾患の早期検出マーカーの検討などを展開しています。研究では、現在の自己細胞を用いた血管再生治療をより安全に有効に行う方法の開発に取り組み、特に内皮前駆細胞に血管新生に関与する遺伝子を導入する細胞治療と遺伝子治療のハイブリッド治療が単独治療に比較して効率よく血管新生が可能であることを見つけています。これにより各施設が独自に行っている細胞移植の方法に一定の方向性をつけたいと考えています。また、将来本邦でも試みられる遺伝子治療とのコンビネーションにより、さらに効果的な治療法の開発を目指しているところです。

3)関連施設など

協力講座であり私の出身母体である循環器内科(病態情報内科学)とは大学院生を交換して基礎・臨床研究、さらには附属病院での血管再生医療を共同で行っています。特に不整脈グループとはイオンチャンネルの機能再生やバイオペースメーカーの開発研究で、高血圧・心不全グループとは高尿酸血症と循環器疾患との関連性を特にAMPデアミナーゼの観点で共同研究を行っています。さらに、私たちは国内外の施設と協力して連携大学院を作っています。ES細胞からの心筋分化に関する研究、循環器疾患と単一遺伝子多型との関連研究、AMPデアミナーゼノックアウトマウス解析をテーマにして国立循環器病センター・研究所・バイオサイエンス部(森崎隆幸客員教授)、アデノシンと心疾患との関連研究をテーマとして国立循環器病センター・心臓内科(北風政史客員教授)に大学院生を送っています。また米国カリフォルニア大学サンディエゴ校(EW. Holmes医学部長)やノースウェスタン大学(楢崎俊夫教授)に連携施設に入っていただきAMPデアミナーゼノックアウトマウスの機能解析やイオンチャンネルの再生に関する研究を行っています。

4)今後の展望

私たちの研究室の使命は基礎研究と臨床との橋渡し研究を促進し、臨床の場で実践できる新しい機能再生医療の開発とそれを担う人材を作ることにあります。そのためには国内外の第一線機関と連携することで人の交流を行い教室の活性化を図ってゆきます。

Update : 2010-04-01