研究内容

1)  教室メンバー

再生医療学の現在(2019年)のスタッフは久留一郎教授、白吉安昭准教授、經遠智一助教、吉田明雄特任教授、李 佩俐学術助教、野津智プロジェクト研究員、川根律子事務補佐員、荻野和秀特任教授により構成されておりまます。所属学生は大学院生博士後期課程並びに博士課程(Fikri Taufiq、湊(医専), 森田(医専)、堀江(医専))、三島(研究生)、大学院博士前期課程(宮城、渡邊、足立、大川、林、脇水)、生命科学科4年生(今川、重永)。

 

2)  目的

私たちの教室は先天的リスクのみならず老化や疾病等の後天的リスクにより障害された体の機能を再生することを目的に、基礎研究から臨床現場に応用できる再生医療を開発し、これを医療の中で実践し、高度医療を目指す橋渡し研究をめざしています。教育面では医科学を再生医療へと橋渡しできる能力を持つ医学部学生ならびに大学院生を育成することにあります。また、橋渡し研究のもう一つの出口である大学発特許取得とその知的財産を用いたビジネスへの参入に関して、私たちも幹細胞を用いた創薬に資する分化細胞の開発と特許化を積極的に行っています。これらの橋渡し研究を達成するには医学とその学際領域との融合が必要です。当教室は幹細胞生物学を機軸として知の融合を目指した学際研究を行っています。そこで教育・研究・社会貢献のアピールポイントとして以下にまとめました。

①教育:学部学生の時から卒業研究を通して博士前期・後期課程へとシームレスに繋ぐ大学院教育ならびに大学間協定による海外留学生の研究指導システムの構築と実践

②研究:ヒトiPS細胞由来のペースメーカ細胞と刺激伝導系細胞と作業心筋の選別採取の技術化に関する国際特許化と関連特許出願、脂肪幹細胞を中心とした成体幹細胞と細胞シート技術を用いた臓器の再生研究、尿酸輸送体とイオンチャネルとの機能相関を利用した創薬研究

③社会貢献:日本医療評価機構のガイドライン作成法を用いた「高尿酸血症・痛風の治療ガイドライン第3版」の作成委員長として我が国の高尿酸血症・痛風の治療の改革に貢献

 

3)再生医療学教室の研究各論

現在の私たちはヒト多能性幹細胞由来のペースメーカ細胞と作業心筋の選別採取の技術化に関する研究、脂肪幹細胞を中心とした成体幹細胞を用いた心臓の再生研究、イオンチャネルの翻訳後修飾機構の研究に加えて核酸代謝学研究を行っています。

 

【人工知能を用いたヒト多能性幹細胞を用いた生物学的ペースメーカの作成】ヒトES/iPS細胞の心筋分化能の分子基盤について研究を進めています。具体的には徐脈性不整脈の再生医療を出口として、ヒトES/iPS細胞由来のペースメーカ細胞の可視化および分取方法の開発を試み、生物学的ペースメーカの開発を目指しています。さらにゲノム編集を用いてヒトES/iPS細胞から特殊心筋と作業心筋の同時再生に関する研究や創薬研究に資すヒト由来心筋の樹立と応用を探索しております。現在作成している生物学的ペースメーカ細胞は遺伝子操作を行っており、人の移殖目的には使用できないという欠点があります。そこでニューラルネットワークを用いた機械学習により細胞の白黒画像からヒトiPS細胞由来ペースメーカ細胞を選別するアルゴリズムを開発して、遺伝子操作を用いることなく洞結節細胞を選別採取する技術を構築しようとしています。

 

【成体幹細胞研究】附属病院の臨床教室と連携しながら、脂肪由来幹細胞の臨床応用に関する基礎研究の実践と臨床研究に向けた準備を行っています。脂肪幹細胞の血管新生を促進する分子機構を解明する為に緑色蛍光タンパク遺伝子/ルシフェラーゼ遺伝子を搭載したトランスジェーニックラットを作製し脂肪幹細胞から細胞シートを作製し、RNA sequence法を用いて移植後に特異的の発現する遺伝子を探索しています。

 

【核酸代謝とイオンチャネル蛋白質の翻訳後修飾】

高尿酸血症が心房細動のリスクであることを我々の研究室では示してきましたが、その分子基盤を明らかにする研究を行っています。可溶性尿酸が心房筋細胞内に有機アニオン輸送体の一種である尿酸輸送体を介して取り込まれると、活性酸素種が発生し、Akt-HSF1-Hsp70 Pathwayを介してイオンチャネル蛋白質の翻訳後修飾が行われます。特に心房特異的なKv1.5チャネル蛋白質が増加し不応期の短縮に繋がり、心房細動の不整脈基質の形成に関与すると考えています。

 

【イオンチャネル研究と自然免疫】

尿酸塩結晶がマクロファージの自然免疫であるNLRP3インフラマソームを活性化することは知られていますが、その分子機構は明らかではありません。特に細胞内K濃度の変化が重要と言われていますが、その実態は不明です。我々はマクロファージに発現するある種のKチャネルの活性化がNLRP3インフラマソームの活性化に重要であることを明らかにしました。この機構を制御することで新たな炎症に対しての治療法の確立を目指しています。。

 

4)制御再建医学・心臓血管外科・形成外科・麻酔との連携研究

制御再建医学とはこれまで通り、循環器疾患に関する研究を共同で行っております。麻酔科、形成外科、心臓血管外科から、大学院生を送って頂き、心臓の一酸化窒素合成酵素の虚血再灌流障害に及ぼす役割を解明する基礎研究や脂肪幹細胞を用いた心筋梗塞並びに下肢虚血に対する血管新生に関する研究を行い成果を発表しつつあります。

 

5)社会人大学院生の教育

学外研究施設の研究者が研究生や社会人大学院生として在籍しています。忙しい日常業務の後に時間を作って実験を行い、またe-learningシステムによる遠隔地用教育を使いながら、学位の取得を目指しています。

 

6)連携をとっている教室や施設など

私たちは国内外の施設と協力して連携大学院を作っています。金沢医科大学の生理学第二教室(倉田康孝教授)との間で積極的に共同研究をしています。私たちの教室の特徴は積極的にアジアの留学生に大学院に入っていただいていることです。アジアの精鋭と力を合わせることで新しいテーマに挑戦しています。大学間協定が締結されているインドネシアのデュポネゴロ大学よりの大学院生が順調に論文を完成させつつあります。また、米国カリフォルニア大学サンディエゴ校EW. Holmes教授やコロラド大学のRichard Johnson教授と連携した研究を行っています。本大学院出身の桑原政成先生の留学先であるコロラド大学から虎の門病院に帰国し、共同研究の成果が続いております。

Update : 2020-03-13