鳥取大学医学部

■各分野の紹介■
生命科学科の各分野研究紹介です。
●分野紹介

分子生物学分野 

我々が普通に生活するうえでも、役割の異なる臓器や組織の細胞では、異なる遺伝子のセットからタンパク質を作ることで、それぞれの臓器が役割を果たせるようになっています。このバランスが崩れると様々な疾患につながります。

(1) 遺伝子が働く様子を追いかける
 バイオイメージングという手法を用いると、生きた生物の中で特定の遺伝子がどのような場所でいつ働くのかを時間を追って観察することが可能です。この方法を使って、ストレスと遺伝子発現との関係を探っています。また生物にとって有用な物質の発見を目指しています。

(2) 細胞内で物質の動きを追いかける
 女性の細胞では、二本あるX染色体の一本が丸ごと不活性化して、遺伝子が働く量を男女間で調節しています。ところが、この不活性化がどのように生じるのかは良くわかっていません。細胞内の特定の分子の動きを連続的に観察する方法を用いて、この謎に取り組んでいます。

(3) 眠っている遺伝子を起こす仕組み
 細胞で働く遺伝子のセットを切り換えると細胞の性質が変化します。誘導多能性幹細胞 (iPS細胞) はその良い例ですが、眠っていた遺伝子が起きて働きだす仕組みはわかっていません。この仕組みを解明して、この過程を制御する方法を考案したいと考えています。

分子生物


細胞工学分野

細胞工学とは細胞に遺伝子を導入したり、他の細胞と融合させたりして、人工的に細胞を変化させることで、生命現象の解明、遺伝子再生医療、バイオ産業へ役に立てる学問です。細胞工学を利用した例は、万能細胞(iPS)の作製です。ヒトの皮膚の細胞を取り出して培養し、特定の4つの遺伝子を導入すると、色々な細胞に分化することができるiPS細胞ができます。iPS細胞からは神経細胞やβ細胞ができるので、パーキンソン病や糖尿病の再生医療、さらには遺伝子治療(壊れた遺伝子を修復する)にも将来は利用できるものと期待されています。

 細胞工学分野では特に細胞工学の中でも染色体工学(染色体を自在に操作する技術)という技術を使って、遺伝子治療用のヒト人工染色体ベクター(遺伝子の運び屋)の開発、iPS細胞を用いた遺伝子再生医療、ダウン症モデル動物の作製、新薬開発に用いるモデルマウスの作製、細胞老化関連遺伝子の探索、癌抑制遺伝子を単離して癌治療に役立てる研究、などに取り組んでいます。

染色体工学は鳥取大学発の世界に誇れる技術であり、世界中の研究者(約100カ所)との共同研究により成果を発信しています。卒業生の多くは製薬会社、国内外の大学や研究所に就職して活躍しています。

細胞工学


免疫学分野

「自分」と「他者」を見分ける免疫の不思議

「自分って何?」哲学、文学、脳科学など、色々なところでこの問は現れますが、実は免疫にもこの問はあるのです。


免疫は、細菌、ウイルスなど、病気を引き起こす病原体の感染に対抗するための重要な体の仕組みです。好中球やリンパ球などの免疫を担当する細胞は、感染が拡大しないように病原体を攻撃し処理します。このとき、病原体だけが攻撃され、自分の体は攻撃されません。では免疫機構は、どのようにして病原体と自分の組織を見分けているのでしょう?

 免疫機構は、私達の細胞が持つ「これが自分!」という目印となる物質で「自分」を、逆に病原体だけが持つ物質を目印に「他者」を認識し、両者を見分けるというシステムを利用しています。しかしこの「自分」と「他者」の見分けは絶対的ではなく、時に簡単に崩れることがあります。これが自己免疫疾患のような、自分で自分を攻撃する病気につながると考えられています。私達の研究室では、「自分」を見分けるために、ある細胞が自分の体の成分をリンパ節という臓器に運び続けて、常に自分を確認しているのではないかということに気付きました。免疫でいう「自分」とは、不断の努力で維持するものなのかもしれません。

 免疫


ゲノム医工学分野

染色体上に埋め込まれている「本当の」遺伝情報を読み解く技術の開発
「ゲノム」は遺伝子「gene」と、染色体「chromosome」をあわせた言葉です。ポストゲノム時代の今、もはや遺伝情報=遺伝子=タンパク質と言う単純な話では語れません。ゲノム医工学分野は、遺伝情報をゲノム上に埋め込まれた情報としてとらえ直すことを目指します。古典的な分子生物学は、古い意味の遺伝子=タンパクを、タンパクコード配列として取り出す技術が開発された大きな花を咲かせませたが、ゲノムという幅広い領域を扱うことは不可能でした。これを可能にするのが、染色体工学技術で、ゲノムネットワーク研究を切り開いていくツールとなります。将来には、人工ゲノムや人工生命の創出にも利用できるかもしれません。

 染色体の数の異常により引き起こされる癌の研究

癌は遺伝子の異常により起こり、その結果として染色体の数や構造が異常になると一般には考えられています。新たな仮説として、遺伝子ではなくその乗り物である染色体の数の異常が原因と考え研究しています。もっと言えば、染色体は単なる遺伝情報の乗り物ではなくそれ自身が何らかの情報を担うのではないかということです。まずは染色体の動態を制御する機構、あるいはそれが癌で破綻する機構を知りたいです。その成果が癌を抑えたり直したりすること、さらには1で示した染色体操作技術の改良につながればと思います。進化の歴史は染色体に刻まれています。進化のしくみについても分かるかもしれません。

ゲノム医工学
 生体情報学分野発生の不思議と再生の不思議に挑む 

60兆個にもおよぶ私たちの体の細胞はたった1個の受精卵に由来します。この1個の細胞が母体の中で分裂をくり返し、細胞の数をふやしますが、ただ、やみくもに分裂していたら、正常な体はできません。精巧な形とある定まったサイズの組織や体が作られるためには、この分裂のスピードやいつ分裂を停めるかが適切に調節されなければなりません。私たちの研究室では、この発生の中で細胞の分裂がどのようなメカニズムで調節されているかを研究しています。その結果、胎児期の心臓に分裂のブレーキをかけるしくみがあることを明らかにしました。一方、大人になると体の中のほとんどの細胞の分裂は停止します。心筋細胞や神経細胞などは生後、二度と分裂できなくなります。母体の中にいるときは、すさまじい勢いで分裂していたこれらの細胞がなぜ、大人では分裂できなくなるかはとても不思議です。ところがとても面白いことに両生類のイモリは足、尾どころか心臓まで再生してしまいます。この際、私たちではありえない心筋細胞の分裂再開が起こるのです(図)。人間ではできず、イモリでできる、この違いは何によるのでしょうか?私たちは、マウスとイモリの両方を研究することでこの謎解きに挑戦しています(図)。この謎が解き明かされれば、私たち人間の心臓もそれから、もっと多くの組織がイモリと同じように再生できる日が来るかも知れません。

生体情報 

 病態生化学分野

血液凝固反応と炎症反応の細胞性制御機構の解明
血栓止血関連因子による細胞機能変換機構の解明

血管が破れた時、すぐに血液は固まり、血液の流出を防ぎます。どんな小さな傷口でも、もし、血液が流出し続けたら、生体は死に至ります。逆に、もし、血管の中で血液が固まったら、組織に酸素と栄養が運ばれなくなり、その部分の細胞が死にます。血液の塊(血栓)が脳や心臓の血管を詰まらせた場合、脳梗塞(こうそく)や心筋梗塞を引き起こし、生体は死に至ることも稀ではありません。
そこで、我々の研究テーマ:
1.血管損傷の際、血液はなぜ、どのようにして固まるのか?
2.血液は通常、血管の中ではなぜ、どのようにして固まらないのか?
3.血栓症では、血液はなぜ、どのようにして血管のなかで固まるのか?


 また、血液凝固反応は最も基本的な生体防御機構の一部であり、細菌などの感染部位では、血管内で血液が固まり、細菌が血流にのって全身に広まるのを防ぎます。血液凝固反応の活性化が炎症反応の活性化につながることも明らかになってきました。さらに最近、血液凝固反応機構は生体の発生に必要不可欠であり、この機構がうまく働かないと、生まれてこないことがわかってきました。なぜ、どのようにして?これらも我々の研究テーマです。


 神経生物学分野 使って育つ脳のしくみ

古来、数多くの哲学者、心理学者、脳科学者が「私とは何か?」「世界はどう認識されるのか?」など心の謎に取り組んできましたが、まだまだわからないことは山ほどあります。
もののしくみがわからないとき有効な手段の一つが、その成り立ちを調べることです。 実は、脳は時間がたてば育つというものではありません。使ってはじめて育つのです。ものを見る脳のしくみが発達する時には、きちんと「見る」経験が必要です。幼児期に眼をふさぐと、その眼の情報を運ぶ神経は発達できません。他の感覚も同じです。経験が、どのようにして、脳の発達を制御するのか? 子供の脳はどうやって育つのか?
そのしくみがわかれば、心の育ち方や、それにまつわる様々な問題の解決法もわかるに違いない。そう思って日々研究を続けています。

神経生物


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