畠教授担当分野

教授 畠 義郎グループの研究内容について

<研究内容紹介>

ヒトの乳児は、すでに驚くべき認知能力を持っています。
しかし同時に、見る、聞く、話すといった基本的な能力でさえ、その完成には、発達の際に適切な刺激や経験を得ることが必要です。
このように、ヒトの能力は遺伝的にコントロールされた成熟過程と、生育環境での経験が相互に作用することで形成されていくのです。
脳がうまく発育するためには、どんな刺激や経験が必要なのでしょうか?それらの刺激はどのような仕組みで脳の発育に影響するのでしょうか?私達は、哺乳類の視覚中枢の生後発達を研究することで、このような疑問に答えようとしています。
眼で捉えた視覚情報は大脳の視覚野という領域で処理されますが、この領域の機能や構造の発達に、生後発達期の視覚体験が重要な役割を果たしています。
この現象をモデルとして、以下のようなプロジェクトが進行中です。

1)視覚経験による大脳皮質神経回路網の調節とその分子機構の解明

発達の際に一方の眼の視覚経験が不十分だと、そちらの視覚入力は機能が低下し、形態的にも退縮します。神経の活動がいかにして神経回路の調節につながるのか、そこに関わる神経栄養因子などの機能分子、その後の細胞内シグナル伝達系の研究を通してその分子メカニズムを追求しています。

大脳視覚野

大脳視覚野にはそれぞれの眼からの情報を受け取る 領域がモザイク上に並んでいる(眼優位コラム:各眼 球に対応する領域を赤と緑で表示している)。右の2 つの図は、片眼の視覚を遮断した動物での眼優位コラ ムで、白い部分が可視化されたコラム。健常眼コラム の拡大と遮蔽眼コラムの縮小が見られる。

2)人工的刺激による神経機能の調節と視 機能再建の試み

視覚経験は脳の活動を引き起こします。では視覚機能の発達に必要な「経験」とは、どのよう な神経活動のことなのでしょう?その活動を 外から与えることで脳の発達を促したり、導い たりすることは可能なのでしょうか?私たち は幼児期の動物の視神経を、片側だけ電気パル スで人工的に刺激することで、視覚野の細胞を 刺激した眼に強く反応するよう変化させるこ とに成功しました。この結果から、外部からの 電気刺激で神経機能を誘導できる可能性が見 えてきました。 このような研究を進めることで、視覚機能が充 分発達しなかった場合に、後からその発達を人 工的に促すことも出来るようになるかもしれ ません。

3)視覚野神経回路網による情報処理原理の解明

視覚情報は、色や形、運動など様々な性質につ いて分析的に処理され、各々のニューロンはあ る特徴に選択的な活動を示します。多数のニューロン間の相互作用を解析することで、様々な 特徴を最終的に1つのイメージに統合する仕 組みの解明を目指します。

<参考文献>
  1. Kameyama K. et al. Neuroreport 16: 1447-1450, 2005
  2. Ohshima M. et al. J. Neurophysiol. 88: 2147- 2151, 2002
  3. Hata Y. et al. J. Neurosci. 20:RC57 (1–5), 2000
  4. Hata Y.et al. Neuron 22: 375-381, 1999
  5. 畠 義郎 “発達期視覚野に見られる機能と形 態の神経活動依存的可塑性” 「神経科学の 基礎と臨床 XIII 後頭葉:その機能とネッ トワーク」 (板倉徹編著、ブレーン出版), 27-42, 2005
Update : 2010-04-01