鰤岡直人先生

病態検査学 教授

鰤岡教授

鰤岡直人

鳥取大学医学部 保健学科
検査技術科学専攻 病態検査学講座 教授

研究内容

  • 新規医療機器の開発と臨床応用

ICT(情報通信技術)利用の酸素濃縮器



鰤岡教授図1

 病気のため酸素吸入が必要な患者さんは、自宅で酸素吸入をする在宅酸素療法を行っており、酸素供給源として酸素濃縮器(図1A)を利用します。この酸素濃縮器は、空気中の酸素を濃縮して濃度90%の酸素ガスを電気で作る装置です。
 在宅酸素療法を受けている患者さんの大多数は、慢性呼吸不全による低酸素血症であり、自宅で酸素吸入することによって治療をしていますが、長時間酸素吸入しなければ十分な効果を得ることができません。しかし、患者さんが酸素濃縮器を適切に使用しているか、また、吸入している酸素流量で足りているのか、従来の機器は明確ではありませんでした。
 そこで、私達は企業と共同して、この点を解決しようと機器開発に挑みました。 
 まず、生体情報(測定時刻、酸素飽和度、脈拍数)と機器情報(使用時刻、吸入している酸素流量など)を統合する仕組みを作成しました(図2)。

鰤岡教授図2

【図2システムの概要】
2つのサブシステムで構成されています。生体情報として専用パルスオキシメータで酸素飽和度を測定してもらいます。さらに、酸素ガスを発生する酸素濃縮器の稼働情報を統合します。確実な情報を持って患者さんに指導できます。

 

 患者さんが酸素濃縮器を利用すると、酸素吸入の流量が酸素濃縮器の内部メモリに自動記録されます。酸素飽和度は、動脈血液中の酸素化を示す指標ですが、患者さんは血液中の酸素飽和度を専用のパルスオキシメータを指に挟んで自己測定(図1B)することによって、測定時刻、酸素飽和度、脈拍数が自動記録されるため、煩わしい記録作業が不要です。
 また、パルスオキシメータを充電するために、酸素濃縮器本体に差し込めば生体情報と機器情報が自動で統合され酸素吸入の使用時刻帯や低酸素血症の有無などを明らかにします(図2)。
 さらに、情報通信技術(information and communication technology: ICT)を応用した遠隔モニタリング(tele-monitoring)(図3)を構築することで、得られた測定情報を専用サーバーに自動記録し、蓄積した情報を医療スタッフがいつでも確認できる、世界で初めての新しいシステムを構築しました。現在、全国の医師、医療スタッフに利用していただいています(図4)。
鰤岡教授図3
【図3 遠隔モニタリングの概念図】
患者さんが自宅で使用している医療機器に通信カードをつけて、インターネットのデータ通信で適時、稼働状況と測定値を専用サーバーに自動記録します。これは、いわゆるクラウドシステムです。保存された時系列データを客観的に判断するため、サーバーに実装した解析ソフトが図表を作成します。それらの結果を医師、医療スタッフが手の空いた時間にゆっくり確認して患者さんのより良い療養生活に役立てる新しい方法です。


鰤岡教授図4


今後の展望

 遠隔モニタリングは、ICTの発展に伴って実現できた新しい医療手段です。概念的には遠隔医療(tele-medicine)ですが、より大きな概念としては、機器にインターネットを接続して情報を得る Internet of things (I o T)に含まれます。今後、診療報酬が認められれば急速に普及していくことが期待されます(内閣府規制改革会議:プレゼンテーション)。

受験生へのメッセージ

 医学部は、難しい基礎研究のみを行っていると思われがちですが、企業と共同して幅広い研究活動を行うことができます。企業と研究を行うメリットは、実用化が前提にある点です。これまでに、加湿水が不要な膜式加湿器6分間歩行試験を定量化し近距離通信を利用して手元で測定データを確認できるパルスオキシメータなどの開発協力もしてきました。
 基礎研究とも違う、実際の臨床に即した研究で、多くの患者さんに新しいテクノロジーを届けられるという醍醐味があり、新しい医療機器を開発して実際に患者さんに利用していただき、生活の質(QOL)改善に貢献することもできます。

 皆さんと一緒に研究できる日を楽しみにしています。