この人に注目! 櫻井千恵先生

櫻井千恵先生をご紹介します。

櫻井先生

櫻井千恵

鳥取大学医学部 生命科学科分子細胞生物学講座
分子生物学分野 助教

研究内容

  • 食細胞のファゴサイトーシス過程における膜融合機構の解明

ファゴサイトーシスとは?

私たちは、外から侵入する病原微生物やウイルスを排除する免疫機能を持っています。
免疫とは「自分とは違う異物(非自己)」を攻撃し、排除しようとする体の防御システムのことです。免疫機能がなければ、私たちは生きることができません。この免疫システムで活躍するのが白血球です。白血球の中でも食細胞と呼ばれる細胞は、文字通り体内に侵入した異物を細胞内に取り込み、食べてしまいます。細胞内に取り込まれた異物は消化(殺菌・分解)されて生命維持に再利用、また一部は抗原提示に利用されます。この過程がうまく働かないと、重篤な感染や免疫異常を引き起こします。例えば、結核菌などはこの過程を巧妙に乗っ取り、食細胞による消化を回避して寄生します。
異物を細胞内に取り込み、殺菌・分解する一連の過程をファゴサイトーシス(食作用・貪食)と言います。ファゴサイトーシスは複数のステップが連続的に進行する非常に複雑な過程であり、細胞小器官(オルガネラ)(注1)と融合を繰り返しながら進行します。この融合にはSNAREタンパク質が機能することが知られています。
(注1)小胞体やリソソームなど、細胞内で固有の機能を持つ構造の総称

<図1>ファゴサイトーシス過程

食細胞

※病原微生物などの異物が食細胞に結合すると細胞膜が押し上がって異物を取り囲み(1)、細胞内へ取り込む(2)。取り込まれた異物は細胞小器官と融合を繰り返すことで、最終的に分解される(3)。ファゴサイトーシスによって分解されたものは、生命維持や抗原提示のために利用される。

ファゴサイトーシスに機能するSNAREタンパク質

私たち分子生物学教室では、食細胞の一種であるマクロファージを用いて、ファゴサイトーシス過程の研究を行っています。マクロファージは、ほぼ全ての動物が持っている細胞です。この細胞は、病原微生物などによる感染から私たちを守るために生体防御の最前線で働く、重要な役割を担っています。マクロファージをはじめとした食細胞によって取り込まれた異物は、そのままでは分解されません。細胞小器官と融合することで殺菌・分解されるのです。この融合を行うために必要不可欠なのがSNAREタンパク質です。SNAREタンパク質にはたくさんの種類があり、お互いに相互作用しながら機能することがわかっています。しかし、ファゴサイトーシスにおけるSNAREタンパク質の詳細な機構は、ほとんど未解明な状況にあります。
私たちはこれまでに、SNAREタンパク質の一つであるSNAP-23がファゴサイトーシスに機能することを報告しました。SNAP-23は、異物の取り込みと殺菌・分解のステップで働きます。つまり、体内に異物が侵入した際には、SNAP-23が細胞小器官との融合を行うことで、スムーズに異物を処理することが可能となります。

<図2>異物を取り込むマクロファージ

マクロファージ

※SNAP-23(緑)を発現するマクロファージが、酵母菌(赤)を細胞内に取り込む様子を、時間を追って撮影した写真。はじめはマクロファージの外にあった酵母菌(1)が、最終的には完全にマクロファージ内に取り込まれた(2)。
SNAP-23は取り込みに機能するだけでなく、酵母菌の殺菌・分解にも機能する。

<動画>

※SNAP-23(緑)を発現するマクロファージが、酵母菌(赤)を細胞内に取り込む様子。
矢印で示した細胞が酵母菌を取り込んでいる。(クリックすると動画が開きます。)

今後の展望

SNAP-23は、普段は細胞の恒常性(ホメオスタシス)を維持するため、細胞膜で起こる様々な融合過程に関わっています。侵入した異物が細胞に接触すると、その場所ではファゴサイトーシス過程に働くようになります。このことから、SNAP-23は必要なときに必要な場所で働くように調節されていると考えられます。つまり、機能のON/OFFの切り替えが起こっていることが予想されます。しかしながら、この切り替えがどのように起こっているのかは未だわかっていません。そこで現在は、SNAP-23の機能の調節について研究を行っています。
ファゴサイトーシスの過程は複雑であり、SNAREタンパク質としてSNAP-23だけが働いているわけではありません。いくつものSNAREタンパク質が一緒に働くことで、私たちの体内に侵入した異物の処理を行っています。そこで当教室では、SNAP-23以外のSNAREタンパク質に着目した研究や、独自の新たな解析法を確立することで、ファゴサイトーシス過程における融合機構の解明を目指しています。ファゴサイトーシス過程の詳細な機構が解明できれば、将来的に感染症や免疫異常に対する治療法の確立につながる可能性があります。

受験生へのメッセージ

これほどまでに医学・生物学の研究が進んだ現在でも、実は「わかっていないこと」は数えきれないほどあります。この「わかっていないこと」を「わかっていること」にするため、私たち生命科学科では幅広い研究を行っています。
大学での研究は、小さなものから大きなものまで常に「発見」に溢れています。実際に自分が行った研究から新しい発見があると、それだけで嬉しいものです。さらに、その発見を世界で初めて公表するということは、大きな喜びにつながります。この喜びを私たちと一緒に味わいましょう。皆さんと一緒に研究できる日を楽しみにしています。