木場智史先生

統合生理学 准教授

この人に注目!木場先生

木場智史

鳥取大学医学部 医学科
生理学講座 統合生理学分野 准教授(取材時:講師)

※以下の掲載内容は、取材時の研究内容等に基づき掲載されております。

研究内容

  • 運動・ストレス時の自律神経調節メカニズムの解明
  • 循環器疾患における自律神経機能不全のメカニズムの解明

カラダの調子は自律神経のバランスに影響されると聞いたことはあるでしょうか。自律神経をコントロールする脳のメカニズムについて研究している木場先生に話を聞きました。

自律神経とは?

自律神経は交感神経と副交感神経からなります。運動などで体を動かすと、自分の意思とは関係なく、交感神経の働きが強くなります。その結果、汗が出てきたり血圧が上がったりします。一方でリラックスしているときには、副交感神経の働きが強くなります。そして血圧が下がったりします。カラダを車に例えると、交感神経はアクセル、副交感神経はブレーキ、のようなものです。
心不全などの病気になると、交感神経と副交感神経のバランスがおかしくなります。このことはカラダの調子をさらに悪くします。

自律神経図

「心不全」と「自律神経」と「運動」

心不全の患者さんへの医療として、運動療法(運動トレーニング)があります。心不全の患者さんが医師の指示のもとに簡単な運動を継続して行うと、自律神経のバランスがよくなります。しかし、運動トレーニングがどのようにして自律神経のバランスをよくするのか、そのメカニズムはよく分かっていません。
また、心不全での運動は好ましい医療効果を持っている一方で、危険なものにもなり得ます。運動をするときの交感神経の働きの高まりは、心不全の患者さんでは強すぎるために、心臓に負担をかけるのです。心不全がどのようにして運動時の交感神経の働きを強くしすぎるのか、そのメカニズムはよく分かっていません。
これらの課題に取り組むために、以下のような実験を行いました。

心不全は、脳を介して運動時の交感神経の働きをおかしくする。心不全での運動トレーニングは、脳を介して交感神経の働きをよくする。

脳の一部である延髄(えんずい)と呼ばれる部位は、交感神経の働きを決めるのに重要であることが知られています。心不全ラットの延髄に酸化ストレスを弱める薬を入れたところ、運動による交感神経の働きが弱められることを発見しました。この結果から、延髄の酸化ストレスが、心不全での運動時の交感神経の働きを強くしすぎる原因の一つであることを突き止めました。つまり、「心不全は酸化ストレスを起こすことで脳を異常にし、交感神経の働きをおかしくする」と考えられます。
また、心不全ラットに1時間のジョギング運動を週に5回、2ヶ月間ほど行わせました。すると延髄の酸化ストレスが弱められ、運動による交感神経の働きが正常になることも分かりました。この結果から、「心不全での運動トレーニングは、酸化ストレスを抑えることで脳の異常を正し、交感神経の働きをよくする」と考えられます。
これらの結果は英国生理学雑誌に掲載され、掲載号の注目記事に選ばれました(Koba et al. The Journal of Physiology 592 (17), 3917-3931, 2014)。

※酸化ストレス…酸素から変化した物質による、生体に有害となるストレス

酸化ストレス図

受験生へのメッセージ

何かに本気で取り組むものを持って生きるのが、楽しい人生のように思います。大学は、自分が本気になって取り組めるものを勉強できるところですし、あるいは将来に本気になれるものを探すところかもしれません。将来に何をするにしろ、何かに本気で取り組むには、自分がそれまでに得た知識・教養・経験の全てが、土台になります。大学に入るための受験勉強には、面白いものだけでなく興味がもてないものもあるかもしれません。しかし、将来に何かに本気で取り組みたいなら、自分が興味をもたないものも含めて、高校生のうちからしっかり勉強しておきましょう。

取材班からの一言

今後、研究が進み、運動療法がもたらす医療効果のメカニズムが解明されることを期待します!