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蛋白質機能学部門

Division of Protein Function

分野名

蛋白質機能学分野 Division of Protein Function

電話番号

TEL: 0857-31-5270

スタッフの職名と氏名
教授河田康志
准教授 溝端知宏
助手本郷邦広
非常勤職員(ポスドク研究員)坂根勲
分野の特色

あらゆる生命活動の担い手として働く蛋白質の構造に注目し,プリオンなどに代表されるコンフォメーション病を引き起こす蛋白質の形態変化を詳細に解析すること,また,細胞内において蛋白質の構造を維持・再生する様々な分子機構の理解を深めることを目指します。

分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明

河田教授担当分野
我々の体の中では常時何千種類もの蛋白質が存在し,働いています。最近の研究により,プリオン病などの神経変性疾患を始め,我々を襲う様々な病気の原因はしばしばある蛋白質の構造に生じた異常が原因となっていることが明らかにされています。病気を治す,又は予防するという試みは将来,必ずこのような蛋白質を治療するレベルまで到達すると思われます。
蛋白質が病気を引き起こすことを防ぐためには,その病気が発症するまでの一連のプロセスを詳細に理解することが必要です。そこで,当研究部門では特に神経変性疾患であるパーキンソン病,アルツハイマー病に注目してこれらの病気の原因となっている蛋白質がなぜ病気を発症させるに至るのか,またその過程はどのようなものなのかを理解することを目的として研究を進めています。また,病気を予防する,あるいは治療するための手がかりを探っています。

<神経変性疾患の原因物質である蛋白質のアミロイド線維構造の性質解明>
蛋白質アミロイド繊維の原子間力顕微鏡写真アルツハイマー病やパーキンソン病患者の脳組織には,これらの疾病に固有の病変である「アミロイドプラーク」と呼ばれる沈殿物が神経細胞周辺で見受けられます。このアミロイドプラークを分子のレベルで解析すると1種類の蛋白質が細い糸状になり,いくつも寄り合わさって繊維のような構造体を形成していることが明らかとなりました。アミロイド線維と呼ばれるこの構造体はその後様々な病気でも確認され,これらの病気の発症に非常に密接に関連していることが示唆されています。
蛋白質のアミロイド線維は非常に頑丈な構造を持つため,蛋白質を分解する酵素の作用を受けにくく,体内からの除去が大変難しい沈殿物です。またアミロイド線維は自分と同じような線維構造の形成を促す作用も持つことが確認されており,一旦アミロイド線維が形成されると,その量が飛躍的に増えるという,病気の発症とも関係のありそうな興味深い特徴を持っています。
我々は,アミロイド線維という構造体がどのような条件において,どのような過程を経て形成されるのかをつぶさに観察し,解析することを目標に実験を行っています。アミロイド線維がどのような条件で形成され始めるかを理解し,図1に示したような原子間力顕微鏡などの実験手法を応用してアミロイドの形の特徴を調べることでこれらの構造体を解消したり,その形成を予防する手段を開発することが最終的な目標です。

<分子シャペロンによるアミロイド線維の解消の試み>
細胞の中で蛋白質が円滑に働くためにはその構造がある決まった状態を維持していることが大変重要です。ところが,細胞の内外において蛋白質を取り巻く環境が変化すると,その環境変化が蛋白質の構造に影響を及ぼし,蛋白質の形が変わって働かなくなることがしばしばあります。そこで,細胞の中には,このような蛋白質の構造を維持・管理することを専門とする一群の蛋白質が存在します。これらの一群の蛋白質を「分子シャペロン」と呼び,蛋白質の形の維持・管理のあらゆる側面をサポートする重要な蛋白質群です。
我々は,この分子シャペロンがアミロイド線維を解消・予防する力があるのではないかと期待し,分子シャペロンの機能発現機構をまず詳細に研究し(蛋白質機能学部門,溝端助教授のページを参照),アミロイド線維に対する様々な分子シャペロンの効果を評価しています。近い将来に,分子シャペロンが有効な治療薬として使用できることを期待しています。

溝端助教授担当分野
<研究内容紹介>
我々の体の中では常時何千種類もの化学反応が進行しており,この反応が生命を支えています。この反応が円滑に進むために数多くの蛋白質が機能しています。蛋白質が円滑に働くためには,その蛋白質が持つ固有の「形」,立体構造が正しく形成されていることが重要です。蛋白質の立体構造は本来とっても不安定なものであるため,細胞内のちょっとした環境変化にも影響を受けやすく,ひいては,その働きにも影響が及びます。細胞の中では,このような環境変化に対応し,蛋白質の構造を維持,再生することを専門とする「分子シャペロン」蛋白質が存在します。当研究部門では,この分子シャペロン蛋白質の働きを様々な実験手法を用いて解析しています。

<分子シャペロンによる蛋白質構造の維持・再生メカニズムの解明とその応用>
蛋白質の誕生,蛋白質の構造維持,そして蛋白質の分解と,蛋白質の「一生」を通して数多くの分子シャペロン蛋白質が作用していることが知られています。その中でも,蛋白質の通常の構造を維持し,円滑に働き続けるように調節する働きを持つシャペロニンと呼ばれる一群の蛋白質は非常に熱心に研究されています。シャペロニンは分子シャペロンの中でも特に直接蛋白質の構造再生反応に作用する蛋白質で,ダメージを受け,構造が崩れてしまった蛋白質が非特異的に会合して沈澱してしまうのを阻止する働きを持っています。シャペロニンは非常に大きい「かご」のような構造を持ち,この「かご」の中に形が崩れた様々な蛋白質を取り込み,他の蛋白質から「隔離」することで会合を防ぎます(図1)。
蛋白質機能学部門ではシャペロニン蛋白質の様々な部位に遺伝子変異を導入してその効果を調べたり,様々な分光学的手法を用いてシャペロニンを観察することを通して,この蛋白質がどのように動き,蛋白質分子を隔離して安全に避難させるのかをできる限り詳細に解析する研究を行っています。このような研究を通してシャペロニンがどのような蛋白質に対して作用できるのか,どのような条件でもっとも効果的に働くのか,その条件を明らかにし,将来的にこれらの蛋白質を応用して疾病の治療法や予防法の開発を目指しています(蛋白質機能学部門,河田教授のページを参照)。

GroE1. 代表的なシャペロニン蛋白質,大腸菌由来GroE蛋白質の構造模型図。GroEは合計21分子の蛋白質が会合して存在しており,14分子のGroEL蛋白質(赤,緑)と7分子のGroES蛋白質(青)からなる。7分子のGroEL(赤)と7分子のGroES(青)が会合して「かご」が形成される(左)。右はGroEを上から見た図。

<超耐熱性細菌由来酵素の構造解析>
自然界の中には人間が生育できない,きわめて過酷な条件で生き続ける生物が数多く存在します。これらの生物の中でも化学反応は生命を支えており,その化学反応を円滑に進めるために蛋白質が活躍しています。過酷な条件で成育する生物の蛋白質はその条件に耐え抜くことのできる「頑丈」な構造を持っています。当部門では,このような頑丈な蛋白質がなぜ頑丈なのか,その仕組みを理解し,これをほかの蛋白質に応用してより安定な有用蛋白質を作り出すための研究を行っています。様々な検査薬や,治療薬にも蛋白質が応用され続けます。この研究を通して「より使いやすい検査薬」,「より有効な薬」が誕生することが期待されます。

2010-04-01