脳病態医科学分野

Division of Neuropathology

分野名
脳病態医科学分野 Division of Neuropathology
 
住所
〒683-8503 鳥取県米子市西町86
電話番号
TEL:0859-38-6783
FAX:0859-38-6789
スタッフの職名と氏名
准教授 加藤 信介 kato@med.tottori-u.ac.jp
兼任 鳥取大学医学部附属病院・診療教授
兼任 鳥取大学医学部附属病院病理診療科群神経病理診断科・科長
助 教 北尾 慎一郎 sskitao@yahoo.co.jp
兼任 鳥取大学医学部附属病院病理診療科群神経病理診断科・副科長
特命職員 板木 紀久・臨床検査技師
技術補佐員 安井 順子・臨床検査技師
事務補佐員 織田 佳奈
分野の特色

神経病理学全般を専門とする教室である。その使命は、研究・教育・診療の「3本の矢」に集約される(図1)

1)研究分野としての特色

神経難病、特に筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)新規治療薬の開発は、2009年より当該教室が最も総力を挙げている研究プロジェクトの一つである。当該プロジェクトは2012年晩秋に日本における特許取得(特許第5110536号)を成功させ(図2)、翌月には米国においても特許取得(特許US8318792B2号)を可能とした(図3)。当該プロジェクト成功の基盤は、ALS症例(図4,5左下)を含むヒト剖検例2,200例の脳の詳細で膨大な知見と、ALSモデル動物の中枢神経組織の詳細かつ膨大な知見の集積と両者の活用に基づく。即ち、当該教室における研究は、ヒト(図6)と疾患モデル動物(図7)とにおける神経病理学的類似点及び相違点の知見の蓄積とその活用を基盤とするトランスレーショナルリサーチである。同特許は国内のみならず国外からも高く評価されている。
図2.3
(図2、図3)

図4.5
(左 図4)(右 図5)
図6.7
(左 図6)(右 図7)

図1.脳病態医科学分野における使命は、図に示している如く、研究・教育・診療であり、各使命を「3本の矢」にたとえている。3本の矢の最終目標は、最適な学生教育と患者の完全なる救済である。

図2.日本における筋萎縮性側索硬化症治療薬の特許証。

図3.米国における筋萎縮性側索硬化症治療薬の特許証。

図4.正常脊髄と筋萎縮性側索硬化症(amyotrophic lateral sclerosis: ALS)脊髄の肉眼像。
右のALS脊髄は、左の正常脊髄と比べて細くなっており、約60%以下のボリュームに減少している。

図5.運動神経細胞である脊髄前角細胞の病理組織標本(左右は同倍率、ヘマトキシリン・エオシン染色標本)。
左の正常脊髄前角細胞は、10個以上存在している。それに対して、ALS脊髄前角細胞は3個しか存在せず、7個以上の前角細胞はALSによる細胞死のために、消失している。

図6.スーパーオキシドジスムターゼ1(superoxide dismutase 1 : SOD1)遺伝子異常を伴うヒトALSの病理組織像。
上は、ヘマトキシリン・エオシン染色で染めたものである。SOD1遺伝子異常を伴うALSに特徴的な所見であるレビー小体様硝子様封入体(Lewy body-like hyaline inclusion: LBHI)が脊髄前角細胞内に認められる(黒矢印)。アストロサイトも脊髄前角細胞と同様に遺伝子学的には、SOD1遺伝子異常を伴うため、LBHIと同様な構造物であるアストロサイト内硝子様封入体(Astrocytic hyaline inclusion: Ast-HI)が認められる(中心部に挿入されている図中)。このAst-HIの発見は、我々が世界で初めて同定したものである(赤矢印: Kato S et al. Am J Pathol 151:611-620, 1997)。
下は、上と同一の標本を、ヘマトキシリン・エオシン染色を脱色した後、SOD1免疫染色したものである。上記のLBHIとAst-HIの両封入体が、SOD1遺伝子異常に関連してSOD1に陽性を示している。

図7.SOD1遺伝子異常を伴うALSモデルマウスの病理組織像。
ヒトALS(図6)と同一のLBHI(黒矢印)及びAst-HI(赤矢印)の両封入体が認められる。

また、アルツハイマー(Alzheimer)病に対する新規治療薬開発プロジェクトについても2009年より強力に推進しており、現在新しい知見の集積が進み、アルツハイマー病新規治療薬に関する研究を実施している。当該プロジェクトは、アルツハイマー病モデル動物(図8右側)に特徴的な神経病理学的知見の集積を基盤に、ヒトアルツハイマー病剖検症例(図9)との神経病理学的類似点及び相違点の知見とその活用を実施することによるヒトアルツハイマー病新規治療薬開発研究プロジェクトである。現時点では、アルツハイマー病モデル動物においては、新規治療薬はすでに病理学的改善を示すところまで研究が進んでいる。
図8
図8.アルツハイマー病モデルマウス。

図9
(図9)

図9.ヒトアルツハイマー病。
左は、アルツハイマー病の大脳を上から見た図である。
右上は、左図の大脳を赤線の部位で切断した割面であり、大脳が高度に萎縮しているのが確認できる。
右下は、アルツハイマー病で特徴的に出現する老人斑の病理組織像である。


アルツハイマー病の容易且つ正確な早期発見に関して、神経病理組織学に基づいたシステム開発の研究プロジェクトにも積極的に取り組んでいる。ヒトアルツハイマー病に関しては、長谷川式と呼ばれる約10分程度で終了する簡易知能評価検査がある。アルツハイマー病モデル動物を使用したアルツハイマー病新規治療薬研究においては、アルツハイマー病モデル動物の当該薬剤の有効性を神経病理組織学に確認するのに、1クールの実験におよそ2年の歳月を要してしまう。この対抗策として、アルツハイマー病モデル動物の生存中のいかなる時期から認知障害が出現しているのかを容易且つ正確に同定することが喫緊の課題となっている。そこで、当該分野は、工学部・農学部共同獣医学部と共に異分野・横断的研究プロジェクトとして、ヒト長谷川式簡易知能評価検査に相当する、アルツハイマー病モデル動物における簡易知能評価検査のための解析ソフトの共同開発を実施している。

最も基本的且つ重要な業務としてのブレインカッティング(図10右側)・神経病理カンファレンス・神経病理抄読会・臨床病理合同カンファレンスを精力的に実施している。これらの業務は、神経病理学に興味のある医学部学生、大学院生、研修医、医師に対して広く門戸を開いており、地域医療における神経学研究の神経病理学分野を支援している。 当然、当該分野は神経病理学全般を専門とする教室であるので、上述した研究プロジェクトに加え、変性疾患・脳腫瘍・血管障害・感染症・脱髄・中毒・発達障害などの全ての神経疾患をカバーしている。実際に、当該分野の研究論文は、神経病理学全般に及んでいて、英文一流紙への採用が多い。

脳病態医科学分野長の加藤信介は、2005年より米国神経病理学会雑誌(Journal of Neuropathology and Experimental Neurology: JNEN)におけるEditorial Board Memberの重責を担いながら、神経病理学全般にわたる世界一級の米国神経病理学会投稿論文に関して詳細な査読と英文回答を行っている(図11)。また、筆頭著者および共著者としての加藤信介の英語論文はすでに100編以上に及んでいることと相まって、当該教室の環境が英語に対してfamiliarである。鳥取大学医学部を志望する鳥取県内の高校生を含めた、医療英語・英語表現法・小論文作成法・顕微鏡標本(神経病理学)・脳(神経解剖学)・治療困難な病気(神経難病)・神経の仕組み(神経科学)・神経の病気(神経学)・医学一般に興味のある人材に対して、広く開かれた、自由で、多様な研究・学習の場を提供することを第一目標としている点も地域支援医学部基礎研究教室としての脳病態医科学分野の特筆すべき特色である。


図10
図10.脳病態医科学分野でのブレインカッティングの様子。

図11
図11.米国神経病理学会雑誌におけるEditorial Board Memberとしての重責も担っている。

2)教育分野としての特色

医学科1年から6年生までの医学部学生には、神経解剖学から神経病理学・神経病理診断学クリニカルクラークシップまでを連続して教育している。具体的には、1)医学部医学科学生講義:基礎生物学(医1年)、基礎神経学(医2年: 図12)、神経病理基礎病態学(医2年)、神経病理基礎医学セミナー(医2年)、脳の世紀(全学共通)、2) 医学部医学科学生実習:生物学実験演習(医1年)、脳解剖学実習(医2年)、神経病理学実習(医2年)、3) 研究室配属神経病理学学生指導(医3年)、4) 病理診療科群神経病理診断学クリニカルクラークシップ(医6年)という神経系に特化したプログラム教育を実施している。医学部医学生教育に加え、生命科学科学生と医学系研究科医学博士課程大学院生を受け入れており、生命科学科4年生卒業研究教育と医学系研究科医学博士課程大学院生研究論文教育を精力的に行っている。また、大学院医学系研究科講義として脳神経病理学特論と脳神経病理学演習、医学部生・大学院生・研修医・鳥取島根地域勤務医を対象としてALS治療薬特許取得過程教育セミナーを行っている。卒後臨床教育としては、病理診療科群の創設に伴い当該分野は臨床部門も担うために、研修医のローテートの一翼を担うのみならず、鳥取大学医学部附属病院籍医員の受け入れが可能になっている。今までは神経病理学の専門的教育と病理専門医取得のための教育との整合性が困難であった。
2013年4月より脳病態医科学分野・分子病理学分野・器官病理学分野・病院病理部が一体となったことにより、各病理分野が密接に協力して、神経病理学と一般病理学とが同時に教育できる環境が完備された。当該分野は、神経病理学の専門的教育・研究・研修と病理専門医取得を目指す病理医のための研修機関としては、他に類を見ない、最も環境が整った診療・研究・研修機関となっている。当該分野にファイリングされている約2,200の剖検脳と約3,000の脳腫瘍関連の生検標本は、現在、デジタルシステム化によるデータベースを作成し、直ちに教育に還元できるよう整備を行っている。この完成により、当該分野がもつ教育教材資源は、国内のみならず世界にも類を見ない資源となり得る。これらを十分活用することにより医学部学生・医学部大学院生のみならず、医学部以外の学部学生・大学院生をも幅広く含めた全ての神経系領域における教育が可能となる。さらに、当該分野におけるルーチン業務のひとつであるブレインカッティングに鳥取県内の高校生が積極的に参加できることを目指しており、現在、当該コンプライアンスへの配慮を含めて準備を進めている。参加した高校生達が将来鳥取大学医学部を目指す動機づけになり、地域医療のボトムアップおよびトップアップに貢献することを目標とする。また、医師に限らず、学習意欲のある医学部医学科・生命科学科・保健学科の学生に対して、広く門戸を開放し、24時間利用可能な快適な教室とすることも目指している。

図13
図12.基礎神経学での講義の様子。

3)診療分野としての特色
2013年4月、鳥取大学医学部附属病院内に、日本で初めて神経病理診断科が創設された。2014年2月には日本神経病理学会により、神経病理診断科は脳病態医科学分野と共に日本神経病理学会認定施設に承認された。従来まで外科病理診断を一手に担っていた病院病理部に加えて、より高品質な病理診断の実施と患者へのより高度な病理診療サービスの提供を可能にするために、医学部3病理分野(脳病態医科学分野、分子病理学分野、器官病理学分野)が、病院病理部と融合する新体制を整え、病理診療科群を完備した。鳥取大学医学部附属病院神経診断科外来として、外来受付事務員と外来看護師の各人員の配置も完備している。病理診断科外来診察室では、外来看護師立ち会いの下、実際の病理標本の供覧を実施するための顕微鏡モニターを使用しながら、患者に病理所見に基づいた病因・病態を含めた病理外来診療を実施している。
HP作成担当者名
加藤 信介