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生命科学科(病態生化学)岡田研究グループが世界に先駆け、がん細胞の肝転移を決定するタンパク質の同定に成功


 このたび、本学医学部生命科学科(病態生化学)岡田太教授の研究グループが、がん細胞の肝転移のしやすさを決定するタンパク質として、Amigo2を世界に先駆けて明らかにしました。
このAmigo2は、実験動物のがん細胞の肝転移だけでなく、ヒトの胃がんや大腸がんの肝転移に関わることや、これらのがん患者の予後にも密接に関連することを見出し、本研究成果は、2017年3月8日午前10時(現地時間)に英国Nature Publishing Groupのオンライン科学誌「Scientific Reports」に公開されます。
今後は、Amigo2に対する抗体医薬や分子標的薬などの開発を通して、がん細胞の肝臓への転移に向けた予防や治療が期待されます。


 

研究背景
がん患者の死亡原因の約90%は転移で占められています。がん転移に関する研究は150年以上にわたり続けられておりますが、転移メカニズムの詳細はまだ解明されておりません。従って、人類は未だにがんの転移に対する治療法や予防法を手に入れていないことになります。

肝臓は、所属リンパ節を除きがん細胞が最も転移しやすい臓器であることが知られています。すなわち、肝臓への転移を決定する特定の遺伝子やタンパク質の存在を明らかにすることは、転移のメカニズムを解明するだけでなく、がん死に直結する肝転移の治療法や予防法を開発する上でも喫緊の課題となります。本研究は、肝臓への転移能が極めて低いがん細胞から、実験的に肝臓へ転移する能力の高いがん細胞株を作り、肝転移に関わるタンパク質(ドライバー分子)の決定を行いました。

 

研究成果
肝臓への転移活性が極めて低いマウスのがん細胞(親がん細胞)から、肝臓へ転移しやすい細胞株(肝転移がん細胞株)を実験的に作り出しました(図1)。この肝転移がん細胞株にはAmigo2が増加しており、これをsiRNA(*用語参照)導入によりがん細胞中のAmigo2を減少させると肝転移が低下しました(図2)。一方、肝転移能が乏しい親がん細胞にAmigo2の遺伝子導入によりその量を増加させると、肝転移が増えることも確認しました(図3)。

さらに、胃がんあるいは大腸がん患者の原発組織と肝転移組織を比較したところ、いずれの患者の肝転移組織においてもAmigo2が増加していることを明らかにしました(図4)。加えて、Amigo2が増加しているがん患者では,予後が不良であることも確認しました。

Amigo図1

<図1>
親がん細胞をマウスの脾臓内に移植すると、血流に乗って最初に肝臓に流れ着き、僅かながら肝転移を起こします。肝臓へ転移したがん細胞を再び別のマウスの脾臓内に移植するサイクルを12 回繰り返したところ、肝臓への転移活性の極めて高いがん細胞を得ました。この肝転移がん細胞株にはAmigo2が増加していました。

Amigo図2
<図2>
発光するように遺伝子操作した後に、親がん細胞をマウスの脾臓内に移植すると、肝臓へほとんど転移を起こしませんが(図左)、肝転移がん細胞株では肝臓に強い光(がん細胞の存在)が観察され、転移していることが分かります(図中央)。
一方、肝転移がん細胞のAmigo2を減少させると、肝臓での光が検出されず、転移が抑制されました(図右)。Amigo2は、がん細胞の肝転移に関わることが分かりました。


Amigo図3
<図3>
親がん細胞のAmigo2を増加させると、肝転移数が3倍以上に増えました。一方、肝転移がん細胞のAmigo2を減少させると肝転移数は1/3以下に低下しました。


Amigo図4

<図4>
大腸がん患者の原発の腫瘍組織と肝転移組織のAmigo2の量を調べました。Amigo2タンパク質が褐色に見えるように染色すると、原発組織のAmigo2はほとんど見られないのに対し、肝転移組織では強く染まりました(拡大図)。胃がん患者の肝転移においても同様の結果でした。


今後の展開
Amigo2は細胞表面に存在するタンパク質であることから、抗体や低分子化合物のターゲットとなることが予想されます。本研究成果は、Amigo2を標的とした新たな「肝転移に対する治療や予防のための創薬開発」などに繋がることが期待されます。

 

<掲載論文> 
題名:Amigo2-upregulation in tumour cells facilitates their attachment to liver endothelial cells resulting in liver metastases
雑誌名:Scientific Reports (出版社:Nature Publishing Group)
オンライン版URL:www.nature.com/articles/srep43567

 

 <用語解説> 
ドライバー分子
 ドライバー分子とは、発がんや転移に直接関わる遺伝子やタンパク質の中で、その量を変化させるとそれに応じて発がんや転移が増減するもの。
 肺がんや白血病などでは、発がんに関わるドライバー分子が複数発見されています。これらの分子を標的として阻害する薬の開発も進み、実際に臨床で使用されています(分子標的療法)。
  肝転移のドライバー分子であるAmigo2を標的とした薬剤開発が今後期待されます。

 Amigo2
 Amigo2は細胞表面に存在するタンパク質で、これまでに神経細胞や血管内皮細胞の生存や、胃がん細胞の増殖に関わることが報告されてきました。しかし、がん細胞の転移に占める役割は不明でした。

 siRNA
 21-23塩基対から構成される小さな2本鎖のRNAです。siRNAは、タンパク質を合成する時の鋳型となるmRNAに直接結合してタンパク質の発現を抑制します。本研究は、Amigo2のmRNAに選択的に結合するように設計されたsiRNAをがん細胞内に入れてAmigo2タンパク質を減少させました。