【プレスリリース】(脳神経小児科)

飲んで効く脳障害の治療法(シャペロン療法) 遺伝性の神経難病が治療可能に!


 このたび、本学医学部の脳神経小児科学分野を中心とする多施設共同研究チームが、遺伝性神経難病の1つであるゴーシェ病に対する新しい治療法(シャペロン療法)の有効性を世界で初めて報告しました。この結果は、ゴーシェ病の神経症状に対して早期に使用することで進行を止めることができる可能性を示唆しています。



【研究概要】
遺伝性難病の種類は7,000以上ありますが、中枢神経症状に対する治療法はまだ確立されていません。中枢神経症状の治療を目指した分子や細胞レベルでの基礎研究は世界中で行われてきました。シャペロン療法は、その一つでシャペロン化合物と呼ばれる低分子物質を経口投与することで患者さんの持つ酵素タンパクの働きを改善し、結果として全身の臓器の機能の改善を図る治療法です。多くの薬剤は、血液脳関門という脳に入っていく物質のバリア機構のため、脳に入っていかず、治療は困難です。 しかし、シャペロン療法では、脳の中に入っていくことが可能な低分子化合物を使うため、中枢神経への効果が期待されます。

【背景】
ゴーシェ病は、遺伝性難病の一つで、全ての細胞のライソゾームにある酵素(βグルコセレブロシダーゼ)の活性が低下することが原因です。現在、この病気には酵素補充療法という点滴による治療が承認されていますが、血液脳関門を通らないため、神経症状には無効です。 【結果】 本研究は、重篤な脳障害を起こしているゴーシェ病の患者さん5名に対し、既に去痰剤として日本で広く使用されているアンブロキソール(市販薬ムコソルバン)を長期間経口投与し、その有効性を確認したものです。これらの患者さんは、長年、神経症状に悩まされてきましたが、ミオクローヌスとけいれんが著しく改善しました。通常より大量のアンブロキソールが必要ですが、重大な副作用はなく、安全に長期間投与ができています。

【今後の展開】
以上の結果から、ゴーシェ病の神経症状に対して早期に使用することで症状の緩和のみならず進行を止めることができる可能性があります。また、現在治療法のない他の多くの遺伝性神経難病に対する新しい治療法として研究や臨床応用されることも期待されます。 なお、本研究は、アメリカの学術誌「Annals of Clinical and Translational Neurology」に2月2日に掲載されます。 つきましては、取材についてご理解とご協力を賜りますようよろしくお願い申し上げます。

(語句説明)
■ゴーシェ病・・・肝臓や脾臓が肥大して血球減少を来す非神経型と神経症状を伴う神経型があり、
                      日本では約 2/3が神経型であるとされています。

■ミオクローヌス…手足が本人の意志とは無関係にピクつくことであり、これにより歩行や手の
                           動きが障害される。