法医学分野

Division of Forensic Medicine

分野の特色

 本来,法医学は基礎医学ではなく,実務を中心とした実践的医学領域のひとつです.種々の外因死や突然死などの法医解剖を通して,法律上問題となる医学的事項を検査・研究し,問題点を解明することにより,法律的な解決に寄与しています.

分野での主要な研究テーマとその取り組みについての説明

①中枢神経系・内分泌系器官の形態学的および分子生物学的研究
 ストレス応答は, 細胞が持つ最も基本的な生命現象の1つであり, その破綻は, 心筋梗塞などの循環器疾患, 脳卒中などの中枢神経系疾患, また炎症, 悪性腫瘍や神経変性のみならず, 法医学領域における“過労死”などの急性疾病のストレス因性発症あるいはヒト特異的な行動ともいえる“自殺”の要因ともなっています. 一方, 中枢神経系, 内分泌系および循環器系のインターフェースとして働く下垂体は, 内分泌学上極めて重要な存在であり, 特にストレスに対するホルモンの表現パターンを評価することでストレスの程度を判定できる可能性があります. これまで, 様々なストレスによる死へのプロセスを解明すべく, 加齢性変化, 低栄養の影響, 異常環境温度下の影響, 自他殺の鑑別, 剖検例における種々の病態に対するホルモンの反応, アルコール・薬物の影響, 各種器官培養細胞を用いた薬剤感受性やマウスを用いたストレス環境下における薬物の影響, 脳死状態における下垂体の変化などに関する研究を行ってきました.これらの研究結果から, 下垂体を中心とした中枢神経系・内分泌系の検査によって法医学分野における様々なストレスを評価することが可能で, 法医実務への応用が期待されます.

②エビデンスに基づく客観的な法医病理診断のための生理生化学検査
 法医解剖例の死亡時の病態分析における指標は, 傷病発生あるいは発症時の急性反応, すなわち循環, 呼吸および中枢神経系機能を含む全身的な反応の目安となるものです. これまで, 法医実務のルーチンワークとして, 全自動臨床検査システム(生化学的検査), 免疫染色キット(免疫組織化学的検査), RT-PCRによる遺伝子発現の分析(分子生物学的検査)を組み合わせた精密検査を行い,法医学のルーチンワークに応用しています.

③法医遺伝学的な個人識別法の開発
 法医学的生物試料の個人(個体)識別として,反復配列型の多型(STR)による個人の同定,単一塩基置換多型(SNP)と色素形成などの表現型との関連や東アジア人の遺伝的特徴を人類学的に研究しています.これらの応用として(ほぼ)日本人特異的遺伝子の検索や方法の開発を通じて日本人であることの証明法の確立を目指しております.

④先天性グリコシル化異常症の検索
 Congenital disorders of glycosylationのうち,N型糖鎖合成異常について血清トランスフェリンやアポリポプロテインCIIIの等電点電気泳動による検索ならびに原因遺伝子の同定による診断をおこなっております.

⑤死後CT画像を活用した歯科身元確認法の開発(2019年4月 科学研究費採択研究)
 Ai(死亡時画像診断)を活用し、歯科個人識別を客観的に評価する方法を研究しています。死後CT撮影から得られたパノラマ再構成画像と生前のパノラマX線画像を用いて数値的に比較照合を行う方法を完成し、現在実装に向けて研究を続けています。

 

スタッフ

教授    飯野 守男
准教授   中留 真人
特任教員  藤本 秀子
事務補佐員 香川 明子

 電話番号

TEL 0859-38-6123

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